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ガチャ812回目:プッツン

 俺はグラムを抜き放ち、技の発動態勢へと移行する。


「『神速――』」

『えっ?』

『どこに!?』


 続けて『次元跳躍』で動き出しすら感知させずに奴らの視界から消えた。

 視界は4人分だが、反応速度まで4人分に増えたりすることもないようだった。『思考加速』も『並列処理』もなかったしな。

 俺を探して全員がキョロキョロする中、気配を絶った俺が真横から強襲を仕掛ける。


「『殲滅剣』!!」

『!?』


 愛おしい人達の幻影を、神速の刃で滅多斬りにする。命乞いをする間もなく、4つの幻は肉片と煙へと変化した。悲鳴を上げられたらそれがトラウマになりそうだったし、『神速』を選んで正解だったな。

 『神速・殲滅剣』は、今までの俺ならばブーストしなければ発動する事すら困難な技だったはずだが、できてしまったな。怒りで限界以上の力を引き出せたか? 胸糞案件ではあるが、今の感覚を忘れないようにしないと。


『ぐぅぅ、貴様……!』

「なんだ、まだ生きていたのか」


 散り散りになった煙が集約したと思ったら、そこには小さくなった狐がいた。元は3メートルくらいあったその巨体も、今では半分以下だな。それでもまだデカいが。

 技発動直後ではあるが、今の俺なら連撃も可能だろう。そう判断して殺意を向けると、狐が待ったをかける。


『なぜ攻撃できるのだ。今の女どもは、大切な人間ではなかったのか!?』

「大切だからこそだよ。そんなことも分からねえのかてめえは」


 一度収めたグラムを抜き放つ。


『ま、待ってくれ!』

「必要ない」


 奴を滅する事だけを考えていると、新たな技が頭の中に浮かび上がってくる。

 コレを消し炭にするには丁度いい技だな。


「『業魔――』」

『や、やめ――!』

「『灰塵剣』!!」

『ギアアアアア!!?』


 燃え盛る青い焔を纏ったグラムを振り下ろすと、狐の全身を焔が一気に燃え広がる。魂までも焼き尽くされた狐は、断末魔の悲鳴を上げながら灰塵へと変わり果てた。


【管理者の鍵454(5)を獲得しました】


【レベルアップ】

【レベルが12から474に上昇しました】


【封印されし五色の呪いの化身をダンジョンから解き放ち、撃滅しました】

【特殊条件達成】

【第六層、第七層に施されていた封印に綻びが生じました】

【該当の階層に存在するモンスターが、本来の力を取り戻します】


「ふぅー……」


 気になる通知は来たが、今はそれどころではなかった。先程斬った幻影……偽物と分かっていても、姿形も、声も、存在感も、彼女達に瓜二つだったのだ。自分自身の行動に後悔はないが、それでも、彼女達をこの手で斬ってしまったという感覚が、棘となって俺の心に刺さり続けていた。

 このままでは良くない。何とかしなければ、俺は前に進めなくなってしまう。今の自分にできることはないかと思考を巡らし、思い当たった方法を早速実行に移す。


「すー、はー……喝っ!!」


 深呼吸の後、自身に喝を入れる。すると胸に蟠っていた悪感情がすっと溶けて無くなり、見えない重圧から解放された気分になった。

 その上、微量ながらも気力や体力が回復した気がする。スキルの『克己』は、今までもなんだかんだでお世話になって来たし、自分や仲間の状態異常を払拭するためのスキルかなんかだと考えていたんだが……。どうにもそれだけではないらしい。

 まあ、今や無印じゃなくてⅣだしな。ステータス異常ではない変化すら治療し、尚且つ気力と体力まで回復してくれるとなれば、かなりの破格スキルだ。これからも常用していきたい。


「ん。ショウタ、落ち着いた?」


 俺の背後5メートルくらいのところで様子を伺っていたミスティが声をかけてくれる。どうやら、心配をかけてしまったらしい。


「ああ、落ち着いた」


 振り返って微笑みかけると、安堵したような表情を浮かべてくれる。


「良かった。さっきまでのショウタ、無意識かもしれないけど、圧だけじゃなく『恐慌の魔眼』を垂れ流してた。すごく怖かったんだよ?」

「そうなのか……。完全に無意識だったな」

「ですがそれも致し方ありません。主様の地雷を踏み抜いたあの狐めが悪いのですっ」

「そうですそうです! 勇者様の大事な人達に変身するなんて、あの獣は最低ですっ!」


 テレサとマリーはあの狐にお冠のようだ。俺もさっきまでならそれに便乗してキレ散らかしていたかもしれんが、その感情はさっき洗い流しちゃったからなぁ。代わりに怒ってくれる2人を宥めていると、クリスとシャルがくっ付いてくる。


「ショウタ様、あちらに拠点を用意しました。今日はもうお休みしませんか?」

「ショウタの好きな甘いものたくさん用意したわよ!」

「おー、ありがとな」


 皆の優しさが沁みるな。


『マスター』

「ん?」

『さっきの奴について、向こうでの話だけど、あたし多少は知ってるわ。情報はいるかしら?』

「ああ、知り合いの同族だもんな。一応貰っておこうか」

『直接相対したわけじゃないけどね。簡単に言えば人類の敵みたいな存在だったわ。その狡賢さと、能力で、いくつもの人間を不幸にしたり、街や都市を滅ぼしたりして来た結構な札付きよ』

「ほー」

『我も、五色の獣についての情報がありまする。かなり昔の話になりますが、賞金首に登録されていた記憶がありますぞ』

「ほほー」


 つまり、倒してしまって何の問題も無かったというわけだな。まあ、アイツについては気に病むつもりは欠片も無かったが。

 ……あ、そうだ。


「キョウシロウさん、そういう訳なんで第六と第七のモンスターは強化された可能性が高いです。俺は明日になったら挑戦するつもりですけど、無理はしないでくださいね」

「う、うむ。分かった、留意しよう」


 キョウシロウさんは何か言いたげな様子だったが、口を噤んだ。多分、嫁の幻影について何か言おうとしてたんだろうけど、『克己』で自己解決しちゃったからな。それでも心配はしてくれているみたいで……。


「若人よ、あまり無理はし過ぎぬようにな。あのような相手との戦いは精神が擦り減るものだ。多少休んだ所で誰も咎めはせんぞ」

「ありがとうございます。けど、大丈夫ですよ。俺も攻略を焦ってるわけじゃないですから」


 ただ、中途半端な状態で退出したくないだけなんだよな。『696ダンジョン』の時は階層移動用のアイテムがあったから、階層ごとに攻略しては休んでたりもしたが、ここにはそんな気の利いたものは実装されてないしな。マップ機能を使うのも勿体無いし。

 サクヤさんの件が尾を引いているといえば引いてるけど、それはまあ仕方ないことだし。とりあえず休むなら、ここを完全制覇して『001ダンジョン』を丸裸にしてからだ。

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― 新着の感想 ―
あっさり倒せたと思ったけど本来は都市に潜んで扇動とか工作をする搦手タイプだったのか ダンジョンに居ることが既にデバフだったんだな
今晩は乱暴な意味で盛り上がりそう
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