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ガチャ1080回目:思考誘導

「いるとわかってしまえば、あとは簡単ですわ」


『ザバッ!』

『バシャッ!』


 クリスの力によりいくつもの透明なえびが湖から打ち上げられ、空中に無防備な姿を晒す。俺は釣り上げられたそれらを、順に弓で撃ち抜いていけばいい。


『ズパパパパッ!』


 この程度の数、紫電や雷鳴を使うまでもないな。相手はたったレベル15の雑魚モンスターだ。普通に射抜いただけで、その衝撃に耐えきれず奴らはバラバラに砕けて散って行った。

 イリスならその光景に衝撃を受けかねないが、どう倒そうとドロップアイテムには影響がないからな。それに、エビって『オーバーライフ』が無くてもちょっとしぶといイメージあるし、バラバラにしておけば間違いはないだろう。


「おおー」

「ドロップした剥き身が、宝石のように輝いていますね!」

「ん。あれで美味しいとか、もうずるい」


 インビジブルシュリンプは『透明化』のスキルを持っていたが、死んで剥き身になった後でもその姿は半透明だった。透き通ったその白い身はダイアモンドのような煌めきを見せており、ドロップアイテムとして散らばるその姿は美しくすらあった。


「お食事が楽しみですね」

「まあ数はあるんだし、生でも食えるだろうから調理に回さずいくつかは普通に食ってみるか」

「賛成ですっ!」


 彼女達は今まで以上に慎重かつ繊細に、大事な物を扱うかのように剥き身を回収していく。まあ食べ物だし、雑には扱えないというには分かるんだが、昨日の切り身とは扱いが完全に別物だな。クリスも水を使役しての回収なんて手段を取らずに、むしろ水に浸かってしまわないよう風の力で浮かせて取得を優先させている。そのせいか時折優先順位から外れた魔石が零れ落ちて、いくつか湖面にプカプカ浮かんでしまっていたが、彼女達がそれを意に介す様子はなかった。

 まあ、俺が狩るペースを落とせば魔石を回収してくれるんだろうけど……。


『クリス、じゃんじゃん打ち上げちゃってー!』

「お任せください!」


 皆張り切ってるからなぁ。ここで水を差すのは無粋か。魔石なんて後でいくらでも回収できるしな。

 そうして100体のエビが狩られると、煙が集まっていく。


「皆、煙出たから一旦ストップな」


 いつもは討伐数を数えてくれていた彼女達も、狩って採取するのが最優先となっていた結果、こうでも言わなきゃ止まらない雰囲気があった。実際、俺がそう告げても皆そわそわしていた。

 こっちのレアも食べられるものでありますように。


*****

名前:インビジブルロブスター

レベル:85

腕力:650

器用:1000

頑丈:900

俊敏:50

魔力:1000

知力:300

運:なし


(アーツ)スキル】隠形Ⅲ、気配断絶Ⅲ、認識阻害Ⅲ

★【(エクス)スキル】思考誘導、意識転移Ⅱ、透明化Ⅱ


装備:なし

ドロップ:インビジブルロブスターの肉、結晶甲殻

魔石:大

*****


「おお。……ぐっ!」


 どうせ同じ類のスキル持ちだろうと警戒していたが、『気配断絶Ⅲ』のスキルがある上に、無意識に奴の存在を疑おうとする考えが突如として芽生えた。俺は気持ちを強く持ち、そのありもしない思考を外へと追いやり、俺は自分の感覚を絶対の物だと強く信じた。


「……ふぅ」


 これが『思考誘導』というスキルの効果か。本当に思考を誘導されそうになった。これは、ちょっとでも目を離せば意識が外れてしまいそうだし、複数湧かしての討伐は難しそうだな。見失ったらもう、周囲を無差別破壊するしかなくなっちまう。てか、さっきのエビもそうだったが、こいつら非好戦的だな。これが好戦的というか、陰湿なタイプのモンスターなら、仲間割れだとかそういう方向に『思考誘導』のスキルを使ってきてもおかしくないのに。


「皆、こいつの姿が見えているか?」


 奴は俺が認識していることを分かっているらしく、逃げる様子もなくこちらを威嚇するかのようにハサミをジャキンジャキンしている。威嚇のつもりなんだろうが、脅威さはまるでないな。


『ふふん、もちろんよ♪』

『大丈夫です~』

「……かろうじてね」

「ん。なんとか」


 視えているのは4人。残りの4人は……。


「み、見失っちゃいました」

「申し訳ありませんわ……」

「同じくです……」

『マスター様が仰られた煙の出現地点を映してはいますが、撮れているのかわからないです……』

「キュビラ、大丈夫。そこで問題ないよ」

『はいっ♡』


 この手の意識外し系のスキルは、肉眼での確認や認識維持は大変でも、録画となると丸わかりだからな。あとで皆で確認してしまえば……いや、『思考誘導』のスキルを持ってる相手は珍しいだろうし、それだけじゃ勿体無いかもな。


「ちょうどいい機会だし、ここでの用事が終わったら、いったん中断して全員でコイツを見失わないよう練習を重ねようか」

「ん。おっけー」

「分かったわ。けど、そんなに大事?」

「ああ。この手の搦め手スキルを持っているモンスターが他にもいる可能性はあるし、それが性根の腐ってる相手でないとは言い切れない。今のうちに『思考誘導』のスキルに抗う感覚はマスターしておいたほうが良い」

『承知しました、マスター様!』

「はいっ。絶対にマスターしてみせます!」

「エビだからと油断していました。挽回する機会を下さり、感謝いたします」

「美味しいご飯の為にも頑張りますー!」


 嫁達もやる気十分だ。


『んふ。流石マスターね♪』

『『思考誘導』はサキュバスのスキルに通ずるものがあるんですっ。だから、抗う力を身に着けるのは賛成ですよー』


 そうなのか。そういや、リリスに夢を見せられた時も、思考を誘導されていたような気もするな。即座に抗ったけども。

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