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ガチャ856回目:新層開店準備

「お待たせー」

「お兄ちゃん、準備できたの?」


 ダンジョンコアから出てきた俺を、カスミ達が出迎えてくれる。


「そのはずなんだが、その前にちょっとテストを行おうと思う。エンキ、それからイリス。ちょっと来てくれるか?」

『ゴゴー』

『プルプル!』


 俺たちは今、『バトルアリーナ』の()()()にいる。今までこの『バトルアリーナ』には一層しか存在せず、闘いのシステムも冒険者チームvsモンスターという構図のものしか存在しなかった。勿論そちらは今もなお大好評であり、その収益は一般的なダンジョン協会よりも粗利が出ているくらいだった。といってもうちのダンジョンは、人件費くらいしか掛かってないので、原価もくそもないんだが。

 そんな大盛況の中、この度第二層を生成したのには訳がある。先日進化の結果誕生した新スキル『戦場形成』のスキルにより、人間vs人間をより安全に行える戦場ルールを執り行えるようになったのだが、それを『バトルアリーナ』のシステムにも組み込むためだ。

 現状、俺としてはそこまで人気になるとは思えなかったのだが、嫁達やサクヤさんが推している以上、異を唱えるつもりは無かった。こと商才においては、俺なんかより彼女たちの方が上手であり、一生勝てる気がしないので、素直に5箇所ほどバトルフィールドを用意した。

 でも5つもあると言っても、一般の申し込みに対応するためのフィールドは2つまでで、残り2つは協会用。最後の1つは俺達専用のフィールドだ。そこまで数は多くないけど、需要と供給を満たすならコレくらいのバランスがちょうど良いらしい。

 色々と説明をされたし、その内容に対しての理解もできたが、こういうことを自分で思いつくのは難しそうだなと感じた。やっぱ俺、ダンジョン攻略以外はてんでダメみたいだな。うん。


『ゴ~』

『プル~ン』


 エンキとイリスが競技フィールドの中心で辿り着いたようなので、こっちも準備をする。


「おー、ちょっと待ってなー」


 競技フィールドの端、観客席の下に設置したコンソールを操作していると、妹達が集まって来た。


「兄上、そちらは?」

「ああ、上の階層ではルールは単純明快だったけど、こっちは人間vs人間だろ? だからその都度ルールを決める必要があると思ってな。だから、ある程度のルールをここで取り決めてから開始できるようにしておいたんだ」

「へー、面白そうだね!」

「ふふ、それにしてもお兄様。あの子達の勝負の内容は、とても可愛らしいものですね」

「ま、あいつらに喧嘩なんてさせたくないしな。些細なものでも十分テストはできるだろ。……よし、設定完了だ!」


 コンソールのSTARTボタンを押すと、競技フィールドに『決闘』でお馴染みの結界が展開された。そして頭上には、今回の戦いのルールが表示された。


【勝敗設定:じゃんけんで1回勝利した側の勝ち】


『ゴゴ~?』

『プル~?』


 勝負の内容を聞かされていなかった2人は、拍子抜けしたかのような声を上げた。


「え? お前らもしかして、ガチンコ勝負がやりたかった?」

『ゴ! ゴゴゴ!』

『プル! ププルプル!』


 最近の戦闘では、何の役にも立てなくて暇だから、力があり余っているらしい。

 まあ確かに、最近のレアモン戦はずーっと俺が独り占めしちゃってるから、戦う機会はなかったか。雑魚戦ですら、俺と撃破枠が共有されてるから手出しできなかっただろうし、フラストレーションがたまってるらしい。

 まったく、戦いたくて仕方ないとか、誰に似たんだか。


「そんなのお兄様に決まってるじゃない☆」

「ふふ、本当ですわね」


 あー、聞こえない聞こえない。


『ゴ~!』

『プル~!』

「わかったわかった。それが終わったら別の設定で仕切り直すから、終わらせてくれ」

『ゴゴ!』

『プルル!』


 そうして壮絶なあいこを繰り返し、約1分ほど戦い続けた結果、空気を読んだエンキが手を繰り出す途中で内容を変え、じゃんけん勝負はイリスの勝利で終わった。後出し負けとは器用な事を……。

 そして無事に結界は解かれ、頭上にリザルトが表示される。うん、ちゃんと機能してるみたいだな。


「んじゃあ設定はこうして、こうして……これで良いだろ」

「うわ、そんなこともできちゃうの?」

「これなら確かに、人が人を殺してしまう懸念は完全に排除できますね」

「さすが兄上です」

「これもお兄様の愛ですわね」

「じゃあお兄さん、この後のボク達の時も……」

「ああ、これに近い形で行く。といっても、もうちょっと実戦向けで行くがな」

「さっすがお兄様、わかってるー☆」


【対戦者設定:1対1】

【勝敗設定:時間内に有効打が多かった者の勝利】

【制限時間:10分】

【痛覚遮断:強】

【肉体損傷:無】

【戦闘不能判定:無】

【ギブアップ:無】

【有効打表示:有】

【有効打カウント:有】

【必要魔石:特大2個】


 ふむ、この設定なら代価はこのくらいか。それなりに高いが、ほどほどの値だな。

 このレート設定はダンジョン側が取り決めたものであるため、いくら俺が開発者兼支配者であっても、ここのレートを安価にするような改造を施す事は一切できない。一応どの設定を有効にすればどの程度レートが上昇するかは把握しているので、ここも公開してしまって問題ないだろう。

 ちなみに、ダンジョン側に一切負担のかからないルールだと対価は必要ない。さっきのじゃんけんみたいな。けど、戦いとなればダメージの巻き戻し機能が必須になるので、一般公開したら対価無しはあり得ないだろう。ここは健全な運用をする施設だからな。


「んじゃ、開始ボタンを押すぞー」

『ゴゴ!』

『プルル!』


 開始と同時にエンキとイリスが巨大化した。どうやら、最初は取っ組み合いから始めるらしい。

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