ガチャ1076回目:完全な天敵
さて、クリスにバトンタッチするにしても、まずはこの渦から離れないとな。『水の精霊核』は出現時から変わらず渦の中心部にて浮かんだまま微動だにしない。とりあえずクリスには渦から離れた水上に移動してもらうとして……。
『――』
「おっと」
水の槍が飛んでくる。その飛翔速度と数、そして秘められた威力は、渦から飛んできていたものとはレベルの違う代物だった。だが、奴自身は動かない以上、発射地点は大きく変わらないので、回避することは難しくはない。
問題は、奴をどう移動させるかなんだよな。俺がどう回避しようと攻撃の素振りを見せようと、まるで動かないこの感じ、まさか『俊敏』が0という特殊なステータスを持っているせいか? もし動かないのではなく動けないのだとしたら、強制的に持っていくことは可能だろうか?
「とりあえず、試してみるか!」
俺はクリスがいる場所を目掛けて『水の精霊核』を思いっきり蹴りつけてみる。
『ドガッ!!』
『――』
「うお!?」
なんだこの感触!? まるでダンジョンの壁を蹴りつけたみたいな、決して動かせない対象のような感触だぞ。こいつ、もしかして完全に固定されてるのか?
『――』
「おっと」
そして攻撃されたことで怒りを覚えたのか、先ほどの倍の数の水の槍が出現。反撃が重たいなっとぉ!
にしてもあの感触、クリスのところまで動かそうとなるとかなり難しそうだな。正直なところ、俺が持っているスキルをいくつか駆使すれば、あの場から移動させることは可能な気がする。けど、それをするという事は相手をボコボコにする事とほぼ同義になる訳で、当初の目的から大きくかけ離れてしまう事になる。
「こりゃ、どうしようもないな」
俺は再び大きく跳躍し、『水の精霊核』を飛び越え彼女の元へと降り立つ。
「クリス」
「きゃっ」
『――』
そしてクリスとの会話を優先するために、彼女をお姫様抱っこで抱えて、そのまま相手の猛攻を回避し続ける事にする。
「悪い、あいつを動かすのは難しそうだ」
「そのようですわね」
「アイツは攻撃を仕掛けようと離れようと、変わらずに渦の直上に居座り続けてるみたいだけど、どうする? やれそうか?」
「お気遣い感謝いたしますわ。ですが、問題ありません。わたくし、これでもSランクですから」
「……そうだったな」
普段戦闘させずに後方待機や支援をさせてるけど、彼女達は本来、一騎当千であり、その中でもかなりの上澄みでもあるんだよなぁ。忘れがちだけど。
「じゃ、このままバトンタッチしちゃってOK?」
「あなた様に勝利を持ち帰りますわ」
「よし、行ってこい!」
「はいっ」
クリスが俺の腕から飛び降りて駆け出すと同時に、俺も『次元跳躍』を駆使して奴から大きく距離を取る。流石に100メートルも離れれば、攻撃対象からは外れるらしく、その敵意はクリスへと注がれた。
その結果、想像通り……いや、それ以上の展開が繰り広げられていた。クリスは器用に渦を覆い隠すように新たな水の層を展開し、そこを足場に卓越した槍捌きを見せていた。
そして最初こそ回避をしていたものの、『水の精霊核』から放たれる水の砲弾や水の槍は、クリスが槍を振るうと同時に消失し、逆にクリスの力へと吸収されていた。吸収された攻撃は即座に同質量の攻撃として展開され、奴の本体である水晶体に傷が増えていく。
「ふっ!」
『――』
奴の『Pスキル』には『全属性耐性LvMAX』と『魔法耐性Ⅷ』がある。それにより相手の力を利用した攻撃は9割カットされてしまってはいるものの、このまま行けばクリスが攻撃をしなくても奴は奴自身の攻撃で身を滅ぼすことになりそうだ。
俺はそっと遠回りをしつつ嫁達の後ろにまで戻ってくる。
「だいぶ余裕そうだな」
「あ、おかえりー」
「ん。負ける事はまずない」
「武器がチートすぎますねー」
「流石は『幻想武器』ですね」
『向こうでも『神器』を完璧に扱える人間はそういなかったわ。元々素質はあったんだろうけど、マスターの力で完全に開花したみたいね』
『『水の精霊核』はエレメンタル系統の正統進化系統のモンスターですが、魔法しか攻撃手段がないせいで、こうも対策が取られると何もできなくなるんですね……』
『すごく一方的ですっ』
『キュ~♪』
自動迎撃機能だけでも敵の本体は削れて行っているが、クリスが全力で振るうポセイドンの槍も計り知れない威力を秘めている。彼女の槍が綺麗に入るたびに小さくない亀裂が発生しているし、遠くない内に完全破壊できそうだな。
奴の攻撃はクリスに届かず、クリスの攻撃は一方的に相手を傷つける。一方的なワンサイドゲームだ。
「……お」
よく視れば、奴の攻撃だけでなく渦潮や湖からも水のエネルギーを吸収しているらしく、ポセイドンの槍にエネルギーが集まっているようだ。となると、そろそろアレが観れるかな?
「……行きます、『海神槍』!!」
『――!?』
『ドパッ!!』
極太のレーザーのようなものが槍から放たれ、それに呑まれた『水の精霊核』は消失。後ろに広がっていた密林も飲みこみ、彼女の直線状にあった全ての存在は、丸い形で喰い尽くされていた。
【レベルアップ】
【レベルが44から825に上昇しました】
【水の精霊核が撃破されました】
【以後一ヶ月間、該当ダンジョンの全モンスターのドロップ率が上昇します】
「……昨日見た『滅びの光線』を彷彿とさせるな」
まるで超高圧のウォータージェットのようだな。威力が天井知らずだけど。あと、図らずも食糧生産に拍車をかけてしまったようだな。まあ良い事ではあるか。攻略が終わったら、国内だけでなく日本にも優先的に卸してもらうように交渉しておこう。
「属性は水ですけど、あれを『完全耐性【水】』で緩和できるとは思えませんねー」
「ん。絶対蒸発する」
「私の盾でも、何秒持つか……」
「本能が叫んでるもん。絶対無理って」
『そりゃそうよ。『完全耐性』だって品格は『高位伝説』だもの。『幻想+』の必殺技に耐えられる訳ないじゃない。ま、ちょっとは抗ってはくれるでしょうけど』
「やっぱそこにも品格格差はあったか」
となると『四神』の持つスキルは、完全無効化は難しそうだな。少しだけでもレジストしてくれるみたいだし、それで十分か。
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