ガチャ796回目:狂乱武者・イクサバ
『殺殺殺!!』
『キィィ!』
最初に動いたのは女中と狐だった。女中は扇子を振り回しながら突進し、狐は紫色の炎を無数に召喚し飛ばしてくる。俺は女中と狐が一直線になるように移動すると、読み通り炎は女中を巻き込み大炎上を巻き起こすが、女中はダメージを受ける素振りもなくそのまま攻撃を仕掛けて来た。
『殺殺!』
「ノーダメかよ」
おかしな事に奴は何メートルも先で振りかぶり始めた。
あれじゃあこっちから近付かない限り当たりはしないぞ?
『殺!』
「おっ!?」
女中の全身を覆っていた紫の炎が扇子へと移動していき、まるで扇子が巨大化したかのように扇状に広がった。その結果、奴の攻撃範囲が10倍くらい伸びた。『器用』特化で『知力』が200しかないから相対的に見て馬鹿なんだと思ったが、そんな攻撃をしてくるとはな。他者と協力する事で真価を発揮するタイプか。
炎によって強制的に伸びた扇子を剣で防ぐのは流石に厳しく、飛び上がる事で回避する。そこに、狙い澄ましたかのように殺意が飛んできた。
『『火の秘伝・二式』』
「!?」
『『火燕』!』
『イクサバ』が抜刀すると同時に鞘の内部から焔が溢れ出し、飛び散った火花が火の鳥へと変化。複数のツバメが俺を目指して飛翔して来た。
この程度外装を使えば問題ないが、それじゃあ芸がないよな。久々にアレを使うか。
「マジックミサイル!」
『ドガガガガッ!』
不可視の弾丸が火の鳥と激突し、相殺と同時に爆発を起こす。
『お見事』
「どーも」
『イクサバ』と視線を交わす事一瞬、不意に空気が振動し、その発信源から嫌な予感がしたため視線を動かすと、狐が大きく息を吸い込んでいた。
あの挙動からして、ブレス系の何かが来る。技リストには存在しなかったが、『狐火』に内包された固有技だろうか。それの対処について思案しようとするも、今度は足元からゾワリと嫌な雰囲気を感じた。
真下を覗けば、女中が和風のホラー映画ばりに黒い髪を広げ、俺に絡みつこうとソレを伸ばして来ていた。
「うぉっ、キモイ!!」
俺は生理的に受け付けないソレを消し去るように『魔導の御手』に指示を出す。すると間髪入れずに黄金弓から『雷鳴の矢』が降り注ぎ、髪の毛もろとも女中を射抜いていく。
『殺、殺……』
たったそれだけで、『呪殺女中』は跡形もなく消えていった。
【レベルアップ】
【レベルが210から211に上昇しました】
俺は女中の最後を見届けず、そのまま次の脅威へと意識をシフトする。
回避や防御よりも攻撃を優先した俺は、『虚空歩』と『神速』を駆使して、狐に向けて急降下。奴が口を開くのとほぼ同タイミングで技を発動した。
「『神速・殲滅剣』!!」
本来なら2本の剣で発動させる技だが、扱えるステータスが向上した事で1本の武器でも技を再現できるようになっていた。現状……扱えるステータスは大体10000から11000くらいか?
ほどほどに修行なり、強敵との戦いなりで扱えるステータスも爆発的に伸びたりもしてるんだが……あまりにも先が長すぎる。これでまたガチャを回したら、さらに限界値が遠のくぞ。
そんな事を考えていると、ズタズタに切り裂かれた『赤き呪いの化身』が煙へと還っていった。
【管理者の鍵454(3)を獲得しました】
【レベルアップ】
【レベルが211から302に上昇しました】
『我の攻撃の隙間を突いて、2体の敵を討伐。挑戦者よ、見事なり』
「残るはアンタだけだな。けど、本当に本気でやってるか? あの攻撃は確かに驚いたけど、なんで他のタイミングで攻撃してこなかったんだ?」
あんなに思案したりして隙を晒してたのに。
『見せかけの隙を攻撃したところで、刈り取られるのがオチよ。お主に攻撃を届かせるには、完全な虚を突かねばな』
「ふうん?」
技を撃てばどうなるか理解してたから撃たなかったのか。
まあ、今の俺は危機感知能力が際立っている。たぶん、常に重圧に晒され続けてるせいで、周囲の気配や空気の振動に過敏になってしまってるせいだろう。そのせいか、ちょっとした攻撃の予兆ですら感知できてしまうほどだ。
今なら、奴が技を放とうとする予備動作であったり、刀に手を伸ばす行為だけでも気配を察知できる気がする。修行のために外装をほぼ封印しているとはいえ、今の俺に攻撃を当てるのはかなり難しいだろう。
『挑戦者よ。頼みがある』
「聞こうか」
『我が最大の奥義を、受けてはくれぬか』
「技の撃ち合い勝負って事?」
『然り』
「良いよ、面白そうじゃん。受けて立つ」
『感謝致す』
『イクサバ』がフルブーストし、刀を鞘に納刀する。それに合わせるように俺もハーフブーストで微強化を施し、グラムを斜に構える。
互いに睨みあい、力を溜める。そして動き出した『イクサバ』に合わせ、俺も技を放つ。
『『火の秘伝・五式――』』
「『閃撃――』」
互いの武器に、破壊の力が集まっていく。
両者の間で空気が震えた。
『『絢爛火楽』!』
「『一刀破断』!」
赤、青、紫。様々な色の焔が紡ぐ美しい一筋の剣閃。
俺はそれを真っ向から迎え撃ち、奴の剣と激突した。その瞬間、互いの武器の間で幾度となく爆発が起き、その度に弾き飛ばされそうになるのをなんとか耐え、そのまま鍔迫り合いへと移行した。
『ぬうううう!!』
「おおおおお!!」
勝負は最初こそ拮抗していたものの、地力の差により徐々に均衡は崩れていく。
「おおおらあ!!」
『なんとっ!?』
『パキインッ!』
剣を振り抜くと同時に、硬いものを破壊した感触が手に残った。そして、金属の塊が地面に墜落した音も聞こえて来た。
見れば、『イクサバ』はうつ伏せに倒れており、奴の持っていた愛刀は真ん中辺りからポッキリと折れてしまっていた。あれも名前からしてそれなりの品格はあっただろうけど、模擬刀だったし、本物であるグラムの品格には及ぶはずがないよな。
奴は震える体を鞭打ち、折れた刀を杖代わりになんとか膝をついた。
『……見事也』
「……ああ」
『イクサバ』は首を垂れ、頭を差し出して来る。斬り落とせという意味合いだろう。試練なんだし本来なら倒す必要があるだろうし、良いものをドロップする気配もある。けど、なぁ。
……俺、コイツを気に入っちゃったんだよな。
「なあイクサバ。俺に、『テイム』される気はないか?」
『何? 『テイム』……とな?』
あれ、通じてない感じ?
『『テイム』とは、なんであるか?』
「あー……。ようは、俺に仕えてみないかって意味だ。一合打ち合っただけだが、俺、お前の事結構気に入ったんだよな」
『……ふ、変わった男であるな。我は其方からしてみればモノノケの類いであるぞ。それを配下にすると?』
「モンスターだから何だって話だ。それとも、俺に仕えるのは嫌か?」
『……滅相も無い。そのように面白い話、受けぬ道理はないな』
よし、同意を得たぞ。
俺は早速、顔を上げたイクサバに手を伸ばす。
「『テイム』」
俺から伸びた魔力の糸がイクサバを包み込み、ゆっくりと彼の中へと溶け込んでいく。
【狂乱武者・イクサバをテイムしました】
【名前を付けてください】
「名前はそのまま、イクサバで」
【おめでとうございます】
【個体名イクサバがあなたの配下に加わりました】
このイクサバは『魔煌石:大』持ちだ。となれば、現状モル君と同じレベルだが、成長限界はこの何倍もあるはずだ。こいつの成長が楽しみだな。
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