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ガチャ792回目:不幸自慢

 俺はキョウシロウさんから聞いたダンジョンの呪いについて、答えらしきものに辿り着き満足していると、彼女達がひっついて来た。


「ん、ショウタ。1人で納得してないで、教えて?」

「ショウタ様。呪いの正体が掴めたのですか?」

「掴めたっていうか『直感』での判断だから、確定ではないぞ?」

「ふふ、主様の『直感』であれば確定でなくとも大まかな的は射ているはずですっ」

「そうですそうです。勇者様のお考えにハズレなどありませんっ」

「それはちょっと狂信がすぎるなー?」

「あはは。それで、ショウタは何を思いついたの?」

『マスターの考えを聞かせて♪』


 興味津々な彼女達を嗜めつつ、至った考えを説明すると、皆感動したように感嘆してた。感動する要素、あったか?


「なるほど、20以下の強制0か。嫌がらせとしては十分であるな」

「ちなみにキョウシロウさん、どうでした? 『運』0になった時の感想は」

「うむ、実に散々であったぞ。まるで不運の神がそばにべったりと張り付いているかのようであった。……あの時は、ほぼ1分おきに何かしらが起きていたな。鳥の糞が降ってくるわ、花瓶が落ちてくるわ、突風が吹けば小石が混じり、信号を渡れば制御が効かなくなったトラックが突っ込んでくる。むしろ、ダンジョン内にいた方が逆に安全であったぞ」

「それはまた、可哀想に。ちなみにそのトラックはどうなりました?」

「うむ。儂もその頃にはレベルも一定の水準は超えておったからな。正面から受け止めてやったわ」


 それはそれは、トラックの運転手は逆に運が良かったのかもしれないな。

 なんせ、『運』が0によって引き起こされる悪運は、恐らくは幸運と同じように可能性を集約した結果、起きてしまっている事象のはずだ。鳥の糞も花瓶も小石も、果てはトラックだって、起きるべくして起きたものが、たまたまキョウシロウさんの近くで起きているんだろう。だから、トラックは整備不良だとかそういう何らかの原因が、そのタイミングで花開いただけで、『運』0の人間が近くを通らなくても、そのうち無関係の人間を巻き込んで事故を起こしていたのかもしれない。

 それを、車の破損という形だけで決着が付いたのだ。誰も怪我をしなかったのだから、これはきっと良いことなのだろう。


「参考になったかね?」

「参考というか、ちょっと懐かしくはなりましたね。ダンジョンに潜るまでの7年間、俺の『運』は2しかありませんでしたから。キョウシロウさんほどの頻度はなくても、1日に1回は何かしら起きてましたよ」


 そういや、10年前のステータス発現時が一番酷かったかもな。暴走した車に轢かれかけたことは片手じゃ収まらない。それもあって、俺に近付く人間は離れて行ったくらいだ。

 まあ、あの時は『運』こそ最悪だったが、『運』が10のカスミがずっとそばに居たから、そこまで酷いことにはならなかったが。いつかとんでもない事故にカスミを巻き込んでしまう危険性もあったし、守られ続けてる自分の不甲斐なさを感じていたから、あの時は逃げるように距離を置いたんだよな。まあ、1番の理由は、カスミに冒険者は無理って言われたことが悔しかったからなんだけど。

 昔を思い出して少し懐かしむ。ああでも、あの時の俺とカスミって、言うなれば今のエスとシルヴィとの関係に少し似てるかもな。

 などと考えていると、空気が澱んでるのを感じた。どう考えても原因は俺だし、とりあえずここは退散するとしよう。

 その後、拠点に入り寛いでいると、テレサがおずおずとした様子で話しかけて来た。


「あ、あの、主様……」

「ん? どうしたの?」

「先ほどのお話がずっと気になっているのですが、ダンジョンの外に出るまで我慢した方が良いでしょうか」

「先ほど……ってどれだ?」


 不幸の話?


「ん。重圧より視線を優先した話かも」

「ああ、そっち? それなら今は話せるよ。ごめんなー後回しにして」


 その上忘れちゃってて。言ってくれなきゃ多分忘れたままだった。


「ん。それはいつものこと」

「それで勇者様、今回はどのような理由だったのですか?」

「ああ、あいつらずーっとこっち見てるでしょ? んで、そいつのエクススキルに『監視の眼』っていう不穏なワードがあったんだ。十中八九視線の正体はそれなんだが、ただ壁を貫通して視線を飛ばしてくる嫌がらせにしては、ちょっと手が込んでる気がするんだ。だから、もしかしたらあの視線はここのボスが監視カメラのように使ってる可能性が頭をよぎってな。もしそうなら、俺達の動きや行動内容、果ては会話内容までもがそいつに筒抜けの可能性がある訳だ。そんな中で、手の内を晒し続けるのはあまり良くない気がしてな。監視の視線を飛ばし続ける奴を最優先で破壊したいと、まあそんなところだ」

「ん。納得した」


 全員が頷く。


『ここのダンジョンボスは、用意周到というか、ちょっと性格が悪そうね~』

「かもなー」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝、俺達が出発の準備のために外に出ると、もうそこにはキョウシロウさん達の姿はなかった。恐らく、彼らの戦場に出かけたんだろう。

 にしてもこのダンジョン、どれくらい深いんだろうか? 今後も順調に区画が増えて行ったとしたら、最下層に辿り着く頃には何区画にまで広がっているやら。あまり広すぎると、ちょっと骨が折れそうだよな。

 そんなことを考えながら階段を降りていくと、目の前に武家屋敷が現れた。


「今まで区画内は、侵入不可能な民家やら平家やらが並んでいたが、ここに来て巨大な武家屋敷と来たか」

「ん。落武者とか出るかな?」

「サムライですわね!」

「ニンジャもいるんでしょうか? ちょっと楽しみです!」

「いたら確かに面白いけど、それが出て来たら『妖怪ダンジョン』とは呼ばれなくないか?」

「むむ。残念ですー」

「何はともあれショウタ、偵察はするんでしょ?」

「おう。んじゃ、エンリルを飛ばしつつ『視界共有』と『鷹の目』で、皆でマップを埋めようか」


 そうして皆で協力してマップを埋めて行ったところ、第三層の全景が見えて来た。広さとしては第二層の16区画分とほぼ同様で、その広さで武家屋敷の1区画しか存在しない階層らしい。

 今いる場所は区画の外側にある南東の角で、対角線である北西の角には下り階段が見えている。武家屋敷の外側にある大通りには、いつも通り鬼火がウヨウヨとしていて、そいつらは夜叉のお面を装着していた。

 そして武家屋敷はほとんどが屋内に入ることを想定した作りになっていて、視線を飛ばしただけでは祠の位置を全て特定することはできなかった。また、内部には複数の雑魚モンスターらしき市松人形みたいな存在が動いていた。ちょっと気味が悪いが、ようやく雑魚モンスターも2種類以上に増えた訳だ。

 重圧も間違いなく悲哀と慟哭以外に何か別種の存在を感じるし……ここからが本番ってところかね。

読者の皆様へ


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そうか運ですら初期数値低かったのか
監視カメラを一つずつ丁寧に潰されていってるタマモに悲しき未来…
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