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ガチャ1056回目:サキュバスの能力

「ああそうだ。リリス、これを」


 俺は『マジックバッグ』から長らく使う予定のなかったものを取り出してリリスに手渡した。


『あ、これは……お母様の?』

「ああ、アスクレピオスの杖だ。元々は回復役用に置いといた物だけど、この杖は癒しの効果だけじゃなくて幻惑効果も2倍になる上に、拡大解釈も可能になるんだろ? それなら、お前とだって相性がいいはずだしな」

『こんな貴重な物を、わたしに……?』

「良いさ。どうせ使う予定なんて決めていなかったんだし、元々はリリスのママの物だってんならリリスが使っても問題は無いだろ。なあアズ」

『そうねえ、コレを持ったアイツの能力は半端じゃなかったわ。だからその力を継いでいるリリスなら、きっと使いこなすことができるでしょうし、それがあればマスターの役に立てるかもしれないわよ?』

『……!!』


 杖を見た時は手を伸ばすか悩んだ様子だったが、アズの言葉に背中を押されてか、勢いよく両手で掴んだ。


『わたし、やってみせます!』

「安心しろ。失敗しても俺がカバーしてやる」

『そうそう、だから気楽に行きなさい♪』

『はいっ!』


 リリスは杖に魔力を込め、そのまま天に掲げた。


『行きます! ……我が敵に安らぎの夢を見せよ! ドリームナイトメア!!』

『……!!?』


 杖から黒い球体が発射され、一瞬でカメに着弾。そのまま球体は真っ黒な霧へと変質し、奴の頭全体を包み込んだ。視界を封じられたカメは抵抗するかのように身体を強張らせたが、次第に力が抜け落ちて行きこちらに対する敵意も霧散していく。

 そこからものの数秒ほどで全身が弛緩し、手足や頭を出しっぱなしにしたまま動かなくなった。霧の奥に見える奴の顔を見る限り、どうやら目を閉じて意識を手放した様子だった。


「おー、強制睡眠か。すごいなサキュバス」

『よし、効いたわね! 皆、アイツの背に乗り込むわよ!』


 そう音頭をとって、アズと嫁達が奴の島に向けて出発して行った。あとは報告を待つだけだな。


「しっかし、こんな大型の相手でもちゃんと効くんだな。見直したよ」

『ふぅー……。それは全てこの杖のおかげです。これがなければ、あのサイズと格持ちのモンスター相手に、夢を見せるなんて不可能ですよぉー」


 リリスが緊張した様子で盛大に息を吐き、愚痴をこぼした。その表情からは安堵ではなく、まだ緊張の色が見えていた。


「もしかして、術をかけたらはい終了というわけにもいかないのか?」

『そうですよぉ。かける時ほどの負担はないですけど、維持は必要なんです。気を緩めたらすぐ目覚めてしまうかもです』

「そうなのか」


 じゃあめいいっぱい褒めるのは全部終わってからにしてやるか。


「なら、話しかけないほうがいいか?」

『えっ? それくらいなら大丈夫ですよー。いっぱいお話ししたいですっ』

「じゃあこっちおいで。話をしようか」

『はいです!』


 『空間魔法』で足場を作ってその場に座り込み、リリスを抱き寄せる。そこから俺達は他愛もない話を始めるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



『上陸~っと♪』


 それぞれが『空間魔法』と『浮遊術』を駆使し、あたし達はカメの甲羅に広がる()()に降り立った。それにしても、向こうでは海上の楽園とされた『千年亀』の秘境に乗り込めるだなんて思わなかったわ。

 まあでも、随分と若い個体みたいだし、楽園って程でもないのかしら?


「ん。ここがカメの甲羅とは思えない。地面がちゃんとしてる」

「足元に広がってるの、普通に土や砂よね? これ」

「不思議な感じですね~。植生も南国って感じですし、秘境って言葉がぴったりです」

「アズさん、リリスちゃんの術に制限時間はあるのでしょうか?」

『心配ないわ。あの杖もある事だし、マスターの『魔力譲渡』もあるから制限時間は無いに等しいわよ。サキュバスとしての食事は素人でも、その能力は折り紙付きなんだから♪』

「では、今回のご褒美にショウタ様と2人っきりの時間を過ごさせてあげましょうか。ほどほどに時間をかけて攻略しましょう」

『ですがあの術の維持にはかなりの集中力が必要だと思います。マスター様とのひと時を楽しむ余裕は、あまりないかもしれないですね』

『そこはほら、あの子まだマスターの嫁じゃないんだし?』


 ……やることやってるけど。


『とにかく、手分けしてメダルの交換場所を探しましょ。20分経っても見つからなければ、『解析の魔眼』を使ってゴールに集合しましょ♪』

「最初は使用しないで、目や感覚を養うのですね」

「ん。ショウタの視点になって考える」

『怪しい場所……全部怪しく見えてきますね』

「まずは中心部でしょうか?」

「ヤシの木に登れば何か見えるかしら」

「あのヤシの木……ヤシ酒やココナッツ酒は造れるのでしょうか。だどしたらどんな味がするんでしょう。気になりますねー」


 なんだか1人だけ目的変わってるけど……まあ良いでしょ。ああ見えても彼女は時間はきっちり守ってくれるし、そういうところも含めてマスターは愛してるみたいだし。

 実のところあたしもヤシ酒に興味あるし、手伝っちゃおうかな♪


「ああ、でもモンスターの背に自生している植物を採取したら、消えてしまうのでしょうか?」

『マリー、この手のモンスターのアイテムは消えずに採取できるはずよ』

「そうなんですかー!?」

『それに、あたしも飲んでみたいから、採取手伝うわよ♪』

「おおっ、アズさんがいれば百人力ですね! どうせ勇者様が倒しちゃうんですし、消えちゃう前に根こそぎいっちゃいましょう!」

『あー……。()()()()だと再生はしないから、半分くらいに留めておいた方がいいかも』

「そうなんですかー?」


 この情報、マスターに伝えておくべきかしら? ネタバレになっちゃうかしら?

 ううん、悩ましいわね~。

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