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ガチャ810回目:謎の安全地帯

 とりあえずキョウシロウさんには後で伺う旨を伝え、俺達は遅めの昼食を食べる。昨日はハッスルし過ぎて朝の出発がちょっと遅めだったからな。

 そうしてのんびり食事をして英気を養った俺たちは、拠点を片付けて皆で第五層へとやって来た。


「これは……」


 目の前に広がっていたのは、今までとはまるで違う狭い空間だった。といっても、今まで通って来た各階層における一区画程度の広さはあったが。

 この階層は全体的に何もない広場のようになっていて、中央にはキョウシロウさん達のキャンプがあり、それを囲むようにして4つの狐の彫像が()()()()配置されていた。

 先ほどキョウシロウさんが言っていた、『重圧はない』『視線もほとんどない』とはこういうことか。確かに、外側に向けて視線が放たれているため、内側に入り込んでしまえば奴らにとっての死角になる。視線が感じなくなるという訳だ。


「まあ、だからと言ってここで休めるかは甚だ疑問だが」

「感覚が麻痺すれば休めるかもしれないですけどー……」

「ショウタ様が上層の重圧も視線を無効化していなければ、確かにここが一番マシではあったかもしれませんね」

「ん。でもそれも過去の話。今更こんな空間で休みたくはない」

「そうよねー」

「主様、彼らには断りを入れて第四層に戻りますか?」

「いや、そもそもだが、本当にここは安全地帯なのか確認したいところだな」


 四方に配置された狐の像は、上にあったような祠に設置されていたタイプとは異なり、マップには赤点表示はされていないため、見た感じモンスターではない。けど、正面に立てば間違いなく視線は感じるし、嫌な気配がプンプンする。

 直接視てみた説明文も……。


 名称:眷属の像

 品格:なし

 種類:ダンジョン構造物

 説明:稲荷神の神使を模した、意思なき彫像。その目は神と繋がっており、神が下界と繋がる役目を担っている。


 上にあったのは『意思を持つ』とされていた。それがハッキリと『意思なき』と記載されているのだ。説明からしてもモンスターではないはずだが、それでも監視の眼は機能しているし、それだけではない気がしている。

 そうして彫像と睨めっこしていると、キョウシロウさんがやって来た。


「おお、若人よ。来てくれたか」

「キョウシロウさん、いくつか質問しても?」

「構わぬとも」


 俺は気になっている点を彼に聞いてみた。その結果、以下のことが分かった。


・キョウシロウさんがこの階層を発見して以降、今まで一度もこの景観に変化は起きていない事。

・今まで一度もモンスターが現れていない事。

・調査のために派遣されて来た低レベルを含めた協会職員の集団が寝泊まりした時も、何も起きなかった事。

・呪いに該当する事象はなく、視線を受け続けても異常は検知されなかった事。

・彫像は動かせない事


「なるほど……」


 操作不可、モンスターでもない。けど監視カメラの機能はあるけど、外を向いている事。そして4つが綺麗に中心部を囲っている事。これらの要素を考えると、何もない事そのものが不自然すぎる。

 となれば、ここには何かがある。そのはずだ。


「『解析の魔眼』」


 この階層に存在するありとあらゆる魔力の痕跡を視界に表示させる。そうすると、やはり彫像からは2つの魔力が伸びていることが分かった。一つは大地の底へ。これは多分、最下層にいるダンジョンボスに向けて伸びているはずだ。物理的に下に階層が存在するかは不明だが、この魔力に関してはその先までは検知できそうにないので、今は放っておく。

 そしてもう1つは、広場の中心地、キョウシロウさんがキャンプを張っているところへと伸びていた。けど、キョウシロウさんのチームメンバーと何かしら繋がっているわけでも、魔力を吸い取ってるわけでもなく、ただその場所にある何かを目指して線が伸びていた。あとは、何を条件としてその中心部に変化をもたらせるかだが……。


「……ん?」


 彫像を観察したり狐の像を好き勝手に撫で回したりしていると、狐が乗っている土台の上部。ちょうど狐の前足2つが並んでいるところのすぐ正面の場所に、僅かながら窪みがあることが分かった。その窪みをまじまじと見れば、微かにだが黄色い点のようなものが記されていた。


「これか?」


 俺は懐にしまっていた『黄の殺生石(虚)』を置いてみる。すると彫像から「カチッ」という音が聞こえた。……まさかとは思うが。


「おっ」

「!?」


 ちょっと力をこめると、彫像がゆっくりと回転し始めた。となれば、やることは決まったな。

 キョウシロウさんは目の前の出来事が信じられないのか、驚き固まっている。まあこっちは後に回すとして。


「皆、聞いてくれ」


 振り向けば彼女達は俺の指示を待つかのように並んで立っていた。


「ミスティ、クリス、シャルには殺生石を1つずつ渡す。他の彫像の足元にも、ここと同様に窪みとそれに対応した色がついてるはずだ。対応した色の彫像を探し出して設置をしたら、合図の後一斉に中央の広場に向けてこいつの視線を合わせてくれ」

「お任せを」

「「OK!」」

「続いてテレサとマリーは、キョウシロウさん達の拠点の片付けの手伝いを頼む。多分戦いになるから」

「「はいっ!」」

「てわけでキョウシロウさん、すみませんけどアレ片付けてもらっていいですか?」


 そう投げかけると、まだ多少の混乱は見られたが、キョウシロウさんはすぐに現状を理解し動き出してくれた。


「承知した。しばし待て」


 そうして数分もしない内に広場にあったキャンプは全て片付けられ、彫像の内側には人も物もない状態へとなった。


「そんじゃ、行くぞー!」


 皆で一斉に彫像を動かし、視線を中央へと向ける。すると窪みに収められた殺生石が反応し、ゆっくりと煙となって消えていった。そして発生した4つの煙は、視線の交わる中心部へと流れて行き、巨大な煙へと変質していく。

 煙の中からはそれなりに大きな気配を感じるし、鍵持ちのレアが出て来てくれそうな雰囲気だな。


「こいつを倒して、今度こそ休みとするか」

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― 新着の感想 ―
わざと安全地帯モドキを作るあたり性格が悪すぎるな
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