ガチャ901回目:悪引き
エンキだけでなく、エンリル、セレン、そしてイリス&アグニのチームも、程度の差はあれ同様にお使いを完了していった。しかし――。
「モンスターの言うことなんて信じられるかよ!」
キュビラは運悪く、モンスターとは相容れない思想の持ち主と遭遇していた。
「これは本当にレアモンハンターが書いた内容なのか? いまいち信用ならねえんだよな」
「でもさあ、来てるってのはほんとなわけじゃん? あんな通知を起こせるのはあの人くらいだし、そう考えれば今日ここで第五層に辿り着いててもおかしくはないと思うぞ。わざわざ騙しに来てるとは思えないんだけど」
「んなことは分かってんだよ。けど、コイツが本物だったとしても、人類の敵であるダンジョンボスだったのも事実だろ。研究所が『テイム』は洗脳とは違うって研究結果も出してたし、そんな奴が家畜になったからって、本気で人類の味方になるなんて安易に考えすぎだろ」
『……』
現実は非情である。キュビラは、ショウタから離れたことで、今まで忘れていたその事実を改めて思い知らされていた。ショウタの『運』によるカバー力は凄まじく、自身だけでなく周囲にいる身内もまた不運から守られている気がする。だが、ひとたび彼から距離を置けば、その加護は急激に失われ、本来の現実が牙を剥くのだ。
目の前の人間達の心無い言葉によって、向こうの世界で経験した苦い記憶がフラッシュバックしていた。
「で、どうするよ」
「対策もして来たし、レアモンスターくらい俺達だけでも倒せる。むしろ、こんな奴の後をついていく方が危険だね」
「……なあ、これレアモンハンターの機嫌を損ねたりしねえよな? あの人のお手付きに手を出そうとしたら社会的に抹殺されたって噂を聞いたことあるんだけど」
「はっ、それは人間の話であって、こいつらはテイムされたペットだ。家畜を家畜として扱って何が悪いんだよ」
「そうかもだけど……」
「おいお前、話は聞いてたか? こっちは好きに動くが、そこのアイテムは置いて行けよ」
『……っ』
キュビラは踵を返し、何も言わずにその場から走り去った。背後からは言葉を返さないキュビラへの悪態が漏れ聞こえたが、彼女は構わず走り続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
『ドドドド!』
「ほっと」
『ふふーん』
巨大な胴体が金属の壁から飛び出し、別の壁へと入り込んでいく。俺とアズはそんな知覚外の食らい付き攻撃をジャンプで回避し、再び迫り来る攻撃を予測しまた回避に移る。
*****
名前:戦略兵器ver1.0 Type巨大蚯蚓
レベル:155
腕力:1600
器用:1800
頑丈:1800
俊敏:1200
魔力:0
知力:1000
運:なし
【Aスキル】隠形Ⅲ、気配断絶Ⅲ、気配感知Ⅱ、反響定位Ⅱ、悪食LvMAX
★【Eスキル】金属同化、一体化、自由自在、溶解液、丸呑み、高速消化、捕食者の魂
装備:なし
ドロップ:迷宮蚯蚓の配線
魔石:極大
*****
俺とアズは予定通り、最初に沸いたレアモンスターと遭遇。ターゲットを切らさないよう戦闘という形を取ってはいたが、念のため作戦が完了するまでは討伐したりはせずにキープし続けることに専念していた。
『……マスター』
「ん?」
『キュビラ、危惧した通りになっちゃったみたいよ』
回避をしながら俺はマップを開いた。全開放していないマップでは、相変わらずほとんどが真っ暗なままだが、そんな余白の暗闇部分には仲間の青点がいくつか記載されている。その内の高速で動いている青点をタップしてみれば、表情だけでなく耳でも尻尾でも、全身で悲しみを体現しているキュビラの姿が映し出された。
全力ダッシュしてるし、後続には誰もいないんだろう。
「やっぱ遭遇しちゃったか。……泣いてはいないな」
『あの子は強い子だからね』
「俺の嫁を泣かせたら半殺しじゃ済まなかったが……とりあえず、録音機材は渡してるし、あとでどんな言葉を投げかけられたか聞かせてもらうか」
『マスターは聞かない方がいいんじゃない? どうせ碌でもないでしょうし、あとであたしが確認しておくわ』
「……アズが聞いても、キレて殺しに行くのは無しな?」
『……~♪』
口笛吹きながらそっぽを向いた。アズもなんだかんだ身内には甘く敵には容赦ないから、やりかねないんだよなー。
「駄目だからな。お前たちの肩身が余計に狭くなる」
『マスターが殺すのは良いわけ?』
「社会的に殺すだけだから問題はない」
『……はぁい。あ、マスター』
「今度は何だ」
『この階層のレアモンスターの数が、一気に8体増えたわ』
「ああ~……」
アズやキュビラは討伐してもカウントが別だが、エンキ達は俺と共有している。だから、一気に100体以上のモンスターを個別に討伐したことで、累計800体分討伐した判定になったのだろう。
キュビラが1体で、エンキ達が合計700以上800以内の討伐ってところか。
「出現場所は?」
『ううーん、やっぱり討伐者よりも離れた場所で出現するルールで間違いないわね。それと、人がいる付近では出現しないみたいよ。今のところ無害な位置をグルグルしてるわ』
「ふむ」
湧いた瞬間エンカウントなんて事は起きないってことか。それでも、このレベルの怪物が無作為に出現するってのはなかなか怖い階層だが……。今までこんな事故が起きていないのが奇跡みたいなもんだな。でも100体討伐を同じ奴がやらないといけない訳だし、レベル的にも必要な『運』は相当だからな。……ん?
「なあ、ここのレアの目撃情報ってそもそもあったのか?」
『ええ、あったわよ。なにせこの図体だし、動けば地面も壁も揺れるから、すぐに位置が特定できるって話よ』
「危険視は?」
『最大級にされてるわね。なんせ、討伐された回数は数えるほどしかなく、それも半壊した上での討伐だから、遭遇時の生存率は絶望的とされているそうよ』
「おおう」
そんなものを合計9体も呼び出しちゃったわけか。
『ま、この階層に来る連中はどいつもそれの危険性は理解しているはずよ。だから、マスターの提案を蹴ってまで残る選択をした連中がいても、ある程度勝てる見込みがあるはずだし、心配は無用だと思うわ』
「でもそれ、レアモンが1体だけの計算だよな?」
『♪』
「アズー」
『ふん。マスターの手を払いのけるような礼儀知らずな人間なんて、どうでも良いわ』
まあ、仕方ないか。俺もやる事はやったし、それで自滅するなら自業自得だ。
『ドドド!』
「ふんっ!」
『ドゴッ!!』
攻撃を回避されまくったデカミミズは、今度は頭上から食らいつこうとして来た。なので俺は巨神の剣の腹を使って、その顔面を横から殴り飛ばした。
普通ならそれだけでも致命傷になりかねない一撃でも、奴は壁にぶつかっても激突はせず、そのまま壁の中へと吸い込まれていく。やっぱコイツを倒すには、壁への激突を狙うのではなく、純粋に切断するのが望ましいか。
ま、それくらいならなんとでもなりそうだな。
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