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ガチャ788回目:ダン畜候補

 第一層の9つある区画の、一番上の段の真ん中。テンキーで言うところの8番に位置する区画の外側に、第二層へと降りる階段がある。ちなみに外への通路は、テンキーで言うところの2番の外側に存在している。

 その場所へと辿り着いた俺たちを待ち構えるかのように、先ほど顔を合わせた先人達が待機していた。


「若人よ、待っていたぞ」

「お? キョウシロウさん、どうしたんですか?」

「うむ。チームの打ち合わせの後、儂は真っ直ぐ下の階に降るものだとばかり思っておったのだ。だが、まさか第一層から攻略していくものだったとは……」


 多分、彼の中で俺のダンジョン攻略は、最下層で何かをして『ダンジョンボス』と戦うとか、そんな感じのイメージでいたんだろう。その点は間違いではないが、色々と情報が抜け落ちている。


「あー。俺の攻略スタンス、掲示板ではそれなりに浸透してた気がしますけど、公の場で公開とかはしてませんでしたからね」


 普段からずっと『妖怪ダンジョン』に籠りっぱなしなキョウシロウさんが、他所の掲示板や流れの速い俺の掲示板にまで目を通していないのは、仕方のないことだろう。


「それで、待っていてくれたのは最下層までの案内役としてですか?」

「それもあったが、このダンジョンでしばらく戦っていけるかの確認でもあったな」

「ああ、つまり他の階層も、さっきまでのここと同様、得体の知れない重圧やら視線やら、気を散らしてくるギミックが豊富にあるということですか?」

「そうなるな。だが、問題はそれだけではないのだ」


 キョウシロウさんが何かを言い淀む。ここで先に喋らせてはネタバレになるだろうし、さっさと自分の考えを伝えて答え合わせしてやるか。


「もしかして、深く潜るほどに襲ってくる重圧の密度や種類が増えたりします?」

「その通りだ。流石は儂らの先を行く若人だな。見解と洞察が見事だ」

「どういたしまして。んで、そんな重圧や視線にさらされながらキャンプとかし続けるのは酷だから、休むなら重圧の低い上層部や外の方が良いと、わざわざ伝える為に待っていてくれてたんですかね?」

「……うむ。その通りだが、こうもピンポイントで言い当てられると、妙な気持ちになるな」

「あはは、すみません」


 確かに、そんな重圧に晒される中キャンプを張ったところで、普通の冒険者は満足に休めるわけもないし、ベテランだってそうだろう。

 それに耐えられるのは、心が壊れて麻痺してしまった人や、そんな重圧なんて屁でもないくらいに、心が強靭な人くらいだろう。俺だってこの第一層でさえ、あんな言葉にできない重圧や視線の中キャンプを張って寝泊まりなんて御免被りたい。『恐怖耐性』や『精神耐性』は持っているが、この場合はどちらかというとストレスとかそっち方面の耐性も必要になるはずだ。

 怖さを軽減できたところで、重圧や視線そのものは消えないんだからな。邪魔なものは邪魔なのだ。

 俺でさえこんななのだ。うちのチームの女性陣だって、嫌なものは嫌だろうし、そんなところに長居はさせたくない。


「キョウシロウさんの危惧している内容は理解できました。なので俺達は、このまま第二層の攻略に移りますね」

「そうか。……本当に良いのだな?」

「ええ。重圧に晒されるのは嫌なんで、さっさと第二層も攻略して、重圧から解放してからゆっくり休みますよ」


 もし俺との相性問題で、第一層のように重圧解放ができなかったとしても、鍵くらいは入手できるはずだ。そうしたら、第一層にまで戻ってここでキャンプを張ればいい。


「ははっ! 実に心強いな。それに、先ほどのメッセージ。ああいったものは初めてなのだが、若人にとっては見慣れたものなのかね?」

「まあダンジョンによって出たり出なかったりですね。どうです? 全ての重圧と視線から解放された第一層は」

「うむ。初めての経験でまだ少しばかり困惑しているが、実に平穏そのものだ。まるでダンジョンの外にいるのではないかと錯覚するくらいだ」

「それはそれでちょっと問題ある気がしますけどね。キョウシロウさん、俺よりよっぽどダン畜なんじゃないですか?」

「ふむ。ダン畜……とはなんだ?」


 ダンジョン馬鹿ってことですよ。

 とは流石に言えないので笑って誤魔化す。彼のチームメンバーは笑っていたので、その認識が間違ってはいないようだったが。


「じゃ、俺たちはこのまま先に進みます。まあ行き詰まるようならここにまた戻ってきますけどね」

「うむ。気を付けてな」


 暗に、案内は不要という意図を理解してくれたらしく、キョウシロウさん達は静かに俺達を見送ってくれた。

 そして階段を降り、第二層へ到達した俺達を、新たな重圧と視線が歓迎してくれた。


「確かに重圧の密度は第一層よりも重いが……なんか覚えがあるな?」

「ん。第一層の悲哀が混じってる?」

「この階層は、悲哀と何かのデュエット、と言うことでしょうか」

「嫌なセッションですねー」

「では、ここから更に潜ればトリオやカルテット、クインテットと続いてしまうのですわね」

「第一層でショウタが重圧の中身を暴いてくれなかったら、ただただ理解できない重圧にジワジワと蝕まれていた事でしょうね」

『いやらしい仕組みだわ。ここのダンジョンボスは性格が悪そうね』


 ん? ダンジョンボスってあのキツネじゃないのか?


「アズ。もしかしてここにはダンジョンボスが2体いるのか?」

『そうよ。ただ位相が重なって出現しただけで、完全に個別に機能しているみたいね。だからこの機能も『妖怪ダンジョン』を設計した通りのダンジョン構成ね」

「そうなのか」


 ならまあ、本当に1度で2度美味しいダンジョンと。なるほどなるほど。

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