ガチャ863回目:成長の代償
「『次元跳躍』『神速』『虚空歩』」
地に足をつけて戦えば、どこにいたとしてもこちらの動きが読まれてしまうとわかった以上、空中戦をするしかない。そう判断した俺は先日手にした『空中殺法』のスキルで最適化ルートを確認しつつ、奴の攻撃を避けることを最優先とした。
『◆◆』
「10倍マジックミサイル!」
『■■■』
『ドガガガンッ!!』
最大威力のマジックミサイルを放つが、岩の壁に防がれ本体にはほとんどダメージは通らなかった。
『■◆■!?』
だがまあ、ほんの少しでもダメージが通ったことにプライドは傷ついたみたいで、かなり激昂しているが。
ぶっちゃけ、威力としては『妖怪ダンジョン』の七尾や八尾くらいならワンパンできそうな威力を秘めているはずだ。だが、それでも向こうの魔力が∞である以上、その硬さも天井知らずだ。一応こっちは魔力を3000も消費したってのに、
「けど、通らなくても防御は破れるか。それだけでも収穫だな」
こんな殺傷能力の高いスキル、試せる相手はほとんどいないしな。『バトルアリーナ』では破壊力は確認できないし、ワンパンするだけじゃ上限値は拝めないからな。こういう強敵は、普段計り切れてない攻撃の実験には丁度良いのかもしれない。
その後も普段使っていない魔法系スキルやら、封印気味だった『天罰の剣』、タマモから借り受けた他の神話武器など試していくが、倒すには至らなかった。
『◆■■◆、■◆◆!』
「おっと」
巨大な岩の腕が地面からいくつも生えて来て、捕まえよう腕を伸ばしたり、直接殴りかかってくる。最初は3本の腕が生えて来る程度だったが、これも回避を続けた結果8本にまで増えてきた。破壊すれば再生はしないが、また別の所から生えてくるのでキリがない。時間が経てば経つほど腕の数は増加しており、結構厄介だった。
「……そろそろ不味いか」
やはりというか、魔力が∞にあるのと、種族的な関係でか、奴は疲れ知らずの存在らしい。どれだけド派手な魔法を連発しようと、疲労が溜まっている様子は一切なかった。その上、今の身体に慣れて来たのか、高威力の魔法を連発し始めて来ているし、下位の魔法は同時発動数が増加してきている。
まだ最高魔法の『メテオ』は未発動だが、そろそろ決めないとやって来そうだな。
「遊びはここまでか。……一気に決める、フルブースト!」
『■■!!?』
今度こそ全力の一撃だ。
エアウォークで空中に無数の足場を形成し、『空間殺法』で倒すルートを計算し、『次元跳躍』で奴の直上100メートルの位置に移動し、『神速』で急降下する。
「『戦乱波濤・一式』」
『■◆!?』
「『八雷』!」
『斬ッ!』
八つの剣閃が雷鳴を轟かせ、全て同時に喰らいついた。全身に雷光の輝きを受けた大精霊は、岩の身体ごと炭化し、俺が地面に落ちた衝撃で周囲に吹き飛んだ。
【レベルアップ】
【レベルが19から1213に上昇しました】
「ふぅー……」
立ち上がり、残心をする。
そして剣を鞘に仕舞うと同時に、身体の中に妙な違和感を覚えた。
「ゴフッ!」
違和感の正体を追おうとするが、突然咳き込んでしまう。
反射的に口元を覆った手を見てみれば、そこにはベッタリと鮮血がこびり付いていた。
「な……!?」
それを認識した次の瞬間、身体のあちこちから激痛を伴った悲鳴が上がる。そして立っていられなくなり、膝をついてしまう。
「ゴホッ、ゴホッ! な、なんなんだ……?!」
突然の事象に困惑するが、すぐに原因と思わしき理由を断定し、ブーストを解除する。
「ぐうう……!」
だが、それでも全身を襲う謎の痛みは解除されない。吐血は収まったようだが、困惑は混乱へと変わって行く。そして、冷静さを取り戻そうと思考をフル回転させていると、何よりもおかしな事に気が付いた。
いつもなら駆け寄って来るはずの彼女達が、こちらに来ていない事に。
「……!!?」
見渡せば、彼女達もまた同様に苦し気に蹲っていた。だが、不思議なことに全員ではない。無事なのはエンキ達、そしてアズにキュビラにイクサバ、それからフリッツに……アキ、マキ、アヤネ、シルヴィの4人だ。逆にアイラを始め、カスミ達やミスティ達、ついでにエス。彼らは全員が苦しそうにしている。この違いはなんだ?
まず、現状苦しんでいるのは人間だけだ。エンキ達やアズ達が無事なのだから、原因は人間側にあるという事。続けて無事な4人の関連性はまったくもって謎だ。特にフリッツ。こいつが無事でなければまだ可能性は絞れたんだが……。
「あ、アズ……!」
『! マスター!』
慌てた様子のアズが駆け寄って来る。
「原因は、わかるか……?」
『ご、ごめんなさい。レベル1000を超えた人間なんて初めてだから、対処法が分からないわ!』
「1000? 原因は、それなのか?」
4桁の大台。レベル1000を超えた反動で、こうなっていると?
『な、何か対策を……』
アズも珍しく心の底から慌てている。だが、良いヒントを貰った。
本当にレベルが1000を超えてしまったことに原因があるのなら、4人が無事であることに納得がいった。俺は解決策となりうるスキルを使用し、全身を襲う激痛が消失したことを確認。すぐにソレを口にした。
「皆、『弱体化』を使え!!」
『……!!』
スキルを使用したんだろう。今まで全身を襲っていた痛みが消え、皆が不思議そうな顔をして立ち上がった。よし、全員無事だな。
「マリー! 疲れているところ悪いが、念のため全員の治療を頼む」
「は、はい。お任せくださいっ!」
「私も手伝いますっ!」
「わたくしもですわ!」
「第二チームはお任せくださいっ!」
『弱体化』でステータスが弱まっている為、回復能力が落ちているかもしれないもんな。その申し出は普通にありがたかった。
「アイラ!」
アイラに向けてとあるアイテムを投げ渡すと、全てを理解した彼女は自分に『回復魔法』を使用し、すぐにその場から消えた。
これでよしと。
にしても、今回はいつもの状態が裏目に出てしまったな。Sランクとカスミ達は全員、いつでも戦闘に入れるよう待機していたから当然『弱体化』は使用せず臨戦体勢だった。それにアイラもまた、身重の身でありながら動けるようスタンバっていた。
逆にアキ、マキ、アヤネ、シルヴィの4人は今回の狩りには一度も参加しておらず、ずっと後方で待機していたし、この戦いでも一番遠くで待機していた。その為、『弱体化』を常に使用して気を抜いていた為、今回の騒ぎにおいても何のダメージも無かった。
そしてフリッツに関しては、当然経験値の共有はしていないし、戦闘にも参加していないのでこの中で唯一レベルアップをしていない。だから、惨事は免れたという訳だな。
「ご主人様、ただいま戻りました」
アイテムを回収し、一息入れていると、ワープ用の紋章を手にしたアイラがダッシュで戻って来てくれた。どうやら、外に出てしっかり連絡をしてくれたようだな。
「おかえり、サクヤさんは?」
「タマモが早急に原因を特定したため、すぐに対処できたようです」
「そうか、朗報だな」
ここに来る前、タマモから武器を預かるのと同時に、経験値共有の指輪とネックレスを2人にも渡しておいたんだよな。でもまさか、こんな事態になるとは思わなかった。『弱体化』があればあんな事には二度とならないだろうけど、なんとか解決策を探さないと、今後もずっと『弱体化』しながらの攻略となってしまう。
そんな状況下じゃ、ダンジョン攻略もままならないぞ……!
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