ガチャ830回目:愛玩希望
「で、キュビラと言ったな」
『はいぃ……!!』
「お前が頭を下げている以上、話は聞いてやる。問答無用で攻撃しないことを約束しよう。そうしている理由を聞かせてくれ」
『あ、ありがとうございます!』
「あと、顔をよく見せろ。そのままじゃ話しづらいだろ」
『で、では失礼して……』
顔を上げたキュビラは、普通に美人だった。うちの嫁達がトランスフォームした鳥人や猫娘の時とは違い、動物特有のヒゲとかもない、普通の人間の女性の顔だった。まあ、強いて言えばその目だけはキツネやネコと同じで、縦長のスリット状の瞳孔が入っていたが。
まあある意味それはチャームポイントか。
「んで、そうしている理由は?」
『はい。私は全面降伏致します。ダンジョンの管理キーも無償でお渡しします。ですから、私と、私の弟妹達を、殺さないでください……!』
うーん、清々しいまでの降伏っぷりだ。命惜しさに命乞いしている感情がヒシヒシと伝わってくる。
「いくつか聞きたいことがあるんだが」
『はいっ、何なりと……!』
「その人間形態は『妖狐魔法』で?」
『いいえ、狐族は元々こういう姿です……!』
狐族……。さっきアズも言ってたな。妖狐と呼ばれるのがあのボス系統のタイプで、狐族は人型ってことか?
「俺に敵わないと踏んだのは、どのタイミングで判断した?」
『最初にお姫様から、貴方様の事を聞いた時に……』
「なるほど?」
『次点で、各階層をまるで散歩するかのように、淡々と攻略していく姿に戦慄しました……』
「まあ、簡単だったしな」
『そ、それから最後に、第五層でお怒りになった貴方様を見て、それで……』
ああ、そういや第五層のアレだけは、狐の視線が四方から集まる中での戦いだったな。忘れてたけど、アレだけ唯一視線に晒された中でのレアモン戦だったのか。
「次に、お前がビビるのはまあ分かるとして、他の狐どもは馬鹿みたいに喧嘩を売ってきたけど、それは?」
『貴方様の実力が見分けられない者共の愚行、お許しください。その点につきましては、ダンジョンの仕様上情報の共有ができないのです』
「と言うと?」
『私は『ダンジョンボス』として常にダンジョン内で意識と自我を持って君臨し続ける事が可能ですが、あの者達は出現するその時まで眠りについているのと同じ状態なのです』
「……なるほどな」
まあそれでも、人間というだけで襲いかかってくる以上、あの連中は元より人間そのものを下に見ていたんだろう。
「次に、キュビラと今までの狐どもとは根本的に違う理由は答えられるか? 具体的にいうと、狐族と妖狐だったか?」
『はい。狐族は力の弱い者が多く、戦いを好まない種族です。他種族と交流することで、あちらの世界でなんとか命を繋いできた儚い存在なのです。逆に妖狐達は、人型になる事もありますが動物の狐の姿が本来の姿です。基本的に傍若無人であり、悪逆非道です。また、争いや闘争、殺戮を好みます。レベルの低い妖狐は言葉すら発せない獣がほとんどですが、尻尾を増やしたものは言葉を理解します』
なるほどな。
「んじゃ、タマモはどっちなんだ?」
「お姫様は、私達とは異なり妖狐です。ですが、暴君などではなく知性的なお方で、暴力を好まず、むしろ苦手とする方です。それでも妖狐としての力は歴代最強と言える存在で、実力だけで……」
そこまで言ったキュビラが、アズに視線を送る。
「アスモデウス様の側近にまで駆け上がりました」
「ほーん」
確かに、停止した時間の中でアズと戯れあっていたタマモは、悪辣さは感じなかったな。自分に溺れてる感じはしたが。突然変異というか、アルビノみたいな特殊個体みたいなもんか。
「次に、お前を倒さず生かす選択をした場合、俺にそれをするだけのメリットはあるのか?」
『それは、その……』
まあ、言葉に詰まるよな。
俺がこの狐を撃破することで得られる恩恵は大きい。最低でも更新後のガチャでさえ40連分は回せるし、初めての『魔煌石:極大』も手に入る。流石にそんな事情までは知らなくても、俺が本気を出せば自分が簡単に倒される未来は想像がついているはずだ。智将の名を持つのなら、せめてそれくらいのメリットは提示して貰わなきゃな。
『わ、私と……』
「ん?」
『私と弟妹達の耳や尻尾を、好きにモフモフして良い権利を捧げます……!』
キュビラが顔を真っ赤にしながらそう告げて来た。それって恥ずかしいことなのか……? まあでも異種族だし、人間とは価値観は異なるか。
「その弟妹達ってのは、同じく狐族の?」
『はい。私と同じ人の姿をしています。そして他者と交流するための心もしっかり持っています』
「ははーん」
つまりトランスフォームなしで、最初からデフォルトでモフモフな子達を好きにもふり倒せる権利か。うんまあ……悪くはないんじゃないか? 嫁達も可愛い物には目が無いところがあるし。
その弟妹達のサイズやら年齢やらで、場合によっては事案になりかねんが、異種族だからOKということにしておこう。けど、嫌がられる中で撫で回すのは気分が乗らないしなぁ。どうせ撫で回すのであれば、相互に気を許した関係のままで撫でたいところだ。
キュビラに関しては『テイム』した上で丸め込めば良いとして、弟妹達は……うん。相手に好意的に見てもらえるかどうかは条件に組み込むべきじゃないし、そこは俺の腕の見せ所か。
「ちなみにそこに、アンタのお姫様の無事は入っていないが、それは良いんだな?」
『……はい』
か細い声だが、はっきりと聞こえた。この思考に至るまでに色々と考えてはいたんだろうけど、俺の人となりを見てこれが交渉の限界点だと察したんだろう。その判断は間違ってない。これはタマモが始めた事なんだから、その落とし前はタマモ自身にさせるのが筋ってものだ。
「キュビラ、目を閉じろ」
『はいっ……』
俺は祈るように目を閉じる彼女に向けて、手を伸ばした。
「『テイム』」
俺から伸びた魔力の糸がキュビラを包み込み、ゆっくりと彼女の中へと溶け込んでいく。
【九尾の智将・キュビラをテイムしました】
【名前を付けてください】
「そのまま、キュビラで」
【おめでとうございます】
【個体名キュビラがあなたの配下に加わりました】
【管理者の鍵(454)を獲得しました】
『不束者ですが、よろしくお願いします、マスター様』
「ああ。で、早速だが」
『は、はいっ。お手柔らかにお願いします……』
40連分の腹いせに、モフモフタイムだ!
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