ガチャ900回目:迷宮の罠
衝撃波……いわゆるソニックブームで前方の敵を半壊させた俺は、すぐさま追い討ちをかける。無傷の敵は居らず、その動きも鈍いため、逃げる隙を与える事なく殲滅に成功した。続けて背後に残した3体を倒そうと振り向いたタイミングで、俺は足を止める。
「……お?」
壁と天井から生えていたはずの雑魚連中がいなくなっていた。奴らの根っこが繋がっていた場所にも切れ込みはない。どうやら、片方を殲滅している間に移動をしたようだ。
気配を察知しようとするが、ダンジョン構造物の内部を移動されてはどうしようもない。だが、マップを見れば丸わかりだった。丁度今、俺の真横を通り抜けようとしていた。
「ええい面倒くさい。エンキ、吊り出せ!」
『ゴゴ!』
エンキが壁を殴りつけると、壁が波打った。そして連中のいる場所まで衝撃が伝播し、爆発する。
『『『!?』』』
ダンジョン構造物の内部を自在に泳げるのなら、その能力を行使中に衝撃を受ければどうなるか。答えは簡単で、奴らの全身が壁の内部から弾き出された。
さっきまでは一部しか顔を出していなかったから全容はわからなかったが、見た目は2メートルほどの長さで、メタリックな外装のミミズみたい感じだった。こんなのがダンジョンの壁を泳いでいるのか。中々に気持ち悪い。
「ふんっ!」
なので俺は、陸に打ち上げられた魚のようにビチビチと跳ねるそいつらを1体1体叩いて処理する。
「うわっ……」
なんだこの感触は。明らかに殴った感触は硬質的な金属なのに、ぶよっとしているというか……。ミミズのようにくねくね動くんだしそうなるのも分からんでもないんだが、見た目も感触も気持ち悪い事この上なかった。
これは、武器チェンジせざるを得ないな。ここはまあ……グラムで良いか。
「よし、そんじゃ道沿いに進んで行こう。エンキ、隠れてるやつの炙り出しを頼めるか」
『ゴゴ!』
モンスターの頻度は高いみたいだし、すぐにでもレアが出てくるかもな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてミミズを地上に吊り出しては斬り裂き、マップの解放を進めること十数分。ようやくお目当ての煙が出現したが、想定外の動きをしてきた。壁をすり抜けて、どこかへと飛んでいったのだ。
「煙でも自由自在かよ!」
不味いな。マップの完成度はまだ5%かそこらだ。こんな状態で壁を無視して突破されたんじゃ、追いかけようにも目的地が分からない。第四層の時の迷路とは構造がまるで違うし、参考にできないというのがまた辛いところだ。
やろうと思えばそのうち見つけられる可能性が高いが、問題は俺が1時間以内に遭遇できるかどうかじゃない。俺以外の不運な誰かが、誤って遭遇しちゃったりしないかどうかだ。俺の『運』が干渉できるのは、あくまで俺とその付近の関係者だけであって、他者の身に巻き起こる不幸まではカバーしきれない。
「……くっ」
こればっかりは仕方がない。あまり使いたくはなかったが……。
「アズ、マップの解放をしてくれ。レアモンスターが移動した先で、他の人間が巻き込まれそうになる可能性はあるか?」
『ちょっと待ってねー。んーっと……大丈夫みたい。あたし達が到着するよりも前に、他の人間が巻き込まれることは無さそうよ』
「そうか、良かった」
『……あっ』
アズが何かに気付いたようだ。だが、言うか言うまいか悩んでいるらしい。ここで思い悩むということは、間違いなくレアモンスターの情報だろう。それがネタバレになりうるレベルの話となると……。ふむ。
相手は煙の状態ですら、雑魚のように壁の中を自在に動けた。となると、懸念すべき点は……。
「まさか、そいつ『徘徊型』か!?」
『ええ、そうみたい。壁の中だろうと関係なしに動き回ってるから、最悪他の誰かと接敵しちゃうかも』
「不味いな……」
何が不味いって、アズにナビゲートしてもらいつつ急いで駆けつければ被害は未然に防げるところだが、道中にも必ず雑魚はいる。そしてこの10分足らずで100体討伐まで達成できるほどこの階層に雑魚は溢れかえっているのだ。となると、一体を撃破するまでに第二、第三のレアモンスターが出ることは想像に難くない。
出現位置が固定なら、誰か1人をそこに置いて見張をして貰えば犠牲者が出ることはないが……。
「アズ、マップには出現地点の記載はあるか?」
『残念だけどマスター、ないの。討伐場所によって変わるとかそういう次元の話じゃなく、指向先の記載がないの』
『ということは、マップ全域でしょうか……』
「……可能性は十分あるな」
となれば、今すべきことは……。
「アズ、マップ内の冒険者のチーム数は幾つだ」
『5よ』
「5か……」
ふむ。……なら、ギリギリ俺のマップは使わなくても何とかなりそうだな。
「作戦を通達する。アズはマップを俺以外に見せてくれ。続けてアズを除いたメンバーは、それぞれが個別に動いて冒険者達の元に向かって、メッセージを届けて欲しい。メッセージは今から俺が書く。それからイリスとアグニはセットで動くように」
『ゴーゴゴ?』
『プル?』
「ああ、冒険者達の元に向かうまでの雑魚は、絡まれても倒さずに駆け抜けてくれ。そんで、冒険者達の元に辿り着いたら反転して殲滅するんだ。イリスとアグニを組ませたのは、アグニ単独ではアイテム回収ができないのと、イリスは単独では足が遅いからだな」
『キュイキュイ!』
『プルプル!』
「あと、メッセージの受け渡しが済んだら、第五層の入口か出口まで彼らを護衛してあげて欲しい。次にアズは俺と一緒に行動して、レアモンの居るところまで最短ルートでの案内を頼む」
『ポポ!』
『♪♪』
同じ内容のメッセージを5枚の紙に書き殴っていると、キュビラが不安そうにしていることに気が付いた。
「キュビラ、どうした?」
『その、私が行って大丈夫なのでしょうか。先輩方ならまだしも、私はただのモンスターですし……』
まあ、世間の反応を見るに、モンスターだからという理由だけでなく、ダンジョンボスという理由で忌避してる人達は、それなりにいる。掲示板でもそうなのだから、一般人でも冒険者でも忌避する人はそれなりにいるだろう。だが、俺が行くわけにはいかないし、アズはメッセンジャーとしては不適格だ。キャラじゃないし、何よりひどい言葉を受けたら血の雨が降りそうだ。
まあだからといって、キュビラならそんな言葉を受けても良い訳ではないのだが、幾分か穏便には済むはずだ。だが、そうだな……。
「キュビラ、じゃあこうしようか」
『マスター様……?』
俺はそんな場面に遭遇した際の対処方法を伝えてあげた。
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