ガチャ874回目:真技能発揮
『それでマスター、ここからはどう攻略していくの?』
「んー、ギミックはまあ楽しかったけど、逆走したらどうなるかも気になるんだよな。だけどやっぱりマップ埋めも自力でしたいから、2棟目と4棟目は上からスタートしようかなと思う」
『ということはマスター様。ここから飛んで行かれるのですか?』
「んー、半分正解だな」
全員を抱えて『空間魔法』で移動する方法は、ここではあまりにリスキーだ。生成する透明な足場は衝撃にめちゃくちゃ弱い。エンリルに向けて照射されるレーザーの動きを見たところ、あれは目標が移動すれば撃ち直すんじゃなく、移動先に追従してくる。だから足を前に出すと同時に足場を生成しても、俺が踏み抜くよりもレーザーによって破壊される方が速いだろう。
だから俺は、別の方法を取る。
「エンキ、道を頼むぞ」
『ゴゴ!』
『風』
『水』
『土』
それらは、エス達を始めとした世界最高峰の冒険者の根幹スキルにして、最高ランクの『幻想』スキルである。それを手にしたエンリルやセレンは、スキルの取得数も倍化したこともそうだが、先駆者の教えもあって、大幅に強化する事ができた。
だが、その中でもエンキは一番伸びしろがあったといえる。見様見真似で『魔技スキル』を取得した事もそうだが、この『土』というスキルは他のスキルよりも圧倒的にダンジョン内での相性が抜群だったからだ。これを手にした事で、エンキが取れる選択肢は大幅に増加していた。
『ゴゴゴゴ~~!!』
エンキが両手を床につけると、ビル全体が大きく揺れた。それと同時に、前方のビルに向けて、コンクリートのような岩の柱が出現。俺達がいるビルと向こうのビルとが連結されたのだった。
『ゴ!』
どうやら、上手くいったらしい。エンキはとっても誇らしげだ。
「よくやった、エンキ」
『ゴ~!』
まず、元々エンキは土系統のスキルで身を固めていたため、砂や砂鉄を操る事で自分の身体に纏わせ武器や防具にしたり、砂が多い場所では防壁を建てたりしていた。また、砂や土自体は『土魔法』を扱う事でいつでも呼び出す事ができたため、多少の準備時間さえあればあらゆる場所で城壁を築き上げる事も可能だった。
そして今、『土』のスキルを得た事で、エンキはダンジョンの地面や建造物すらその操作対象にする事ができていた。この柱も、恐らく俺達が今登ってきたビルの壁面やら瓦礫やらを使って生み出したのだろう。たぶん、骨組みはそのままに壁とか床とか、重要性の薄い部分が変換されたんじゃないだろうか。
今梯子を降りたら、スッカスカの内部が拝めるんじゃないかな?
『エンキ先輩はすごいわね~』
『ダンジョンの構成を直接操作できるなんて、流石マスター様の御子様ですっ!』
『ポポ~!』
『プル!』
『キュキュイ!』
『~~♪』
皆がエンキを褒めてる。その光景は微笑ましく思うが、今回操作したのはダンジョン内部にあるオブジェクトだ。一時的に支配して形状を変化させたとはいえ、その管轄はダンジョンのままのはずなのだ。となれば……。
「アズ、キュビラ。分かればで良いんだが、こうやって一時的に支配権を上書きして操作した壁やその地形は、いつまで保つ?」
『ん~。規模が規模だし、そんなに短くはないと思うわよ?』
『そうですね……。けれど、今回はビル丸ごと解体した訳でも、内部の質量を消した訳でもありません。ただ移動させただけですから、元通りに戻す為のエネルギーは軽度のものかと。となれば、それに比例して復旧までの時間は長くもないかと思います。移動するのであれば、早い方がよいかと』
「了解。そんじゃ、いくか!」
俺が先頭に立って、コンクリートの柱の上を駆けていく。
すると、予想通り3つのビルから複数のレーザーが照射された。狙いは間違いなく俺の頭部だ。
「『超防壁』!」
一定ダメージが蓄積されるまでは完全に防ぎきる『超防壁』は、この手の攻撃には最適だろう。奴らの攻撃にはほぼ痛みを感じない事がわかっている以上、恐るるに足らん。
そしてこのレーザー、もとい多脚戦車こと『移動式多脚レーザー砲』についてだが、先ほどのビルを踏破する中で何度か戦えた事でだいぶ仕様が掴めて来た気がする。
まず、奴らは最初にロックオンした対象の急所に向けて、ほぼ正確に攻撃を続ける。だが、偏差撃ちをしないため相手に素早く動かれると全く当てる事ができない。
次に、1度狙いを定めたら完全に見失うまで同じ対象に攻撃を続ける。その近くに別の人間がいようと、なんなら攻撃開始後その相手とは別の敵が近寄ったとしても、対象を変えることはない。一度ロックオンしたら、見失うまで攻撃をし続けるとか、本当に知性のかけらもない無機物なんだなと思い知らされる。なので、柱の上を移動するにあたって、俺は奴らが見失ってしまわないよう細心の注意をしながら、ゆっくりと走り続けた。あんまり飛ばし過ぎると、俺より後ろを走る子達に当たっちゃうからな。
「よし、皆は先に行っててくれ」
隣の建物に到達する直前、俺は立ち止まった。こうでもしなければ、俺を見失った連中が他の仲間を攻撃対象にすると睨んだからだ。
そして予想通りに俺を乗り越えていく子達には目も向けず、連中はがむしゃらに俺にレーザー砲をぶっ放し続けた。
本当にここのモンスターは、決められた条件以外の行動は起こせないんだな~。
「到着っと」
2棟目のビルの屋上へ辿り着くと同時に、レーザーも収束した。視線は通っているのに攻撃が止むということは、そういうことだろう。さっきもそうだったけど、ビルの上は地上扱いされているようだな。予想通りの展開に、思わずため息がこぼれた。
『マスター、もう飽きちゃった?』
アズが心配そうに聞いてくる。
飽きたか飽きてないかはともかく、楽しめてはいるんだがな。
「んー、なんというべきか……。力でただ蹂躙するだけならほぼ確実につまらなくなるだろうが、ある一定の行動規則というか、ルールを原則として動く相手なら、それを逆手に取った戦術を整えて、見事に出し抜く楽しさもあると思うんだよな。今までは自分の意思だったり、野生の勘だったりで全く同じ行動をとる機械的存在がいなかったから、そういう戦い方は試せなかったんだが、ここならそれも叶いそうだ。だから別に、飽きるとかは無いと思うぞ」
今のところはだが。
『ふふ、マスター様が楽しそうでなによりです』
『ほんとね。まだ第一層だって言うのに、早速マスターに飽きられてしまうような構成しか造れないなら、ここのボスも、管理してるアイツも、価値はないものね』
「うーん、もしそんなダンジョンがあったとしても、それは単に俺がそこに合わなかっただけなんじゃないか?」
『マスターを楽しませられない様なダンジョンなんて、世界に要らないわ♪』
うーん、過激派。俺が楽しめる事が何よりも最優先か。
まあそれは置いとくとしても、アズのこのズケズケとした物言い。やっぱり500番の奴とは、それなりに親交があったと見れるな。
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