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ガチャ1067回目:しぶとい敵

 片目を閉じてマップを見つつ、ルミナスからもたらされる景色に俺は全力で集中していた。まずルミナスは水深2メートルを意識しながら湖の外周付近を1周し、そこから内側に入っていく算段らしい。水中におけるルミナスの泳ぎの速度は目を見張るものがあり、ほんの1、2分で外周付近を制覇してしまった。


「ん?」

『キュキュー』


 昨日『テイム』して思ったんだが、ルミナスは今までの孤独を埋めるかのように甘えん坊な気質があるんだよな。その為か、1周しただけなのに褒めてほしくて戻ってきてしまったようだ。頭をぐりぐりしてきたので撫で回してあげる事にした。

 まあ、『金剛外装』を張ったままだったので、『結界破壊』で軽く叩いてやる必要があったが。


「じゃ、次も頼むぞ」

『キュー♪』


 そうして泳ぎに行ったルミナスだったが、成果としてはモンスターはこの湖には生息していなかった。見かけたのは普通の……普通の? モンスターではないけど普通と呼ぶにはちょっと異質な怪魚が泳いでいたくらいだったのだ。

 マップにも赤点は映らなかったし、本当にただの魚だったようだな。キモイけど。


『マスター、何か気になるものでもいたの?』

「変な魚が泳いでたかな」

『おさかながいたんですねー』

「ん。どんな感じ?」

「うーん……深海魚みたいなフォルムしてたな」


 モンスターだったら闇系のスキルを持っていそうな、暗灰色の魚だった。


「1種類だけ?」

「いや、いくつか居たが……どれも食欲は湧かない見た目をしてたな」

「やはりそうですか。この湖ではモンスターは発見されたことがありませんから」

「こんなに広大なのに、何も無いのね」

「あるとしたら釣りができそうな事くらいでしょうか?」

「異世界魚は食用になるかどうかも含めて当たり外れが大きいですから、狙って釣る人はかなり特殊な方ですね……」

『魚の食材でしたら第三層で十分……あ、ですがニードルフィッシュは海流の外でしたね』


 それを思うと、このダンジョン、海をテーマにしてるくせに魚肉がまともに取れなかったのか。第一層では肉無し、第二層ではチンアナゴとカエルの肉、第三層ではクリオネだもんな。まともな魚がいないのである。その中でカエルは一般流通するレベルで結構な取引がされてるみたいだが……。


「いえ、ショウタ様。一応魚肉はございますわ」

「え? でも今までには……ああ、そういうことか」


 この階層以降には取れる箇所があったか。まあでも、第四層って一般的に考えればちょっと深めの階層だし、流通させられたとしても高級品になりそうだけどな。

 そう考えていると、ルミナスが戻って来た。


『キュ~』

「おう、おかえり……って、それ」

『キュ~?』

「うお、ちょまっ」


 深海魚もどきを咥えていた。その状態で頭をグリグリするのはやめてくれ。


「うわ~、確かにこれは……」

「食べる気失くしますね……」

『キュキュ?』

『欲しいならあげようかって聞いてるわよ』

「いや、いらない」

『キュ』


 そう鳴くと一口で飲みこんでしまった。お腹壊さないと良いけど、ルミナスが食べれると判断したんなら良いか。


「んじゃ俺達は今から密林の中に入って、この湖の外側をぐるっと回ってくるからさ。ルミナスはこの湖で遊んでて良いぞ」

『キュ~!』


 湖に飛び込むルミナスを見送り、俺達は密林の中へと侵入していく。まず目指すは、あの中にある赤点からだな。視界を飛ばしている時はチラッとその姿は見えたけど、直接はっきりとは視れていなかった。マップでもお楽しみという事でチェックはしてなかったし、何が来るかな。


「……お、いた」

『シュルルル……』


*****

名前:マッドバイパー

レベル:51

腕力:400

器用:450

頑丈:120

俊敏:280

魔力:300

知力:200

運:なし


(ブースト)スキル】俊足、迅速

(アーツ)スキル】隠形、気配断絶

★【(エクス)スキル】痺れ毒、絡みつく、オーバーライフ


装備:なし

ドロップ:マッドバイパーの斑皮、マッドバイパーの肉

魔石:中

*****


「マムシか」


 『隠形』と『気配断絶』持ちの上に、見た目の斑が密林に溶け込んでいて、初見だと発見は中々困難だろうな。噛まれれば麻痺毒で動けなくなる辺りがまたいやらしい。俺達には効かんだろうけど。


「マムシ……お酒……」

「マリーったら、またお酒の話?」

「ふふ、マリーですから」

「そういえばマムシ酒は滋養強壮と精力増大の効果が見込めるそうですわね?」

『へー?』


 熱い視線が注がれるが、それって異世界産のマムシでも通るのかね?


「こいつはモンスターだし、倒したら消えるだろうからマムシを漬け込む事はできないだろ」

「残念ですねー」


 そんな事を言っていると、 痺れを切らしたマムシが飛び掛かって来た。


『シャアッ!』

「よっと」


 きちんと警戒していた俺は、特に慌てずいつも通りその首を斬り落とした。

 だが、切り離された奴の頭は構わず俺の腕に噛みついて来て、残された胴体は足に纏わりついて来る。その締め付ける力はステータス以上の物を感じたが、数秒もしない内に煙になって消えていった。

 これはスキルにあった『オーバーライフ』の効果か? 死んでもしばらく動けるとかそういう事か。致命傷を与えても即死せず動き続けるってのは厄介だな。囲まれたときはかなり面倒そうな敵だ。もしかしたら、あのカメもそういう能力を持っていたのかもな。


『マスター様、お怪我はございませんか?』

「ああ、牙は麒麟兵装のおかげで刺さらなかったからな。ただ、今の動きを見るに奴が攻撃をしている最中に倒すのは、かなりリスキーっぽいな」


 殺せば攻撃もなかったことになるのではなく、殺してもしばらく攻撃してくる事を前提に動かないといけないのは、かなり気を使う事になるな。


「ん。超しぶとい敵」

「はい。このモンスターはこれが厄介なのですわ」

「地面に縫い付けるようにして倒すとか、遠くから仕留めるとか、そういう対処が必要そうですね」

「面倒なモンスターがいたものねぇ」

『わたしが全部寝かせてしまいましょうか?』

「それもありだが……。いや、俺は正面から押し通らせてもらおうかな」


 攻撃してくるのが分かっているのなら、避ければいいだけだからな。

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