ガチャ1059回目:カメの跡地
嫁達の手によって俺の前にドロップ品が並べられている間も、俺は残り続けたその島をじっと眺めていた。
だが、どうにも消える様子はなく、むしろこれは最初から島がそこにあったかのような存在感まで持っていた。島の下部には甲羅やカメの手足などはどこにもなく、完全に海底の地面と結合し、完全な島へと変貌している様子からして、あのカメはたった一度きりしか戦えないモンスターだったのか? それが分かっていたから、アズは本来持ち帰れないはずの木を採取しようなんて言い出したのか。
……それにしても、煙になる中あの場に残り続けていたら、あの島の一部にされていたってオチかな? それを避けられたのは僥倖だが……。
『マスター、どうするのー?』
「……そうだな。とりあえず島が消える事はなさそうだし、アイテムからチェックしていくか」
『マスター様、こちらのレアは如何されますか?』
キュビラが指し示す先には、十数体のレアが元気に暴れている。クリス特製の生簀の中で。
「リリスの有用性が分かったし、これからのキープは彼女の力も借りようか」
『はいです、頑張りますっ!』
そう言うと、リリスはすぐさま力を行使して、生簀に入ったレア達を眠りにつかせた。これくらいの数は余裕そうだな。カメの時ほどの緊張感もない。
「リリス、今どれくらい余裕ある?」
『このレベル相手でしたら、先ほどのように数十体まで増えても大丈夫ですっ!』
「おおー、凄いな」
『えへへ』
「わたくしも、維持が楽になりましたわ。このように暴れない相手の維持でしたら、総数が50を超えても1人で確保し続ける事は容易ですわね」
「そうか。まあでも、今日は疲れたし極力増やさずにまっすぐ帰ろう。そんで、海流のそばでフィッシュ連中は締めてしまおうか。それまではキープを頼むな」
『はいですっ』
「承知しましたわ」
んじゃ、アイテムのチェックに入るわけだが、まず見るべきはこのメダルの箱だよな。
名前:青の宝箱【亀】Lv――
品格:≪遺産≫レガシー
種別:モンスタードロップ
説明:190ダンジョンでのみ出現する特殊な宝箱。
★特殊なモンスター枠のためレベルは存在しない。
カメは特殊枠か。『クラーケン』やサメも特殊枠だとは思うんだが、あっちはレベル制だったしな。……目の前の島から察するに、あの2体は時間で再チャレンジができるのかもしれないな。
あのカメは会話ができるのなら『テイム』するのもありだったが、先制攻撃がこちらだったとしても、お返しに殺意MAXの光線をぶっ放して来るような奴だしな。意思疎通ができる奴だったとしても、あれはある意味泳ぐ災害的な存在か。
先制攻撃にしたって、ダメージのない甲羅部分にメダルを激突させただけだしな。うん。
「んで、中身はっと……うん、いつものメダルだな」
名前:メダル【千年亀】
品格:≪遺産≫レガシー
種類:トリガーアイテム
説明:千年亀を討伐した証。
★しかるべき場所に奉納することで道が開ける。
これも目指す先は島の中心部と。
んで、カメの力を宿したメダル達もまた、次の目的地として島の方を指し示している。ちょっと何キロも離れているからか、3種のメダルも下位の2種のメダルも同じ方向を示しているように見えるが……どうなんだろうな。この辺は直接行って確認するしかあるまいな。
そんでもう1つは……。
「『プラチナの宝箱』か」
まあ、サイズ感や規模感から考えても十分その資格はあるというか、ここから更にワンランク上が来てもおかしくないレベルではあるのよなぁ。まあでも、サメの時にも感じたけど、元々はもっと弱くてスタンピード限界域を越えては海流に阻まれてを繰り返した結果、レベルが急上昇した事を考えれば、これでも十分すぎるものではあるか。
んで、サメの宝箱も後回しにした以上、この宝箱もお持ち帰りして子供達に見せようかな。
そしてドロップしたスキルは……見えなかった『Eスキル』はそもそもドロップしないから仕方ないとして、見えていた範囲のものは全てドロップしているようだ。
リストにあった千年亀の血液、千年亀の神骨、千年亀の大外郭の3点も確認できたが、前者2つはこちらで独自採取したものが大量にあるのと、鑑定結果は同等であることから、ドロップ品と直接採取品に違いはない事は間違いないな。
「あとは……あの島か」
『行ってみるー?』
「ああ、行ってみよう。ルミナスも来るか?」
『キュー? キュキュキュ』
『波打ち際まで行くそうよ』
「よし、じゃ全員で行こう」
そうして島に上陸して、周囲を索敵する。だが、この島そのものには何の違和感もないし、これが元々カメだったなどと、先ほどの映像がなければ誰も信じないだろうな。それくらい、世界に馴染んでいる。
そしてルミナスを置いて少し奥に進むと、明らかに地面を掘り返したようなポイントへと辿り着いた。
「んで、あれがアズがやったっていう?」
「はい。あの辺りは根の広がりが浅そうだからと、アズさんが引っこ抜いていたところです」
「ふむ」
チラリとアズを見ればしゅんとしていた。反省は続けているようで何よりだ。4本と言う数字はアズなりに周りを気遣い、カメの睡眠妨害にならない範囲で選択した結果であり、本音を言えばもっと欲しかったはずだろう。……やっぱ半分の2回にしてあげるかぁ。
「アズ、今ならカメはもう気にしなくていいから、欲しい本数を確保して良いぞ」
『ほんと!?』
「ああ。けど、アイラやマキの迷惑にならない程度には抑えてくれよ」
『は~い♪』
ヤシの木採取は酒飲みに任せて、残りの面々と一緒に俺はカメの中心部へと向かった。
「……ここが、メダルの交換地点か?」
『はい。カメ存命の時と変わった様子は見られませんね』
「ほーん……」
そこには謎の素材で作られたオブジェが設置されており、小さな受け皿から水が溢れ出し、零れた水は周辺へと無作為に広がっていた。まるで、外見や周囲の囲いを作る前に水が出る機構だけ完成させた、不完全な噴水みたいな感じだな。
そしてあからさまに怪しいのに、鑑定系統で見ても何も視えないのが少し解せないが。
「もしかして、この水が出てる受け皿にメダルを入れて交換する感じか?」
「その通りですわ」
「まるでトレヴィの泉だな」
『トレヴィの泉って何ですかぁ?』
『背を向けた状態でコインを上手く投げ入れると、願いが叶うと言われている泉ですよ』
『そんなのがあるんですね~』
「ん。こっちは背中を向ける必要は無かったけど」
「普通に投げ入れたら、そのまま吸い込まれて行ったわよ」
「へぇ」
そんな不思議な泉もどきが鑑定系統で視えないのは、カメを倒してしまったからだろうか?
そう思案するが、ミスティからすぐに否定が飛んでくる。
「ん。ちなみに私達が乗り込んできた時も、何も見えなかったよ」
「そっかぁ」
なら違うか。
その後、後回しにと放置されていた『青の宝箱【フィッシュ】Lv5』の内1つを開封し、デフォルト状態のメダルを投入すると、ちゃっかりカメの力が反映されたメダルが完成してしまった。
どうやら、倒す前にメダルを交換しなければならないというのは杞憂だったらしい。まあ、そのおかげでリリスの能力が見れた訳だし十分ではあるが。あと、少し気になっていたメダルの指し示す先についてだが、これは近くにある交換場所を指し示す設定らしく、泉の近くなら泉を。ルミナスに近付けばルミナスを指すようだった。ルミナスと出会ったタイミングと、海流を越えたタイミングで示す先が変わっていた理由はこれだったんだな。
納得。
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