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ガチャ138回目:封鎖当日

「……何を企んでるのか分からないけど、まあ良いわ。好きになさい。それと、例のビデオの件だけど、うちのダンジョンはいつから用意が出来そうかしら」

「とりあえず第一層は今日の封鎖で。第二層も、まあ数日あれば行けると思いますよ」

「そう……、助かるわ。なら、第一層と第二層、強化体を除いた全てのレアモンスター……通常レアモンスターとレアⅡを、全てカメラに収めてみなさい。それを達成出来たなら、あなたのランクを『A+』に推薦することが出来るわ」


 支部長のその言葉を受け、彼女達からワッと歓声が上がる。

 その展開についていけてないのは、どうやら俺だけの様だった。


「『A+』? 推薦?」

「ショウタさん、『A+』は一部の支部長にしか推薦が許されていない稀有なランクなんです。協会や世界に多大な貢献を齎した人にしか付与されません」

「ちなみにあたしやヨウコ先輩には、その権利はないわよ。それに推薦というだけで、最終的に合否の判断をするのはお爺ちゃんだから」

「ほへー」

「今まで誰もなしえなかった事をするんだもの。きっとお父様も許可して下さるわ」


 明確に『A』と『A+』で分けてるんだし、何かしら優遇されたり、便利なメリットがあるんだろうな。まあその話は、説明されてもよく分からないことが多いし、必要になった時に彼女達の方から教えてくれるだろう。


「それじゃ早速、一層の調査から着手しますね。支部長、一応確認ですけど、第一層は『ホブゴブリン』だけで『マーダーラビット』やレアⅡは未確認なんですよね?」

「ええ、間違いないわ。そもそも、ある程度『運』だったりステータスが育った冒険者は、皆実益を求めて宝箱のある階層や他のダンジョンに行っちゃうから、第一層の情報は更新されないというのが現状よ」

「なるほど、確かにそうかもしれないですね」


 まあ普通の冒険者にとって、第一層は通過点に過ぎないよな。


「アキ、マキ。それじゃ、行ってくるね」

「あ、待ってショウタ君。あたし達も一緒に行くわ」

「え?」

「ほら、封鎖と言っても第二層までの直線通路には、何本も左右に続く横道があるでしょ? それら1本ずつきちんと見張る為には、協会員が目を光らせる必要がある訳。だから、ある程度地力がある受付嬢もこういう行事には参加するのよ。ほら、ヨウコ先輩の時もそうだったでしょ?」


 確かに、『黄金蟲』討伐戦の時は所属契約をしている冒険者の他に、トランシーバーで各班をまとめていた受付嬢が5人も参加していた。アキくらい強い協会員は、ああいった立ち回りが求められるのもなんとなくわかる。

 けど……。


「マキも?」

「私はあまり、こういう事は遠慮させてもらってるんですけど、ショウタさん主導の作戦ですから。参加します」

「……大丈夫?」

「安心してください。私が担当するのは入り口付近ですし、ハナさんも近くにいますから」

「なら、良いのか。辛くなったら言ってね?」

「はい。ちょっと武器を取ってきますね」


 そう言ってアキとマキが部屋から出ていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 見慣れない武器を装着した専属姉妹を連れて、『初心者ダンジョン』へと辿り着く。

 アキの武器は、スキル構成からも想像していた通り『格闘術』の様で、手脚に黒光りするプロテクターが装着されていた。あれで蹴られたら痛そうだ。

 マキの武器も、スキル構成通り『槍術』をメインとするようで、漆黒の槍を背負っていた。どちらも武器レベルとしては鋼鉄以上ミスリル以下といったところで、『初心者ダンジョン』の第一層では過剰な能力を持っていた。

 それに加えて、俺からプレゼントした『金剛外装Ⅲ』もあるわけだし、これなら滅多な事も起きないだろう。それでも心配なのは心配だけど。


「アマチさん、お疲れ様です」

「あ、ハナさん。お疲れ様です、今日はよろしくお願いします」


 二本の短剣を腰に装着したハナさんが、いつものように和やかな雰囲気で出迎えてくれる。この人もしれっとしてるけど、たぶん『二刀流』持ちなんだろうな。思ってたより『初心者ダンジョン』の受付嬢って、ハイレベルなのかもしれない。


 第一層の封鎖は協会内や端末の専用ページに、デカデカと告知がされていた。けどそれとは別に、受付嬢が武装している光景が珍しくて、結構注目を浴びてる気がするな。


「アマチさん、これを」


 ハナさんが手渡してきたのは、見たことのある機械だった。


「これは……トランシーバーですか」

「ええ。『ハートダンジョン』のような大人数用の物じゃなくて、3つ分しか無いけれど。これをアキちゃんとマキちゃんに持たせておくわ。これなら、アマチ君も安心できるでしょ?」

「ハナさん……。ありがとうございます!」

「あたし達の彼氏は心配性だから、出来れば用意して欲しいってお願いしてたんだけど……。間に合ったみたいね」

「うっ……」


 仕方ないじゃないか。2人がどんなに強くても、心配なものは心配だし。

 

「んふふ。それじゃ、あたしは奥の通路に行くから、また後でね。ショウタ君」

「ああ」


 アキと、付近に待機していた協会員達が小走りで奥へと向かった。そろそろ9時になる頃合いだし、調査を開始するか。


「ショウタさん、もし終わらなかったとしても、12時までには一度ここに戻ってきてくださいね」

「了解。それじゃ、行ってくる!」


 マキとハナさんに別れを告げて、近くにあった左側の通路へと飛び込んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 封鎖は昨日連絡をしてすぐに告知がされていたためか、きちんと情報が行き届いているらしく、マップには中央の第二層に向かう通路以外、人を表す白いアイコンは1つも無かった。

 逆に、一歩横道に逸れれば、倒されずに限界まで湧き出たモンスターで溢れかえっていた。


「まずは『ホブゴブリン』とその強化体を狙う。アヤネはキラーラビットがいたら倒してくれ。アイラはアヤネの援護と回収を頼む」

「お任せてくださいですわ!」

「承知しました」


 このステータスに達した以上、わざわざ剣で倒さずとも殴打や蹴り、各種魔法で蹴散らすことなど容易かった。それにより7、8分もしない内に目標の100匹を討伐する事に成功してしまった。

 俺ってば、短期間で強くなりすぎだろ。


 煙の確認も出来たし、向かう先は予定通りマップの端。

 俺は懐からトランシーバーを取り出した。


「あーテステス」

『はーい。こちら愛しのハニー』

『ね、姉さんっ!』

『冗談よ、じょーだん。それで、いきなりどうしたの? 寂しくなっちゃった??』


 アキって、好きとか愛しの~とか、冗談ならすんなり言えちゃうんだよな。本番では口ごもるけど。


「いや、近くにいるから寂しくはないよ。ただ、1匹目がもう湧くから報告しただけだよ」

『えっ!?』

『はやっ!?』

『アマチさん凄いわね~』


 驚く2人の声とともに、ハナさんの驚きが混じった声が聞こえてきた。まあ、俺が成長したのもあるけど、ゴブリンが溢れてたお陰でもあるけどね。

 さあ、調査開始だ!

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