ガチャ1074回目:渦の中へ
「んじゃ、行くか」
湖に飛び込み、渦潮に向かって泳いでいくと、徐々に引き摺り込まれているような感覚を受けた。実際に渦潮の影響で水流が発生しているのだが、それとは別に強い力を持った存在が挑戦者の存在を渇望していたかのような、妙な引力を感じた。視線はないが気配はある。不思議な感じだ。
やはり、この渦潮はダンジョンギミック以外にも何かあるな。
「ショウタ様、如何なさいましたか?」
『キュ?』
「いや、なんでもない」
どうやら2人は特に何も感じなかったらしい。そういやルミナスは、さっきまでこの渦潮を何度も無理やり横断してたのに何も言わなかったもんな。
「このまま流れに身を任せてれば良いのか?」
「それでも良いですし、流れに逆らわず自分から奥に泳いで行っても良いと思いますわ」
「んじゃそうするか」
『キュー♪』
渦潮に突入すると、早速勢いよく流され始めた。特に抗うつもりもないため流れに身を任せてみるが、止まっていると逆にバランスの維持が大変だった。表面上は渦潮の流れは一定であるも、そのすぐ下ではあらゆる方向から水流がぶつかり合い喧嘩をしていて、前後不覚どころか、上下すら分からなくなってしまいそうになる。
クリスの言う通り、流れに沿って泳いでいた方がまだ楽だった。戦闘とは違ってこういう経験はないから、慣れるのには時間掛かりそうだけど。
『キュー♪』
そんなふうに苦労する傍ら、ルミナスは荒れ狂う渦潮の上で寝転がり、呑気に鼻歌を歌っていた。ルミナスが作った第三層の海流よりも流れが遅いとは言え、こうも寛げるとは……。さすがである。
そしてクリスは経験者ということもあってか余裕そうであり、すぐに動けるよう俺より少し手前の位置で見守ってくれている。こちらも俺が泳げば距離を詰め、付かず離れずの距離で待機してくれていた。クリスは今の俺たちよりも、もっと弱い状態でこの巨大洗濯機を乗り越えたのだと思うと、素直に尊敬するな。
「あー……ちょっと慣れて来たかも」
『キュキュー♪』
「流石ですわ」
慣れてしまえば、流れがあって波もあるプールLvEXって感じだ。油断するときりもみ大回転しそうになるが。
そうしてしばらく流され続けていると、渦の底が目前にまで迫っていた。このまま底についたら、どこかに弾き出されるのではないかと覚悟していたが……そんなことはなく、するりと湖底に降り立った。
「んん??」
『キュ~?』
「ここも変わりませんわね」
そこは空気のある小さな空間が広がっており、湖底にもかかわらず非常に明るかった。頭上を視てみれば、そこでは変わらず水が轟音を鳴らしながら渦巻いている。どうやら本当に渦の中に降り立ったらしい。
『キュ? キュキュ??』
「どうやら、正規の手段でないと立ち入れないし、認識することもできない空間らしいな」
『キュ~』
「ショウタ様、こちらを!」
混乱するルミナスに説明していると、クリスが何かを発見した。
こいつは……。
「石碑か」
こんなところにあるとは。見つからんわけだ。
「クリスが以前来た時は無かったのか?」
「はい。ありませんでしたわ」
「その代わりに、『水』の試練を開始する何かはあったと」
「その通りですわ」
「なるほどね」
んじゃ、この石碑を調べてみるか。なになに?
『我が前に証を』
それだけか。まあ、分かりやすくて良いが。
懐に仕舞っていたメダルを取り出し、石碑に押し付ける。すると石碑は粒子となって消失し、地面が揺れた。
『ズズズズズ』
「おおおお?」
『キュキュキュ~』
地震が珍しいのかルミナスは地面の上をゴロゴロと転がった。暢気だなぁ。
そしてしばらく待っていると、地震は収まり再び頭上から轟音が聞こえてくるようになった。
「ショウタ様、今のは……」
「どこかで何か変化があったはずだ。湖の底か、あるいは密林か外海か……」
まあ何にせよ、ここから出ないとな。
「この空間の外側……出られるのか?」
「はい。外からは近付く事すら出来ませんが、中からであれば境界線に触れる事で簡単に脱出できますわ」
「クリスは、『水』の試練が終わった後はここを調べようとはしなかったのか?」
「お恥ずかしながら、もう何もないと思っていましたわ……」
まあ一度クリアしたギミックの跡地に別のギミックが現れるなんて想像もできんか。
「とりあえず脱出しようか」
「はい」
『キュキュー』
ルミナスは器用に横回転でゴロゴロしていき境界線に触れる。すると、スッと消失した。外に見える風景にはそれらしき姿は見えないし、どこかにワープしたのか。
「んじゃ俺も」
念のためクリスと手を繋ぎながら境界線に触れてみる。すると、視界が光に包まれ耳障りだった轟音も遠ざかっていく。そして目を開けると、そこには嫁達の後ろ姿が見えた。皆、心配そうに湖を覗き込んでいる。
すると、気配に敏感な嫁から順番に俺たちに気付き、振り返った。
『マスター様、おかえりなさいませ』
『あ、おにいさん♡』
「ん。おかえり。びっくりした」
「あれ、そっち!?」
『マスター! もう、心配したんだからっ』
「ご無事で何よりです」
「あれれ、勇者様。ルミナスちゃんは一緒じゃないんですか?」
「ん? そういや……」
先に行ったはずだが、いないな。
確認のためマップを開いてみる。
「……あ、いた」
外海の狭い海辺で途方に暮れているのを確認できた。
「なるほど。あのワープは完全ランダムで、俺とクリスは手を繋いでいたから『運』よく皆の傍にワープして来たけど、先行して突入したルミナスはあんなところに飛ばされちゃったのか。念のため手を繋いでおいてよかった」
「はい♡」
「んじゃ……アズ、リリス。悪いけど飛べるお前達が迎えに行ってやってくれるか。俺はここで視界を飛ばして、この階層に変化が無いか調べるから」
『はーい♪』
『はいですっ♡』
さて、この階層のどこで変化が起きたかなっと。
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