ガチャ1034回目:メダルの示す先
「これが例の流れの激しい海流か」
俺の目の前で、左から右に向けてとんでもない勢いで水が流れていた。試しに小石を生成して中に弾き入れると、一瞬で視界から消えていってしまった。
最初は流れの激しいだけの海流かーと舐めていたけど、そりゃそうだよな。普通の一般人とは隔絶した強さを持つ冒険者達がほとんど抵抗できずに流されるって話なのだ。そんな化け物級の海流となると、これくらいにはなるか。
「この海流にあえてモンスターのレベルを当て嵌めようとするなら、推定300から500といったところか」
それくらい、普通の冒険者には抗えない猛烈な海流だった。そりゃ誰も近づかねえわ。
まあ俺らなら色んな方法で強行突破は可能だろう。例えば『重力操作』で身体を極限まで重くして、海底をのっしのっしと歩くとか、海流を無視して空から行くとか。けど、どうせならちゃんとした方法でクリアしたいところだよな。
「ダンジョンのことだから、何かしら正規のルートを用意しているはずなんだが……」
そう呟くと、嫁達から柔らかい雰囲気を感じ取った。
「ん。こういう時こそショウタの出番」
「普通はそんなこと考えないものね」
「ダンジョンは理不尽で恐ろしいものというのが一般的な認識ですからね」
「ダンジョンにも一定のルールがあるとしっかり把握してる人は少ないと思いますー」
「わたくし達も多少慣れてはきましたが、ショウタ様には敵いませんわ」
『おにいさんがどんな風に解くのか、今からワクワクですっ』
『ふふ、そうね。でもそういう意味でも、イズミ達の方は大変そうよね』
『ですが、彼女達も引き際を弁えているのは素晴らしい事だと思います。マスター様から攻略を託されたダンジョン攻略を断念するのは、苦渋の決断だった事でしょう』
そう。俺達がロシアへ出発するよりも先に、カスミ達は第二エリア最南端に存在する『八尺鏡野ダンジョン』に向かっていた。あのダンジョンは世間一般には一層までしか存在していないと認識されているのに、『ワールドマップ』では秘宝と、『幻想武器』の存在が明らかとなっていた不思議なダンジョンだ。何日かけてもあそこのダンジョンの次階層が見つけられないって事で、彼女達が撤退を選択したってメッセージが、さっきの昼食後に届いてたんだよな。
俺からコピーした『アトラスの縮図』と『解析の魔眼』を駆使する事で糸口はゲットできたそうなんだが、それを攻略に活かせなかったとかでイズミが悔しそうにしてた。まあ俺なら攻略できるとか偉そうな事は言えないが、普通の考えじゃ攻略できないのは間違いない。
カスミ達も産休のタイミングが近づいているし、俺が直接拝んでみても良いかもしれないな。
「……ふーむ」
そんなことを思考の端で考えつつ、攻略の糸口を探り寄せる。現状この場で俺が取れる手段はそう多くはないのだが、思いついたものをとりあえず試してみるか。
『マスター、それって』
「ああ。さっきのメダルだ。現状ヒントもなしに手に入れられたのはコレだけで、残すは中央の島の探索漏れの2択だったんだが、とりあえずコレが海流の内側か外側かだけでも再チェックするべきかと思ってな」
そしてその考えは、間違っていなかったらしい。メダルから伸びるラインの先が、まるで海流に流されているかのような速度で移動しているのが知覚できたからだ。
昼食前に見た時は、ちょっとずつ動いていたのは遠かったからであって、近くだと見違えるほど動きが早い。間違いなくこの海流に乗って移動している何かが、メダルの使う先だ。
「という訳だ。モンスターの反応は海流には存在しないが、その存在が何かはわからない。だが十中八九海流の内部にいるはずだから、クリス。捕まえるのを手伝ってくれ」
「お任せを」
クリスに位置を伝える役はアズにメダルごと譲り渡し、俺はその到来を待ち受けるため本気を出すことにした。最悪海流の中に飛び込んでこちらに引っ張る必要があるかもしれないからな。
なので俺はフルブースト状態で待機することにした。そのせいか、俺を中心に力の波動が発生し、頭上の海面では波が立っていた。揺れている気がするのは海流のせいか、それとも本当に地面が揺れているのか……。
こうも俺を中心にしてさざなみが発生していると、海底プレートの震源地にでもなった気分だな。心なしか、周囲に湧いていたクリオネ達も俺を恐れて距離を置いている気がする。
『もうすぐ来るわ』
アズの言葉に極限まで集中する。同時に『解析の魔眼』『思考加速』『並列処理』を起動して、アズが持つメダルが伸びる先を凝視する。世界がゆっくりと流れるようになり、その到来を待ち続けていると、俺の視界が何かを捉えた。
「おっ」
それは、最初は米粒みたいな小さな点だった。それは近付いてくるたびに徐々に大きくなっていき、何かの生物のようにも思えた。反応からして、地図には映らない特殊モンスターの可能性が出て来たな。
「行きます!」
クリスもその存在を知覚したのだろう。彼女の前方に巨大な氷でできた巨腕が出現。その存在を捕えるために海流にその腕を突っ込ませた。
だが、海流の勢いは強く、クリスの能力をもってしても氷の巨腕が簡単に流されそうになる。だがそれは想定内。すかさず俺が巨腕を掴む事で踏み止まらせる。後はこの腕を使って対象を上手くキャッチするまでだ。
「んん?」
そうして待ち構えていると、流れて来ている純白の存在が鮮明に視えて来た。そいつは、鼻歌を口ずさむかのように陽気な表情で海流を泳ぐ、アザラシのようなモンスターだった。
あー……。こいつ、今までになく無害そうな気がするぞ。
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