ガチャ781回目:戦後処理
ひとしきり余韻に浸った俺は、そのままドロップアイテムである真核や宝箱を拾い上げ、彼女達の方を見る。
「皆、お疲れー」
「「お疲れ様!」」
「「「お疲れ様です!」」」
『マスター、お疲れ様♪』
彼女達は興奮した様子で駆け寄ってきて、先ほどの戦いについて口々に褒めてくれた。そして次点で出てくる話題がレベルについてだった。
「ん。皆が言ってたけど、急激にレベルアップするこの感覚は、なんとも言い難い不思議な気分。けど、悪い感じはしない。パンドラでもそれなりに上がったけど、今回のはレベチ」
「そうですわね。むしろ高揚した気持ちにさせられましたわ」
「まさかこのレベルになって、100近く跳ね上がるなんて思いませんでしたっ」
「勇者様はいつもこの様な経験をされているのですねー」
「こんな貴重な経験をさせてくれてありがとう、ショウタ」
『マスター、マスター! あたしのレベルも上がったわ♪』
「お、そりゃ良かった」
見れば、アズのレベルは700ジャストになっていた。ちょっと想定より上がり幅が大きいけど、ペット枠ってそういうものなのかな?
「アズの666って数値、美しさもあって好きだったけど、それも見納めだったかー」
『んふ。マスターの言いたいことはわかるけど、本来の力を発揮するにはまだまだ全然足りないわ』
「……ん? 本来の力?」
『ええ、そうよ。マスターだって、たかがレベル666程度で魔王を張れるほど甘くないなんて事くらい、分かってるでしょ?』
「まあ俺がこんなことになってる訳だし、多少疑問を感じてはいたが……。やっぱりそうなのか」
『ええ♪』
その数字とスキルにイメージがひっぱられていたけど、確かに魔王を名乗るには666はちょっと低すぎる気もしてたんだよな。それに、鍵のかけらを揃えずに挑戦する場合、敵のレベルが上がるというのも疑問ではあったんだ。普通、本来以上の力を突然与えられたら、逆に力の扱いがわからず、それが原因で弱くなる可能性だってあるんだ。にもかかわらず1.5倍のレベルやら2倍のレベルやらで出てくる仕様が存在する以上、何か別の事情があるんじゃないかって。
そう考えた時に浮かんだのは、本来の力がもっと上で、ダンジョンによって縛られた結果、弱体化したのが今の姿なんじゃないかって思ったわけだ。そう考えれば、ボスのレベルが変動するという不自然な現象にも、説明が付くという訳だ。
「アズってさ、向こうではレベル4桁はあった?」
『んふ。やっぱりマスターは話が分かる男ね♪』
そう言ってアズがべったりとくっついてくる。
「そういやアズ、大精霊についてなんか知ってることはあるか?」
『あ、ごめんなさい。ああいうのについては、あたし何も知らないの』
「そっかー」
大精霊がアズを見てたし何かあるのかと思ったけど、勘違いだったか。
『エルフ達なら知ってるかもしれないけど……。この世界にわざわざ乗り込んでくるような種族じゃないでしょうし、その線での情報収集は望み薄ね』
「いるんだ、エルフ」
さすが異世界。サキュバスそっくりなデーモンもいるくらいだし、やっぱりいるんだな、そういうの。
とりあえず、皆も首を長くして待ってるだろうし、拠点に帰るとするか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
中央島に設置した臨時拠点に戻ってくると、嫁達が集まって来た。彼女達も想定外のレベルアップに何事かと驚いたらしい。
まあ、元の大精霊は『魔煌石:特大』とはいえ、レベルが450だったからな。上がっても10とかその程度だと思ってたのに、数百上がったら度肝を抜かれるか……。
こういった想定外の結果には、大抵の場合俺のやらかし成分が多大に含まれている事を彼女達は理解しているので、戻り次第正座をさせられてしまった。なので俺は、誤魔化したりなんてせず、はっきりと思い付きで追加の精霊石をぶち込んだ結果、大精霊が強化されて出てきてしまった事を伝えた。そしたら、彼女達の半分は呆れ、もう半分は納得していた。その後ちゃんと怒られた。「心配させないで」って。
久々にごめんなさいをした。
「それで、ご主人様。ここからどうされるおつもりですか?」
「どうって?」
「他の大精霊と、ガチャについてです。『水』は他の属性に比べて防御型とはいえ、強化された大精霊の一角をグングニル無しに落とせたのですから、同じ防御型の『土』は勿論の事、火力型の『炎』もイケるのではありませんか?」
「まあそうなんだが、やっぱり技の構成が事前に把握できているのといないのとでは、攻略難易度に差がありすぎるんだよな。そういう意味では『風』は本当に博打のようなものだったし、同じ轍は踏みたくないんだよ」
「そうですね」
『炎』も『土』も、技の構成についてはエスとクリスからある程度は聞けているが、やっぱりそれでもある程度でしかないのだ。2人からしてみれば大技のように見えていても、当人にとっては小手先の技だったりするかもしれないし、その情報を鵜呑みにして戦いを始めるのはちょっと怖い。『結界破壊』に対抗できる防御系のスキルがあれば安全性は跳ね上がるんだろうけどな……。
『炎』に対しては『水の大精霊』が使用していたように、クリスに『水鏡の盾』を使ってもらえればワンチャンあるかもしれないが、『土』は他の3属性に比べると存在が魔法よりも物理型だからな。こっちはもう最悪、飛んでくる攻撃をすべて攻撃で切り払うしかないかもしれない。
「クリスー」
「はい、ショウタ様」
「『土』の人、どうにかして呼べない?」
「そうですわね……。先ほどの『水』戦と、以前の『風』戦の動画を、その者に見せても構わないのでしたら、可能性がありますわ」
「お、それならまあ……。嫁達全員とサクヤさんの了解が取れればOKかな」
「承知しましたわ」
『炎』はまあ関係修復は不可能としても『土』はこれで何とかなってくれれば良いなぁ。
「……んで、ガチャについてって?」
「はい。先日の狩りで『充電』を全て終えているのですから、ご主人様は新たにガチャを回せるはずですよね。ですが、スキルポイントではなくレベルポイントを使った場合なら『弱体化』を一気に複数個具現化もできるかと思います。ですのでそこはどうされるのかと思いまして」
「ああ……。そうだな、そこも考えなきゃな」
「もしや、考えていらっしゃらなかったのですか?」
「いやぁ、まさか昨日の内に『充電』があっさりと終わるとは思ってなかったからさ。しばらくガチャは無い物だとばかり……」
「今はガチャを楽しむ気分にはなれないと」
「うん」
なんなら、更新後の内容は消費レベルくらいしか見てないし。
「……では、『弱体化』に回されますか?」
「……そうしよっかな」
「ではご主人様。スキルポイント利用による『弱体化』オーブ化はまだ実行されていませんでしたよね」
「ああ。今からレベル⇒スキルポイントの順でオーブ化するよ」
「むぅ。せっかくのレベル800の旦那様が一瞬で終わるのは勿体ないですわ」
「そうですよね……。あの、ショウタさん。一旦レベルはそのままにしませんか?」
「え?」
「そうよね! ねえショウタ君、どうせこのあとは、大精霊に挑まずに帰っちゃうんでしょ? ならサクヤさん辺りには見せた方が良いんじゃない? あとついでにお母さんにも」
アキはもう、まったく。
ミキ義母さんのメンバー入りをまだ諦めていなかったか。
「……まあ、ミキ義母さんは置いとくとして」
「ぶー」
「サクヤさんには見せても良いかな。んじゃ、スキルポイントで2個目の『弱体化』を今から作っておくな。リキャストは40時間だから、明後日の昼前くらいには使えるようになってるはずだから、『妖怪ダンジョン』の攻略タイミングはそれに合わせようか」
そうして俺達は拠点を片付け、全員集合してマップ機能からの転移で『バトルアリーナ』の関係者専用通路へと移動し、そこから自宅へと直帰するのだった。
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