ガチャ783回目:妖怪とお化け
「おお、若人よ。本当に来てくれたのだな」
「キョウシロウさん、お久しぶりです」
俺達は今、『妖怪ダンジョン』の入り口前に隣接された広場で待ち合わせをしていた。第二エリアを守護するSランク冒険者であるキョウシロウさんと出会うのはまだ2度目だが、この人は古風ではあるが堅苦しくはなく、むしろ世話好きないい人って感じだな。ちなみに1度目は、『炎』のアイツをしばき倒したパーティで、タツノリさんから紹介されたときだ。
1ヶ月前、旅行初日にキツネの畜生と遭遇した後、攻略に行く旨と大体の訪問日を伝えたら、それに合わせて予定を組んでくれたんだよな。キョウシロウさんは俺と同じSランクではあるが、この人の方が歴も長い大先輩だし、長い間第二エリアを守ってきたのは間違い無くこの人なのだ。むしろ俺の方が時間を合わせるべきだと思うんだが……。
「長く活動したからといって、偉いわけでもなかろう。その期間で何を為せたかが重要なのだ。その点、若人はいくつものダンジョンを平定しているが、儂がやった事など些細なものだ」
「いやいや、引退率の高い冒険者活動の、それも最前線でずっと戦い続けただけでも十分な偉業でしょう。高難易度ダンジョンの間引きだって、立派な成果ですよ」
関東第一エリアの最難関ダンジョンが『上級ダンジョン』であるように、関西第二エリアの最難関は『妖怪ダンジョン』だと言われている。その理由は様々だが、物理攻撃に耐性を持つモンスターが多くいるだとか、人間を根源的な恐怖に引き摺り込む性質のモンスターが跋扈しているだとか、そんな噂が絶えないダンジョンなのだ。
その為、このダンジョンは常人のチームでは1週間と保たずに撤退していき、その後二度と訪れる事はないとか。どんなトラウマを量産してるんだか。
「ふむ。そう言ってもらえるといくらか救われるな。して、本気なのかね。このダンジョンを平定するというのは」
「ええ、本気も本気ですよ」
「そうか……。一つ忠告をしておくが、若人のチームでお化けや妖怪の類を、現実非現実問わず怖いと思ってしまう者はおるか? もしいるのであれば、恥ずかしがらずに名乗り出た方がよい」
「それは、入場を辞退した方が良いって事ですかね」
「うむ。過去にそういったことを恥ずかしくて言えずに入場してしまう者が度々おってな。結果、症状の軽い者ですら三日三晩眠れぬ日々が続き、症状が重いものはPTSDを引き起こしたそうだ。無論、元よりお化けなど怖くはないと思っている者でさえ、初めてここを訪れた者の大半はしばらく再起不能になる」
まあ、妖怪ってのは恐れられ、怖がられるものだからな。本当に怖いと思ってる人にはトラウマを植え付けてくるし、ある程度耐性のある人にさえメンタルを削ってくると。キョウシロウさんが冗談を言うとは思えないし、たぶん実際にあった事だろうな。
だけど、俺には関係のない話だ。
何故ならココのダンジョンボスは、俺の大事な人にちょっかいを出したのだ。完全攻略する以外に、選択肢は無い。
「今までまともに幽霊系のモンスターと相対した経験はないですけど、元々幽霊はあまり怖いとは思ってないですし、それに俺は『恐怖耐性』のレベルはMAXなんで問題ないですね」
「ほう、心強いな。だが、スキルはスキルであり、心持ちは別問題だ。無理は禁物だぞ」
「分かってます」
「では先に行っている。チームのメンバーとはよく話し合ってからくることだ」
そういってキョウシロウさんは、近くで待機していたチームメンバー達と一緒にダンジョンへと潜って行った。
「という訳で、アキ、マキ、アヤネ、アイラ。君達は待機ね。お腹に悪影響があったらダメだし、何より……」
「はわわわ」
今の話を聞いて震えあがってるもんな。特にアヤネが。
「わかりました。ショウタさん、お気をつけて」
「あたし達は観光してるわね。けど、辛くなったらいつでも戻って来て良いのよ」
「旦那様、無理はしないでくださいねっ!」
「ご主人様、ご武運を」
「ああ」
嫁達1人1人とハグをして、見送る。
ちなみにカスミ達は、既に別のダンジョンの攻略に向かった。この第二エリアには、全部で4つのダンジョンが『楔システム』の結界を広げるのを邪魔をしている。その内の1つがここ、京都にある『妖怪ダンジョン』で、彼女達は残る3つを順番に攻略する予定だ。
第二エリアの北側に位置するダンジョンNo.379『琵琶湖ダンジョン』。
第二エリアの東側に位置するダンジョンNo.709『名古屋城前ダンジョン』。
第二エリアの南側に位置するダンジョンNo.164『八尺鏡野ダンジョン』。
この中で比較的簡単な『琵琶湖ダンジョン』を真っ先に落とすんだったかな?
「さて、皆。改めて聞くけど、お化けとかそういうの平気?」
「ん。怖いか怖くないかで言えば、ちょっと怖い。でも銃弾が当たるなら怖くない」
「線引きはそこなのね」
「ん。……私も、お留守番した方が良い?」
「……いや、相手はモンスターだし、銃弾は当たるだろ。普通の銃弾は駄目でも、ミスティの武器は『幻想』だしな。それに、こういう恐怖をばら撒くモンスターがいるダンジョンってのは、その状態異常への対抗策も同時にばら撒いたりするもんだ。だから、早い内に『恐怖耐性』のスキルが集められるようなら、そのまま続投しても良いと思ってる」
「ん。ショウタの判断に任す」
ミスティの頭を撫でると、ゴロゴロ喉を鳴らした。
「クリスは?」
「女の子としては怖がった方が良いですか?」
「それを気にするのはデートの時くらいで、今は別にそういうフリじゃないから不要かな」
「そうですか……。では、わたくしは大丈夫ですわ」
「おっけ。シャルは?」
「あたし、昔は苦手だったけど、強制的に慣れさせられたかな」
「ん? どゆこと?」
「ブラマダッタを手にしてから、感知系のスキルを強制的に開花させられてさ。そういう……幽霊系の感知もできるようになっちゃってさ」
「ああ……『霊体感知』か」
『全感知』に集約はされてるけど、一応俺も『霊体感知』で家の近くにいないか探したことがあるんだよな。
「それは、慣れなきゃやってらんないよな」
「そういうこと。ショウタの家の周辺は不自然なくらい霊がいなくて、とっても過ごしやすいのよね」
「……」
まあそれは『聖魔法』を覚えてから、徹底的に『浄化』したので、家の周りは綺麗にしてあるだけなんだがな。ことあるごとに『全感知』に引っかかって鬱陶しかったからな。
そしてテレサとマリーがうちに来てからは、そういう力場でもできたのか霊系の存在は近寄って来なくなったんだよな。掃除しなくて良くなったのは割とデカイ。
「テレサとマリーは……聞くまでも無いよな?」
「ええ、慣れっこです!」
「2人でよくカタコンベの掃除に行ってましたから」
「なら、その道のベテランではあるな。頼りにしてるよ」
『マスター、あたしは?』
「聞いて欲しかった?」
『聞いて欲しかったわ!』
「悪い悪い。アズの場合むしろ従えてる側な気がしてな」
『ブー』
むくれてしまった。
まあ良いか。さーて、国内の最強ダンジョンの一角だ。心してかからないとな。
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