ガチャ055回目:少女の目的は
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ツインテールをなびかせた少女と不穏なメイドに挟まれて、喫茶店へと入る。
この店も、冒険者用にカスタマイズされた店であり、完全な個室タイプになっていた。注文はタッチパネルで行い、商品はレーンに乗ってやってくる。そして支払いは、『ダンジョン通信網アプリ』内の機能で可能と。これにより、誰にも邪魔されないよう徹底したシステムとなっていた。
「ふふ、ここならゆっくり話せそうですわね」
そういって少女はテーブルの対面に座った。
しかし、俺としてはゆっくり出来そうにない。
「逃げはしないから、この背後のメイドさん何とかしてくれない? 気が散るんだけど」
「あら? 想像以上に優秀なんですのね、この子の存在に気付くなんて」
「ん? 存在って……ハッキリと見えるんだが」
振り向くも、別に存在感が薄いとか、朧気に見えるとかそんなことはない。普通に美形の……視線と気迫がちょっと強めのお姉さんだ。
「お嬢様、私のスキルは一度発見されれば同じ相手にはしばらく効果がありません。隠形して近付きましたが、即座に発見されました。以後、彼にはずっと視られております」
俺は、今このタイミング以外、一度も振り向いてない。にもかかわらず『ずっと』なんて言うってことは、『鷹の目』の事を言ってるのかな?
『鷹の目』って、実際に目玉が浮いてるわけではないし、実体はないはず。それにさえ気付くなんて、本当に高レベルなメイドさんなんだな。
「まあ、そうだったのね。アイラ、こちらに来て座りなさい。ショウタ様は話を聞いて下さるそうだから」
「畏まりました」
アイラと呼ばれたメイドさんが少女の隣に座る。彼女もまた金髪なので、横に並んでいれば年の離れた姉妹のようにも見える。
さて、どんな話が飛び出るやら……。気持ちを落ち着けるためにも、糖分は欲しいよな。
そう思って手を伸ばすが、メイドさんに先手を打たれ、タッチパネルが奪われてしまった。
「アイラ、いつものをお願い。ショウタ様は、紅茶に角砂糖3つで良かったかしら」
「え、あ、ああ」
好みまで調査済みと。
ストーカーされる覚えはないんだがな。
届いた紅茶を飲み、一息入れる。
「それで、お嬢さんは俺に何の用かな」
正直、俺はさっさと話を終えてダンジョンに入りたかった。第一層はレアモンスター狩りには不向きだが、第二層は未確認が2体。それからマップ埋めとともに全レアモンスターの湧き地点の確認を済ませたいと考えていた。可能であれば強化体の確認も。
とりあえず、午前中にはある程度の目処は立てておきたいので、話が終わるなら早い方が望ましい。
「簡単な話ですわ」
紅茶1つ飲む動作すら、洗練され優雅に見える仕草に、俺はちょっとドキッとしてしまう。これが本物のお嬢様だよなぁ。マキは良いとして、やっぱりアキがお嬢様とは思えんわ。
「わたくしと、結婚しましょう」
「……は?」
き、聞き間違いかな??
突然……え? 急な内容に頭がうまく働かない。
この子、今なんて言った?
「ああ、申し訳ありません。少し間違えましたわ」
ああ、良かった。間違いだったか。
「わたくしと、子供を作りましょう!」
「もっと酷くなった!」
いきなり現れて、何を言ってるんだこの子は。メイドさんも何も言わずに黙ってるし。主人の暴走を止めるのが従者の役割では!?
俺が言えた義理じゃないが、色々と手順をすっ飛ばし過ぎだろう。
俺だってまあ、出会って2日でマキに急接近して、3日目でお泊まり、4日目にデートして5日目に母親に直談判までしたさ。振り返ってみれば、俺でもちょーっと気が急いてたかなと思うのに。
この子の頭の中どうなってるんだ。
てか、なんで俺!?
「お嬢様、彼が混乱しております。些か説明不足かと」
「まあ、ごめんなさい。わたくしったら」
些かどころか説明の「せ」の字も無かったぞ。
「ショウタ様は、第二世代をご存じかしら」
「……ダンジョン発生以降に誕生した、いや。正確には、冒険者同士の間に生まれた子供の事。だったかな」
「そうですわ。高位冒険者であればあるほど、その子供は優秀なステータスやスキルを受け継いで産まれてくるというものですの。勿論、産まれたときは皆レベル1ですから、強くなれば親を超える事も可能と言われていますわね」
その話は、ダンジョン発生以降度々話題になっていたから、自然と耳には入って来る。
ダンジョン発生以前に産まれた人間は、親のステータスは一切関係なく、自身の努力と才能でステータスを成長させてきた。だが、第二世代に関しては、産まれた瞬間から格差が発生してしまうという、なんともな話だ。
まあ親も人間だ。無用な騒ぎは避けたいと思う人が多いんだろう。子供のステータスを公開する人はそう多くは無いようで、実際どれくらいの格差が発生しているかは不明だったりする。
そして噂だが、明確に第二世代と判断出来るほど、圧倒的に強い子供が生まれるのは稀らしい。
そもそもの親が、高位の冒険者である必要がある。その為、高いステータスを保持した子供が発見されたのは、本当につい最近になってからの事だったはずだ。
ただ、第二世代の特徴は、初期ステータスが高いというだけで、『SP』やレベルアップ成長値は不明のままだ。なぜなら、10歳にも満たない子供を、ダンジョンに入れるわけにはいかないからな。
だから今のところ、第二世代はそこまで大きな期待はされていないはず。それよりも、現役の冒険者が強くなって活躍することを願う風潮が強い。
「それで、なんで今、そんな話が出たわけ?」
「んもう、察しが悪いですわね。ダンジョンが出現したこの10年。今まで、スキルオーブを安定して入手出来た人はいませんの。だというのに、あなた様はこの初心者ダンジョンに現れて、1週間も経たない内に一体いくつのスキルオーブを手にしまして? 自分で使う分も確保しつつあれほどの量を出品するなんて、ハッキリ言って異常ですわ」
「……勘違いしているようだけど、俺が出品したのは『怪力』1つだけだよ」
「誤魔化さなくて結構ですわ。本日のオークションで、あなたが7つものスキルを出品している事は調べがついておりますの。そんな事をやってのけるあなた様が、普通のFランクなはずがありませんわ。あなた様の話を知って、わたくしは運命を感じましたの。あなた様こそが、わたくしが伴侶になるに相応しい御方だと! ですが、それほどの腕をお持ちのはずなのに、ここいらの冒険者達はあなた様の事を蔑ろにしがちです。という事は、力を隠しておいでなのでしょう? 悪用されないように、周囲には黙っているのではなくて? ですが、怯える必要はありませんわ。わたくしの家が後ろ盾となるのですから、これからは堂々と胸を張ってよいのです。そしてわたくしと結ばれ、強い子を育みませんこと?」
少女の捲し立てる内容に、俺は唖然としてしまった。
言ってることは無茶苦茶だが、まあ……分からないでもなかった。この子はたぶん、俺の驚異的な能力を察知して、いち早くスカウトをしに来てくれたんだと思う。最終的な目的はアレだけど。
彼女は、俺の力を受け継いだハイブリットな子供を作って、きっと何か成し遂げたい野望があるんだろうな。……たぶん、1週間前の俺なら、認められたことが嬉しくて飛びついていたかもしれない。
けど、今の俺には大事な人たちがいる。
だから……。
「さあ、この手を取りなさい。あなた様は、わたくしが幸せにしてみせますわ」
いつぞや、この口から出てきたような言葉に、思わず口元が緩むが……かぶりを振った。
「お誘いは魅力的だし、興味深い話だけど、お断りします」
「……え? な、なぜですの!?」
断られるなど微塵も思っていなかったようで、少女が驚き立ち上がった。
「俺にはもう、結婚を前提としてお付き合いをしている子達がいるんだ。だから、お嬢さんの誘いには乗れないよ。……それに、俺は君の言うように強くはないよ。元のステータスは最弱だし、成長曲線も『SP』も最低値。……だから、もし仮に、俺と君の間に子が出来たとしても、第二世代としてではなく、普通の子供になるんじゃないかな。だから、期待させて悪いけど、お嬢さんの野望には協力できない」
ま、今はそんな未来よりも、身近なダンジョンを余すことなく制覇していく事に専念したいんだよな。
「そ、そんな! まだ2人とはお付き合いしていないと聴きましたのに!」
「うーん、それは昨日までの話だね。彼女達に告白して、親からも許可をもらった。だから悪いけど、君と結婚することはできない」
「ガーンですわ!」
擬態語にすら語尾を付ける彼女がおかしくて、笑ってしまいそうになる。
なんとかそれを我慢して席を立った。
「そういう訳だから、ごめんね」
俺は唖然とする少女を置いて、喫茶店を後にした。
メイドさんは、俺が部屋を出るまでじっとこちらを見ていたようだったが、口を挟むことも追いかける素振りも、見せる事はなかった。
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