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ガチャ821回目:後始末

 『呪怨怪魚』の死亡跡地は、大きく穿たれクレーターと化しており、更にはガラス化するほど高温の大地が広がっていた。相変わらずの超威力だが、今回ばかりは地面を突き抜ける事はなかったらしい。まあこの階層の地面の底は、地面でしかないからな。虚無が広がる浮遊大陸と同じようなことにはならないだろう。

 他を倒すためにアレを回収するのは手間だし、コイツらは直接倒したくもある。だから剣で行きたいところだな。

 そう思ってからは速いものだった。『ウィルオウィスプ』の魔法攻撃は『骸骨武者』の壁に隠れてやり過ごしつつ、それでも群がってくる『骸骨武者』の大群を蹴散らし、最後には『修羅髑髏』の猛攻を耐え凌ぎ、奴の懐に潜り込む。


「楽しかったぞ。『灰燼剣Ⅲ』!」


【レベルアップ】

【レベルが18から340に上昇しました】


 灰燼に呑まれ、『修羅髑髏』は強制的に浄化させられた。それと同時に奴が召喚していた『骸骨武者』も消えていく。

 これで、『連鎖爆破』の対象はいなくなったはずだ。後は安全に奴を消し去ってしまおう。さっと『弱体化』を2つ作成し、即座に『ウィルオウィスプ』の懐に潜り込んだ。

 こいつは他の封印モンスターに比べてサイズでいえば少々小柄だ。縦2メートル、横2メートル程度の、まん丸とした炎の塊だ。こいつに物理的判定があるのはさきほどまでの戦いで確認済み。反撃する暇も与えず、俺は空高くにまでこいつを蹴り上げた。


『……!?』


 蹴り上げたそいつに『神速』で追いつくと、誰もいないその空間で俺は安全策を使用する。


「『金剛外装Ⅴ』。これでお前の攻撃は、俺には届かない」

『……!』


 飛来してくる無数の『炎魔法』を無視し、そのまま正面からまとめて切り伏せに行く。


「『一刀両断』!!」


『斬ッ!』


【レベルアップ】

【レベルが20から336に上昇しました】


 瞬間、視界が閃光に包まれた。コイツが爆発すると知らなければ、何が起きたか分からなかっただろう。吹き飛ばされ、上下左右の感覚もわからなくなり、慌てた結果地面に墜落する――。

 そんなお粗末な結果になっていたかもしれない。まあ、今の俺は外装に守られているので、墜落したところでどうってことはないのだが。


「……ふぅ、目の前で大爆発が起きるとあんなことになるのか。頭はクラクラするし、視界は真っ白だし、音も……聞こえない? 俺は今、自分が喋ってるのかどうかすらわからんぞ……」


 空中で態勢を整え、五感がかなり封じられた中、なんとか嫁達の気配を探り当て、そこを目指して滑り降りていく。エアウォークを斜めに連続で並べた、簡易滑り台だ。正直視界が正常なら、中々の恐怖映像だったかもしれない。まあこっちも外装があるので不時着したところでなんだが。

 そう思ったところで俺は彼女達のもとに辿り着き、何かに激突したかのように急停止させられた。気配からして、エンキが壁を作ってくれたか?

 そして暖かな光に包まれ、徐々に視界と思考、そして聴覚が明瞭になっていく。


「勇者様、ご無事ですか!?」

「ああ。よく聞こえるし、よく見えるぞ」

「ほっ、良かったですー」


 俺の側で祈りのポーズをしていたマリーが、ほっと息を吐いた。治療はやっぱりマリーか。すごいな、ほんの十数秒で完全快癒したぞ。

 外装もいつの間にか解除されていて、治療が終わったことを確認して皆が一斉に群がってくる。


「ん。お疲れ様!」

「主様、ご無事で何よりです」

「ショウタ、カッコよかったよ!」

「おう」

「ショウタ様、アイテム回収は滞りなく」

「ありがとなー」

『あ、でもマスター、グングニルはまだ刺さったままよ』

「あー、あんな勢いでぶっ刺さったアレを引き抜くのは大変だもんな。あとでやっとくよ」


 どんなに根深く突き刺さっていようと、武器庫に登録している奴だから触れさえすれば簡単に収納できる。無理に引き抜く必要もないのだ。

 さて。先ほどまでの戦いで『弱体化』の在庫は9個。レベルも336で追加で2個増やすこともできるが……。元々の配る対象を思えばもう既に揃ってるわけだが、今俺には新しく配るべき対象が居るんだよな。

 この『弱体化』を配り始めた理由も、私生活で気を張る必要をなくすため。というもの以外に、生まれてくる子供のためというのもある。なら、1人情操教育上よろしくない点は一旦置いとくとしても、2人も立派な俺の家族だ。等しく渡しておくべきだろう。そういう訳で『弱体化』を追加で2つ生成をして……っと。


「ミスティ、クリス、シャル、テレサ、マリー」

「「「「「はい」」」」」

「お待たせ。『弱体化』だ」


 皆に順番に手渡ししていき、そのまま蚊帳の外にいたアズも手招きする。


「ほら、アズも」

『あたしも?』

「アズは強い状態の経験が長いから手加減も慣れたもんだろうけど、これがあるのと無いのとじゃ気の張る方もだいぶ楽できる。それに、生まれてくる子供のステータスは不明だけど、想像以上に柔らかくて脆い可能性があるから、気を付けるに越したことはないだろ?」

『マスター……。うん、ありがとう』


 『魔王の証』の時とは違い、アズはしおらしくスキル受け取ってくれた。その反応がいじらしくも可愛かったので撫でておくとして、もう1人は……。

 ああ、遠くでまだ剣戟の音が聞こえてくる。俺の指示通り戦いを引き延ばしてくれていたんだろう。


「イクサバ、もう倒して良いぞ!」


 俺の声が届いたのだろう。遠くで戦っていた空気が膨れ上がり、大気が揺れた。


【レベルアップ】

【レベルが16から344に上昇しました】


【全ての封印されたダンジョンモンスターを、完全な形で討伐しました】


 ん? それだけ?

 いくら待てども、それ以上の通達はなかった。なんだったんだ、今のは……。


『主君!』


 意味深な通知に首を傾げていると、イクサバがドロップアイテムを抱えながら走って来た。低音ボイスではあるが、その中身を知ってると何だか複雑な気分になって来るな。まあ、知ってても知らなくても、今のイクサバは可愛らしく感じるが。

 さて、この後は狐戦が待ち構えている訳だが……その前にガチャをしちゃうかな。

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