ガチャ748回目:静止世界
俺とアイラ、サクヤさんが集まっているという光景から、重要な話だと察知した嫁達もこちらが気になるようで、辺りは静まり返っていた。
「それで、何が分かったんだ」
『まずそのスキルだけど、元の所持者がいるのよ』
「所持者ってことは、サクヤさんはこれを誰かから渡されたってことか。アイツみたく?」
アイツとは征服王のことだが、アズはそこんとこちゃんと分かってくれているようだ。
『あたしとアイツとの取引はそれなりに対等なものだったけど、彼女の場合は一方的で、かつ無作為なものだと思うわ。あなたも突然スキルが降って湧いたような感じだったのでしょ?』
「ええ、そうね。あの時は突然のことだったから驚いたけど、いつの間にかそこにあったわ」
「けど、なんでそいつはそんなことをしたんだ?」
『そいつのやり口はよーく知ってるわ。きっと、能力のある人間をスキルの管理下において、マスターの国を手中に収めたかったのでしょうね』
「……それは、スキル所持者が壊れることと関係があるのか?」
さっきアズは、サクヤさんを見てはっきりとそう言ってた。つまり、相手を壊す前提で『傾国の美女EX』を渡したという事になる。
『ええ。壊れた人間は、最終的に本来の所有者が乗っ取る為の器になるわ。そうすれば、そいつがダンジョンの外に顕現するって寸法よ』
「なるほど、かなりの外道だな。しっかし、『運』のないやつだな。無作為に選んだばっかりに、一番手強い人にスキルを与えちゃうなんてな」
『全くよ。本人もきっと、頭を抱えていることでしょうね。いつまで経ってもその人間は堕ちないし、むしろその力を使いこなして自らの周辺や国を盤石なものへと変えていったんだもの』
となれば、次に優先すべき行動は決まったな。
「そのスキルを渡した元の所有者を、ボコって始末か、『テイム』で支配下におくかだな。アズ的には、『テイム』した方がいいか?」
『その辺りの判断は任せるわ。あたしは別に、そいつと仲良かったわけじゃないし』
「そうなの? じゃあそいつと対面してから決めるか」
『ならマスター、手を出して』
「ん、こうか?」
伸ばしてきたアズの手に俺の手を重ねる。そしてアズがぎゅっと手を握った瞬間、周囲が静寂に包まれた。うちの嫁達は静かにはしていたが、衣擦れの音や呼吸音、耳をすませば聞こえていたはずの心音や機械の駆動音まで。何もかもが止まっていたのだ。
まるで世界が止まったような感覚に、俺は慌てて周囲を見回した。
「おぉ?」
まず真っ先に見たのは、完全に停止した嫁達の姿。まるで微動だにしないし、なによりも生物としての存在感を感じない。
動いているのは俺の手を握っているアズと……サクヤさんだ。
「皆、止まっているわね」
「あれ、サクヤさんは動けるんだ」
『マスターの片腕が彼女を抱いたままだもの。そりゃ、巻き込まれるわよね』
そういえばさっきから抱きしめたままだったな。やっぱアヤネとサクヤさんは、抱きしめたまま他の事を考え出すと、抱きしめてる事実を忘れちゃうんだよな。
にしても、この時間の止まった世界はアズと間接的にでも接触している事で入れちゃうのか。これが何の世界かはわからんが。
「で、ナニコレ」
『あたしの『大罪スキル』の基礎的な能力の一つよ。相手と精神的に繋がれるの。肉体が無い精神体との会話にはもってこいよね』
アズはサクヤさんを見ながら言葉を続けた。
『出て来なさいタマモ。そこにいるんでしょう』
ドロン。
と、モンスターの煙とは種類の違う不思議な煙と共に、サクヤさんの頭上に狐が出現した。狐と言っても一般的な動物の狐ではなく、なんというかデフォルメされたような風貌の狐であり、こういうモンスターもいるのかなと勘繰ってしまうフォルムだった。
だが、可愛らしいのは見た目くらいのもので、中身は全くの別物。その存在感は最低でも『魔煌石:大』クラスのレアモンスター。下手すると特大以上はあるかもしれない、そんなレベルの怪物だった。
だがまあ、勝てるか勝てないかで言えば、絶対に勝てると俺の『直感』が断言している。だからまあ、恐れる必要はなさそうだな。
そいつはデフォルメ狐のくせに、やたらと動作が優雅で、そっとテーブルに降り立つと、ゆっくりと顔を動かした。最初にサクヤさん、次に俺へと視線を順に動かし、最後にアズを視線が合うと互いに睨みあった。
『わっちを現界させるとは何奴かと思えば、アスモデウス様ではありませんか。人間なんぞに支配されるとは、貴女様も落ちぶれたものですわね』
『白々しいわね。そこの人間を通してずっと見ていたのでしょう』
『フン』
『それと間違えないでほしいのだけど、今のあたしは魔王ではなく、マスターのペットのアズよ。二度と間違えないで』
『ああ嘆かわしい。あの誇り高きアスモデウス様が、本気で人間に媚びへつらうだなんて。こんな魔界の恥晒し、見ていられませんわ』
『ふん、理想が高すぎて未だに男の経験が無いあなたには、マスターの良さはわからないでしょうね。日本ではあなたみたいな行き遅れのメスを喪女というのだったかしら?』
『なんじゃと!? このアバズレが!』
『なによ骨董品!』
ああ、なんか罵り合いが始まっちゃった。仲良くはないとは言ってたけど、地球に来る前もこんな感じで言い合いしてたんだろうなぁ。多分。
サクヤさんも、こんなちんちくりんの狐にスキルを渡されてあんな目に遭っていたのかと困り顔だ。
……困り顔のサクヤさんも珍しくて可愛いな。
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