ガチャ056回目:そして余すことなく伝える
(2/2)
喫茶店から出た俺は、メイドさんに動きが無かったことに若干怯えつつ、警戒の意味も込めて『鷹の目』を使いながら協会へと速足で駆けて行こうとした。
しかし、そこで別の問題が起きた。
問題というのが、情報量の多さだ。
ダンジョンで『鷹の目』を使用した時は、付近の敵の情報を上空からの視線で集めつつ、本来の目で周囲の状況を把握し動くことが出来た。しかし、街中は人の山だ。それぞれの人の動線を気にしつつ、メイドさんの接近を警戒しながら前を歩こうとすると、飛び込んでくる情報の数に眩暈が起きてしまった。
危うく、足がもつれてすっころぶところだった。
街中で不用意にスキルを使うもんじゃないな。
『知力』がいくら高まっても、こういう情報を処理する事は出来ないようだった。
そうして、2人に連絡をしてから30分も経たない内に協会へと到着し、ハナさんを経由していつもの専属部屋へと到着。心配する2人に、さっきまでの状況を説明していた。
そして少女の口から、結婚とか第二世代の話が出た辺りの説明をした。
「なんてことでしょう……」
「とんでもない嗅覚ね……」
「だ、だいじょうぶ?」
2人は想像以上に深刻な顔をしていた。
「ショウタさん、その子の名前は聞きましたか?」
「あ、そう言えば聞いてないや。でもメイドさんは、アイラさんって名前だったかな」
「美人で目つきが鋭い人?」
「そうそう」
2人は盛大にため息を吐いた。あの子も知り合いだって言ってたし、間違いないんだろうな。
続けてその後の話と、その時に考えた事すべてを語り終えると、今度は2人の顔がとろけていた。
「ショ、ショウタさんの大事な人……。えへへ」
「結婚を前提……それに子供。……でへ」
3人欲しいんでしょ。なんて野暮なことは言わない。
とりあえず、2人のこの反応は嬉しかったけど流しておく。
「そういうことだから、無事に話は終わったよ」
「……はっ。い、いえ、ショウタさん。これで安心はできません。彼女はしつこいんです」
「思い込んだら本人が納得するまで諦めないわよ。だから、なんとしてもステータスはバレないようにしてね。ショウタ君が弱いって嘘は、バレたらやばいから」
「んー……」
これだけ強くなっても、ステータスが弱いって言うのは、嘘ではないんだよな。
腕力:370(+321)
器用:299(+250)
頑丈:376(+327)
俊敏:360(+311)
魔力:311(+264)
知力:276(+229)
運:732
他人には、左の数値しか見えていないらしい。どうやら増強したステータスは、『鑑定Lv5』程度では覗けないらしい。
これだけ見たら、確かに強くは見えるだろう。
けど、本当のステータスは、この(+)を差し引いた数値なんだ。
言うなれば、俺のステータスのほとんどがドーピングだ。ドーピングも合わせて俺のステータスと言われればその通りだが、誰か……つまり子供に引継ぎをする際、果たしてどちらが参照されるのか。
それが分からない以上、もし彼女から先に声が掛かっていたとしても、検証した後は誘いを断っていたかもしれない。改めて今、正直に話すわけにも行かないし……。
諦めてもらうのは、難儀しそうだな。
「でも姉さん、アイラさんならあの問題が解決できるんじゃ」
「あー。そうね。でも、その為にはあの子がオマケで付いてくるんでしょ? ないない」
「やっぱり、無理……だよね。アイラさん、口は堅いし義理堅いところもあるけど、雇い主よりもあの子を優先しちゃうところがあるし」
「だから引き抜きなんてできないわ。他の手段を模索しましょ」
「そうだね」
なにやら気になる話をしているが、とりあえず置いといて、まずはあの話をしよう。
引っ越しの話だ。
「で、では私達の隣の部屋はどうでしょう!」
「近いし便利だよ!!」
「いやいやいや。この前調べたけど、あそこ女子寮でしょ。騙されないからね」
「うぅ……」
「ぶー。名案だと思ったのにー」
今までの2回は、彼女達が同伴していたから入れたのであって、俺1人で近づこうものならガードマンが呼ばれるらしい。支部長からも、アプリのメール機能を通じて、お小言を貰った。
「では、前のお家は退去処理しておきますね。近隣で、私達の部屋に近いお家を今日中に探しますから、待っていてくださいね!」
「いや、別にダンジョンに近ければどこでも」
「だめ。これは決定事項だから」
「さ、さようで……」
まあ、契約云々全部任せる以上、文句は言えないか。ついでに今日の分のホテルも予約を入れてくれるらしい。至れり尽くせりだな。
「あ、せっかくなら3人一緒に住めるところでも。なんて……」
「「!!!」」
あっ。2人が目を見開いた。
「ショウタさん! 必ず条件に合う物件を探しますね!!」
「……あー、今のはじょうだ」
「ショウタ君! 一度言ったからには責任持ってもらうから!」
……アキは俺が、冗談で言ったつもりである事は理解しているだろうに。マキがその気になっちゃったから乗っかるつもりだな。
まあ遅かれ早かれそうなってほしいとは思ってたけど、展開早くないかな。それとも、あのお嬢様の登場で2人も焦っちゃったのかな。心配しなくても、俺は2人を大事にするって決めてるんだけど。
「あ、そうだショウタ君。これ、約束の物」
アキは何事も無かったかのように、机の下から1本の長剣を取り出した。
「『第三世代型・木霊一号』よ。旧世代型な上に量産品だから性能は格段に落ちるけど、『御霊』の系列だから、使い方は同じで良いと思う」
「おお、助かる」
「ショウタさん。この武器は一応鋼鉄装備よりは上ですが、あまり頑丈ではありません。無理な戦いをすると折れてしまいますので、気を付けてくださいね」
「了解」
「それとね……ちょっと言いにくいんだけど」
「なに?」
2人は顔を見合わせ、頷きあった。
「「お願いしたいことが……」」
「……ぐふっ」
2人からの上目遣いに、心臓が止まるかと思った。
「ショウタさん?」
「どうどう? 効いた?」
「破壊力、あり過ぎ……」
こんな可愛い2人にお願いされて、断れる男なんている?
いねえよなぁ!?
「何でも言ってくれ!」
「自分でやっといてなんだけど、ショウタ君、チョロ過ぎない?」
「それだけ好きなんだから仕方ない」
「すっ」
「そ、そ、それでは、これを」
一瞬で沸騰したアキと、モゴモゴし始めるマキを眺めつつ、端末を受け取った。
なになに、スキル依頼注文書?
なんでも、昨日の会議で俺の技能を使って、集める事が可能なスキルを2人経由で依頼するシステムの発案があったらしい。これなら、スキルのやり取りが今まで以上にスムーズになって、更には恩も売れて『WinWin』らしい。
まあ期限も特にないし、『怪力』や『迅速』だけなら問題ないから良いかな。とりあえず1個は、『Ⅲ』への重ね掛け確認の為に使うけど。その後でも良さそうだ。
「にしても、初っ端から『怪力』7個に『迅速』9個か。えぐい量の注文だな」
「それだけ、スキルが欲しい人で溢れてるんですよ。そして、ショウタさんが期待されてるんです」
「頑張って、ショウタ君」
アキが頬にキスをしてくれる。こういう事は茹で上がらずにしてくれるんだよな。
「いってらっしゃい、ショウタさん」
マキも負けじと頬にキスをしてくれた。
女神からの期待だ。答えてやんないとな!
「それじゃ、前半戦行ってきますか!」
読者の皆様へ
この作品が、面白かった!続きが気になる!と思っていただけた方は、
ブックマーク登録や、下にある☆☆☆☆☆を★★★★★へと評価して下さると励みになります。
よろしくお願いします!










