ガチャ022回目:招かれざる客は
今日からまた3話です。(1/3)
「おはようございます!」
翌朝、協会の扉を開けると眩しい笑顔で微笑むマキに出迎えられた。どうやら俺が来るのを、エントランスで待ち構えていたようだった。
「お、おはようマキ。もしかしてここで待っていてくれてたの?」
あまりに突然だったので、心の準備が出来ずにビクッとなってしまった。
昨日彼女との仲は深まったとは思うが、彼女の距離感の縮め方は、俺の想像を軽く超えて来ていたようだ。挨拶を交わすと、マキはこちらに駆け寄ってきて、目と鼻の先の位置で止まった。それは手を伸ばさずとも触れられるほどの距離で、彼女の吐息がこちらに届くほどだった。
昨日以上に近い! 甘い香りに理性が飛びそう!!
こ、ここはなんとか平静を保たなければ……。
「はい、ショウタさんはいつも同じ時間に来るって姉さんが言ってましたから、昨日と同じかと思いまして」
「そうなんだ。確かにいつ来るかは伝えてなかったね。待っていてくれて嬉しいよ」
「はい! では早速会議室に行きましょう! 見せたいものがあるんです!」
そう言ってマキは、俺の手を掴んで引っ張っていく。
どうやら、こちらの緊張には気付いていないらしく、彼女は1秒でも早くその成果を見せたいらしい。楽しそうなオーラをまき散らす彼女は、いつにも増して早足だった。
彼女の普段とのギャップに、協会にいた誰もが呆気にとられた様子で、今日は野次も舌打ちも、それどころか嫉妬すら飛んでこなかった。会議室のあるフロアへと辿り着いた辺りで、背後から叫び声のようなものが聞こえたが、まあ気にしないで良いだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもの会議室に足を運ぶと、そこには見た事のない武器や防具と共に、居るはずのない人物が待ち構えていた。
「やっほー。3日ぶりだね、ショウタ君」
「え、アキさん!? ここにいるってことは……サボりですか」
「ちょっとー、開口一番それってどういう意味よ。あたしだって仕事でいるんだからねー」
「じゃあ、第777支部の方は……」
「あっちは後輩に任せてきたわ。座ってぼーっとしてるだけでお給料入るって言ったら喜んで代わってくれたわよ。これも人望よねー」
いや、そんな仕事なら誰だって代わってくれると思いますけど……。
「だからこれからは、ちょくちょく顔を出すわ」
「ええー……?」
「そ、そんな嫌そうな顔しないでよ。傷つくじゃない。……あ、わかった。マキと2人っきりの時間が取れないから嫌なんでしょー?」
「ちょっと、姉さん……」
またいつもの様に揶揄われ始めてる。けど、マキの前でやられっぱなしじゃいられない。今日は反撃してやる。
「そうですけど」
「え」
「今日はマキがお弁当を作ってくれるってことで、楽しみにしてたんですよねー。あー、マキの手作り弁当楽しみだなー。それで、アキさんはいつ帰るんですか?」
そう言ってみると、アキさんはぽかーんとしていた。しばらくするとプルプルと震え、あろうことか両目いっぱいに涙を貯め始めた。
「……ふぐぅぅ」
「え」
「うえーん! ショウタ君がイジメるー!」
そしてボロボロと涙を流し、大泣きし始めた。
「!?」
「はいはい、姉さんの好きなクッキーがありますからね」
「えうぅ~」
マキは慣れた様子でアキさんを宥めていたが、俺はショックを隠し切れなかった。
何だこの生き物は。アキさんの皮を被ったこの小動物は、一体何者なんだ。
「ショウタさん。姉さんはショウタさんと会えなくてとっても寂しかったんです。だから、優しくしてあげてほしいです」
……いやそもそも、寂しさを感じる器官が、この人にあったのか?
悪魔が人間のフリをしてるとばかり思ってたのに……。でもこんな大泣きしてるところは初めて見た。それにマキがそう言うのなら、きっとそうなんだろう。……けど、今まで見てきたアキさんとは違い過ぎて、まだ困惑が勝つ。
「うぅ……もぐもぐ」
アキさんは小動物の様にもそもそとクッキーを食べ始めた。うぅん、こう見ると、困ったことに可愛いと思えてしまうけど……。
とりあえず、アキさんの揶揄いには反撃しないほうが良い事が分かった。それ以上の攻撃で、こっちの精神がガリガリと削られるみたいだから。
クッキーを食べるたびに、段々アキさんは落ち着いて来たようだ。けど、まだ空気が落ち込んでいる気がする。泣かせたのは俺だし、何か話題を変えないと……。
そう思って部屋を見回していると、昨日までは無かったひび割れが天井近くの壁に出来ていた。なんだ? 爆発でもあったのか?
「マキ、あれは一体」
「……あ、それはあたしがやったの」
「アキさんが?」
暴れたんですか? と口から出そうになったが、なんとか抑え込む。
「昨日マキから話を聞いてたのよ。支部長が、部屋の会話をどこからか聞いてたって話。あの人ならやりかねないなーと思って探して見たら、案の定よ。しかもこの部屋だけ。巧妙に隠してあったけど、壁ごとぶっ壊しておいたわ。ほんっと、心配性なんだから」
「支部長が心配してくれるのは嬉しいんですけど、これはちょっとやり過ぎです。ショウタさんも気付いていらっしゃいましたよね」
「えーっと……?」
なんのことだろう。とりあえずマキが怒ってるのは解った。アキさんも、呆れてる感じがする。
もう一度、ひび割れた壁の中をよくみてみる。怪しく光りつつも、半壊した機械らしきものが見える。あの形状に、反射する光は……レンズ光か? となると……。
「なるほど、カメラか。気付いていた訳じゃないけど、なんだか嫌な予感がしたんだよね」
「ま、そこはあたしが直接支部長に文句言っておくわ。ふふ、それにしてもショウタ君ってさ、最近勘が鋭い事ってない? 例えば危険な雰囲気を感じるとか、変な感覚を受けるとか、細かい事まで目が向くようになったとか、この場所は危ないとか、さ」
「え、あー……そうですね。確かに多いと思います」
ダンジョンではその感覚に何度も救われた。ダンジョンの外だと、基本的にアキさんと支部長からしか感じてないけど。あと、この部屋もか。
って、この部屋も支部長絡みではあるか。
「協会本部の研究レポートに興味深いのがあってさ。いわく『『運』のステータスはなにも『運』が全てではない』ってものなんだけど」
「『運』が全てではない?」
哲学か何かか?
「そう。そのレポートではね、『運』を上げると『運』そのものの他に、通常6種のステータスでは対応していない、目に見えないものが上昇するんじゃないかって言われているの。例えば、ショウタ君が感じていた事をレポートの通りに言葉で表すとすると、『直感』だね。そして『周囲の機微』を正確に読み取り、『冷静に対処する力』なんかも強化されてるって言われてる」
「レポートの製作者曰く『運』は『第六感』や『感覚』にも影響を及ぼしている可能性があると示唆していますね」
「まあ『運』を徹底的に上げている人なんてまずいないから、推測……どころか、与太話に思われてるみたいだけどー。ねえショウタ君、経験ない? 普通なら慌てる場面でも、冷静に見極められたとかさ」
「……」
確かに、言われてみれば思い当たる事がいくつかある。
まず昨日の『マーダーラビット』戦。死が間近に迫っていたにも関わらず、常に冷静に行動できたと思う。死ぬような経験や大怪我をしたことが無いから、危機感が感じ辛かっただけかもしれないけど、それにしてもちょっと落ち着きすぎていた。
むしろ楽しんでいたか。
初日の『ホブゴブリン』戦もそうだ。いくら十分なスキルとステータスがあると、確信していたとはいえ、当たったら骨が砕けるだけじゃ済まないレベルの攻撃を前に、距離を置くという選択肢が頭には無かった。
ただひたすらに近距離で回避をしつつ、攻撃を繰り出していた。
そして特に落ち着いて対応できていた点としては、やはりスライムの件だろう。最初の頃は、色違いのスライムが出るたびに慌てたり取り乱したりしていたのに、初見だった『虹色スライム』の時はひどく落ち着いていた。スライムの処理に慣れたとはいえ、あんな異常の塊相手に、あまりに冷静過ぎた。
「ま、『女性の機微』を読み取るのは、まだまだだけどね!!」
「もう、姉さん!」
「……」
やっぱり、この揶揄いは慣れないや。
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