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ガチャ859回目:最後のメンバー

 イクサバ試験から約10日後、俺達は我が家で、とある客人を出迎えていた。

 その客人とは、エスやクリスの友人であり、彼らと同列の存在にして、俺が出会っていない最後の属性使い。『真なる力』の一角、『土』使いのSランク冒険者だ。

 その人は栗色の髪をした短髪の男で、冒険者というより科学者や研究者と称した方が正しいのではと思えるくらい、理知的な雰囲気を醸し出していた。

 眼鏡もとてもよく似合ってるが、多分あれは何らかのアーティファクトやそれに準ずる装備品なんだろう。度は入って無さそうだし、もしかしたらお洒落なのかもしれない。けど、ダンジョンが出現する前は、伊達じゃなく本当に眼鏡を付けていたかのような貫禄がある。てか多分だけど、うちのチームの、()()()()()()最年長のアイラよりも、更に年上な気がする。

 そんな彼を迎え入れているメンバーは、家族総出ではない。俺、クリス、エス、シルヴィ、アイラの5人だけだ。他のメンバーは、()()()()で待機している。


「初めまして、アマチショウタ殿。私がフリッツ・フォン・ハイドリヒ。『土』のスキルを持つ『エレメンツ』のメンバーだ。私の事は気軽にフリッツと呼んでくれ」

「初めまして。よく来てくれました。フリッツも、俺の事は好きに呼んでください」


 彼と握手を交わしつつも疑問が浮かぶ。『エレメンツ』?

 そう思っていると、俺を挟むように陣取る2名が苦笑いを零した。


「あはは、兄さんには言ってなかったね。僕達4人の通称さ」

「スタンピードを平定可能とするわたくし達の力を、各国が呼びやすいように付けられた名なのです」

「ほーん」


 即席のチーム名みたいなもんか。……未だに俺のとこにはチーム名ないけど。

 考えても良いかなーと思わなくもないけど、結局無いままズルズルと来ちゃったし、正直今更だし、レアモンハンターの称号で通っちゃってるからチーム名付けたところで浸透しないだろうし、メンバーはコロコロ変わるし、俺が中心にいさえすればもたらす結果に致命的な差異はない。だからまあ、今後も名無しのまま冒険者活動を続けていくことになりそうだ。

 ちなみにチーム名をレアモンハンターにするのは、なんか違うので嫌だったりする。


「それにしても久しぶりだねフリッツ。会うのはこの前の合同依頼の時以来かい?」

「そうだな。私はお前達と違って自由に動き回るよりも、研究漬けで忙しいからな」

「わざわざ時間を割いてくれて感謝しますわ」

「構わんさ。私自身興味もあったし、数少ない友の頼みでもあるからな。それで、アマチ殿。あの話は本当なのかね?」


 フリッツが前のめりになりながら聞いて来た。よほど興味を惹かれる内容で誘われたんだろう。目を爛々と輝かせている。


「あー……。そもそも何をどこまでクリスが伝えたのか、俺は何も聞いてないんですよね」

「なに、そうなのか?」


 完全に丸投げしてたしな。ああ、でも確か『風』と『水』の大精霊戦の映像は見せても良いとか許可出してたっけ? あれは『妖怪ダンジョン』攻略前だから、もう2週間くらいは経ったのか。こんな目を輝かせているのに、来るのに時間がかかったって事だけでも、彼の人となりというか、忙しさが分かる気がする。

 たぶん、数日分の仕事を前倒しで片付けるのに、時間がかかったのだろう。


「だからクリス。今改めて教えてくれるか?」

「はい、ショウタ様。ではそのためにまず、フリッツの好みや優先順位についてお伝えしなくてはなりませんわ」


 あー、確かにそれは気になるな。

 軽く話しただけでも、彼は常日頃から仕事に追われているみたいだし、『エレメンツ』に招集されるほどの力を持つSランク冒険者だ。そんな彼が、仕事を巻きで片付けてまで、わざわざここまで来た理由はなんだろうか?


「まず、彼が冒険者になった理由は国のためですわ。彼は主に魔石の研究をしていて、そのエネルギーを抽出して自国の発展のため、日夜仕事に明け暮れているのです」

「おお。そう聞くと普通に凄い人だな」


 エネルギー開発はどの国も力を入れている分野だ。そのおかげで魔石の需要は常にあり、それが冒険者の稼ぎにも直結している訳だ。もし魔石の研究が進んでいなければ、魔石だけでなく他の素材も価値を見出せず、進んで冒険者をやろうとする奴は激減していただろう。


「ちなみにショウタ様。今や世界に無くてはならない魔石エネルギーを抽出し、魔石技術の発展に一役買ったのが、まさしく彼なのですわ」

「え、そうなの?」

「たまたま手にしたスキルが、魔石が持つエネルギーを数式や情報として覗き見できるという能力でね。それのおかげもあって、ダンジョン内で巧妙に隠されていた『土』のスキルを手にする機会を得たのだ」

「それってもしかしなくても、『解析の魔眼』?」

「おお、アマチ殿も知っているのか。流石は、ダンジョン攻略の最先端にいる男だな」

「実は俺も持ってるんです。ダンジョン内で力の流れを見るのに便利なんで、重宝してますよ」

「ほほう」

「それにしてもこのスキルにそんな使い道が……。いや、使いようによってはわからないでもないか?」


 世界に流れる魔力の動きを直接目で視たり、数字に置き換える事ができるスキルだ。魔力の中にあるエネルギーを抽出するにも、確かに使えるかもしれない。


「それでですね、ショウタ様。フリッツは更なる魔石や魔力の研究を進めるために、高濃度の魔力を蓄える魔石や、ハイレベルな魔法を使用した戦いの映像などを渇望しているんですの」

「なるほど。確かにそれならあの戦いの映像は、喉から手が出るほど見たい映像かもしれないな。けど、それならエレメンツの映像で事足りるんじゃないのか?」

「彼らとは何度か戦場を駆けた事で、ある程度満足の行くデータを得ていた。私含めてな。それに、各国の上の連中が彼らの記録データを、ましてや映像に残すことを許しちゃくれなかったのだ。その為、いつでも見返せるデータとなると限りがあるんだ」


 あー……。まあ、Sランクの中でも一際強い分、存在自体機密の塊みたいなもんだしな。研究の為って名目でも、迂闊に許可は出せないか。


「まあ、エスとクリスは私の事情を知っているからか、こっそりとデータを渡してくれたがね。あの件は本当に助かった。おかげで、研究もいくつか壁を破る事ができたよ」

「それはよかった」

「ええ、本当に」


 やっぱ、2人とは関係が良好だったんだな。

 4人目? ここで名前が出ない時点でお察しである。


「だが、彼らの協力はあれど、やはりこっそりと渡してもらったものだから、得られたデータは少なくてな。結果、私の研究はほぼ手詰まりになってしまったのだ。だが、クリスから提案された内容には心が躍った。エルキネスやクリスを模倣した怪物との戦闘映像があるというではないか。それにこの国では、希少な魔煌石もいくつかドロップしていると聞く。それさえあれば、私の研究は飛躍的に進歩し、我が国だけでなく世界にも貢献できるはずだ」

「なるほどね」

「私の目的を理解してくれたところで、改めてアマチ殿に聞こう。私を呼んだ理由は何だ?」

「ああ、フリッツが作り上げた『土』で扱うスキルの全てを教えて欲しい。『土』の大精霊に勝つために必要なんだ」

「なるほど、そういう事か」


 さて、交渉開始だ。

 といっても、俺の手元にはその手の映像は山ほどあるし、なんなら魔煌石だって中ならそれなりの数があるんだよな。日本でもまだ魔煌石の内部エネルギーについては、完璧な制御ができてないらしいし。こっちもポンポン送り付けても良い結果に繋がるとは思えなかったから、だいぶ出し渋ってたんだよな。

 これも上手く交渉に使えれば良いんだが……。

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