無料ガチャ052回目:因縁の対決(前)
とあるダンジョンの奥地。そこでは一組の男女と、一人の男が対峙していた。
「やあ、征服王。久しぶりだね、見違えたよ」
「貴様は、エルキネス・サンダース……!」
本当に見違えた。以前は威厳とカリスマ溢れる野生的で野蛮な王といった雰囲気だったのに、今では落ちぶれ全てを失った落伍者のようだ。
まさか、僕がたまたま選んだダンジョンの深層に潜んでいようとは、思いもよらなかったな。一応最初期ナンバーだから可能性はゼロではないとは思ってはいたけど、それでもいきなり引き当てるなんて。僕の悪運は、本当に色々な意味で仕事をするよね。兄さんが知ったら、また同情されてしまいそうだ。
「エス……」
「大丈夫だよシルヴィ。僕に任せて」
「うん……」
シルヴィにこんな顔をさせるなんて、この男は存在そのものが許せない。許せないが……それでも、話も聞かずにただ殺すのでは、奴らと何ら変わりはない。きちんと弁明を聞いてやろう。最期になるかもしれないしね。
「貴様が、貴様があの男を連れてきたばかりに、王は地に落ちた」
「僕のせいだって言うのかい? 違うだろう、お前が兄さんに喧嘩を売ったんだ。あんなバカな真似をしなければ、兄さんの矛先が向くのもずっと先だったかもしれないのに」
「王の行動に間違いなど有りはしない。王より弱い存在が、王より目立つなどあってはならない」
つまり、ただの嫉妬だった訳だ。実につまらない理由だよね。そんな事で、何千、何万という命が失われかねない事件を起こすなんて、本当にふざけた話だ。
「お前がただの魔王の傀儡であったのなら、温情の余地はあった。けど、お前はその力を使って我欲を満たすことを優先してきた。ツケが回ってきたんだよ」
「絶対に許さんぞ……。お前も、王を貶めたあの男も、大事なものを全て壊して、復讐してやる!」
「復讐、ね。確かに、お前にはそれを成せるだけの力がある。24時間という制約はあれど、まだ昔のパイプは残っているだろうし、我欲に塗れた連中はお前が返り咲くのを虎視眈々と狙っているから、さほど移動には不自由しないだろう。その膨れ上がった力を、もししっかり制御できてしまうのなら、僕にとっても兄さんにとっても脅威足りえるだろうね。でも、どうするんだい? 今この場にいるのはお前一人だ。サポートしてくれる仲間もいない状態で、僕に正面から勝てるとでも?」
「貴様程度訳はない。貴様の女もそれなりに戦えるようにして来たようだが、練度不足だ。王との戦いにはついて来られまい。そして王には、王足らしめる能力がある。これがある限り王は無敵なのだ!」
奴の自信の源は、『裏決闘Ⅴ』。そしてそれを安全に発動するための、補助スキルの数々。確かに発動まで漕ぎつければ、1対1では勝ったも同然だし、発動後手出しできないようサポートするアイテムやスキルがあれば、乗っ取りは完全な物となるだろう。けどそれは、その手段を知らなかった場合だけだ。
「悪いけど、お前の……いや、君の手札は全て割れている。僕は兄さんと違って、事前の情報収集は徹底的にしなければ気が済まないタチでね。君が持つサポートスキルの機能、サポートアイテムの種類、『裏決闘Ⅴ』の性能とそのメリットデメリット、全てを聞き及んでいる。君を支配し、いつか支配し返してやると目論んでいた魔王自身からね」
「!? そ、そんなはずはない。ハッタリだ!」
「君、もしかしてニュースを見ていないのかい? 魔王は兄さんの軍門に降っているよ」
「そんな訳ない。王ですら成し遂げられなかった偉業を、掃いて捨てるほどいる凡夫が成しえるなど……」
ああ、本当にもう彼はあの頃とは違うらしい。昔出会った頃の、悪逆の限りを尽くしていた王だった彼ならば、すぐに情報を精査し自分の利になるよう行動を起こしていたはずだ。
それがまさか現実逃避をしだすなんてね。冷静に考えられない以上、もう完璧に勝負はついたかな。
「それなら試してみるかい? ちなみにもしも、僕の大事な妻に向けてスキルを行使しようものなら、即座にその首を叩き落とすよ」
奴はもう僕の射程圏内にある。もしもシルヴィに向けてスキルを行使しようとしたなら、その場で即断してやる。けど、僕も鬼じゃないし、羅刹に堕ちたつもりもない。僕に向けての行動なら、多少は目を瞑ろうかな。
……やれやれ、兄さんの甘さが移ったかな。
「一応聞いておくよ、征服王。投降してくれないか。そうすれば今この場では命を奪わないとは約束しよう。そして無事な状態で外に連れ出してやってもいい。君も本物の太陽の光が恋しいだろう?」
「何を言っている。王の身に科せられた呪いを知らないわけではないだろう」
「勿論だとも。だけど、兄さんの伝手は本当に凄くてね。東方の魔女から特殊なアイテムを借りて来たんだ。それがあれば、能力値を10年前のダンジョンが出現した当時……完全な初期値に抑えられるんだ。ブースト効果も含めてね」
僕は犬に着けるような首輪を取り出し、分かりやすいように征服王に見せつけた。
名称:奴隷の首輪
品格:≪伝説≫レジェンダリー
種類:魔導具
説明:装着された者の能力を限界まで抑える首輪。奴隷紋だけでは支配することのできない屈強な存在を屈服させるために開発された専用魔導具。外す際は装着者本人が手ずから外す必要がある。
最大級の犯罪者が日本に出現した時のために保管されていた代物だけど、兄さんの頼みということもあって魔女からは気さくに借り受ける事ができた。といってもレンタルだから、もしもそれを装着したままアメリカ政府に彼を引き渡すなら、政府もそれ相応の対価を支払い続けなければいけないが……。まあそれは、僕の預かり知るところではないね。
「さて、最後の忠告だぞ征服王。今すぐ投降するんだ。そうすれば命だけは助けてやる」
「……」
奴は身を震わせながらマジックバッグに手を入れた。そして取り出したものを地面へと叩きつけると、奴を包み込むようにして障壁が展開された。
「調子に乗るなよ若造が! 王はエルキネス・サンダースに、『裏決闘』を申し込む!!」
奴を覆っていた障壁も、周囲の景色も、隣にいたシルヴィの姿も掻き消えて、異空間へと移動した。
「それが君の選択なんだね。残念だよ」
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