ガチャ1014回目:国際指名手配犯
マップをタップし続けていた彼女達だったが、しばらくすると全員の手が止まった。
「居ませんね」
「ん。全然」
「こっちもダメです」
「良かったと思うべきかしら?」
「どうでしょう。勇者様の『運』がどう作用するのか、予想が付きませんし」
「そろそろなんなのか教えてよ。隠すつもりはないんでしょ?」
隠すつもりなら、俺には写真を見せずにアズに見せて、俺が他の事に夢中になっている間に、勝手に探してたはずだ。それでもあえて俺に見せたってことは、そういうことだろう。
『あたしはよく知らないわよ。マスター達以外の人間に、興味ないし』
『私も詳しくはないですっ』
まあアズはそうだよな。リリスも社交性はあるんだろうけど、ここ最近外に出たばかりだし、向こうでも深窓の令嬢だったのだから家族と配下以外の存在と顔を合わせる機会が無かっただろうし。
『私はお姫様やサクヤさんのお手伝いをしているので、なんとなくは存じております』
「ほほう」
サクヤさん経由で入ってくるってことは、それなりの危険人物か。
ん? て事は……。
「ショウタも察しがついたみたいね」
「ん。ショウタが警戒するのが珍しかったから、サクヤに問い合わせたの」
「この辺りで、危険な指名手配犯が目撃されていないか……と」
「そうしましたら、サクヤさんが第一候補としてあの写真を送ってこられたのです」
「この男は、私達もよく注意するよう協会や国のトップ層からも口酸っぱく言われていたので、よく覚えています」
「そんなにやべー奴なの?」
「はい。国際指名手配犯です。国によっては見つけ次第射殺するよう警戒されるくらいには」
だいぶやべーじゃん。
「……でも普通の弾丸じゃ、相手が寝てる時くらいじゃないと効果なくない?」
今の俺でも、どんなに油断してたとしても遠距離から狙撃されたら流石に防ぐなり回避するなり可能だと思う。それがケルベロスのアンチマテリアル弾だった場合だと……どうかな?
それはちょっと分からんな。
「かなり過激な措置だとは思いますが、それでもその厳重警戒が功を奏したのか、その発表をした国々には現れてはいません。面倒を嫌ったのかもしれませんが」
「で、何者なのこいつ」
「私達と同じ『幻想』持ちです。それも、かなり悪辣な類の」
「へえ。ちなみにそれは、『幻想』の中でもどのくらいの位置にあると予想しているんだ?」
『幻想』に割り振られている武器やスキルって、結構ピンキリというか、ランクが存在すると思うんだよな。まあ、『鑑定』系には表記されてないから、人間側が勝手にランク付けしてるんだが。
『レベルガチャ』は当然最上級として、4属性の『真なる力』は中級くらい。使いこなせれば強いが、使いこなすのに時間がかかるからな。そしてケルベロスやブラマダッタは最初から強いので上級。グングニルは使いこなせれば強いが、上澄み中の上澄みでなければ振り回す事もできない為、下級扱いだ。俺の中では上級だけど。
「私達の見解としては、上級。下手すると最上級に分類されます」
「ほほぉ」
そりゃすごい。『レベルガチャ』と同等と踏んでるのか。そんなスキルを持つ奴が、射殺令が下されるほど危険人物の手にあると。
「悪辣度で言えば征服王とどっちが上とかある?」
「……ん。どっちもどっち」
間接的に被害を被っていたミスティがそういうってことは、人となりからしてもかなりやばい奴だな。
「征服王は群れて悪さするタイプで、この男は、単独で悪さするタイプですねー」
「ちなみに俺との相性は?」
「最悪ですねー」
「ん。最悪」
「殺し合い確定でしょ」
やっぱりそうなる?
「皆はそれと邂逅した時、倒せる自信は?」
「先手を取れなければ敗北濃厚ですねー」
「わたくしの氷でも殺しきる事は難しいかと」
「むしろ、討伐できるのはショウタ様だけだと思います」
「マジか」
そんなヤベー奴なのか。
そんな奴相手に、ネタバレがどうのと言ってる場合じゃないな。
「よし。それじゃあそいつのスキルの詳細を教えてくれ」
そう言うと、皆が嬉しそうな顔をした。説得が効いたと思ったのだろう。
そして顔を見合わせ、代表してクリスが答える事となったようだ。
「スキル名は不明ですが、『協会』はかの者を現す二つ名として『強奪』と名付けました」
「『強奪』……。穏やかじゃないな」
そしてその単語には、どこか覚えがあるな。なんだっけ……?
「この『強奪』はその名の通り、相手のスキルを奪い取ります。手法としては相手のスキルを把握し、スキル名を宣言する事で相手からどのようなスキルでも奪うことができるのだそうです」
「それは人でもモンスターでもお構いなしなのか」
「はい。ただ使用には何かしらの制限があるようでして、連続使用してくる事は稀です。そのため、かの者の手法が知れ渡ってからは、上位の冒険者は『鑑定妨害』もしくは『鑑定偽装』の取得が基本となりましたわ」
妨害か偽装のスキルにまず1回使わせてから、本命のスキルを『強奪』するまでの間に制圧する為か。低位の冒険者ならその程度の時間は何もできずに奪われるだけだろうが、上位の、更に上澄みの冒険者なら、返り討ちに遭うだけだもんな。
そりゃ、相手も迂闊には手を出せないか。
「活動開始のタイミングは、被害報告からして5年ほど前と言われてるんですよー。昨年は日本にも現れるのではないかと噂されていたんですが、来日する事はなかったみたいですね」
「サクヤさん曰く、たまたま用意した策が機能したと仰ってましたね」
「ふふ、これもショウタのおかげだったりして」
「ん。ありうる」
俺の『運』がそいつとの遭遇を遠ざけたと。
皆が警戒するレベルの存在みたいだし、ガチャを入手したばかりの俺が遭遇したらひとたまりもなかっただろうな。とすると、俺の知らない所でも『運』は効果を発揮していたという事か。
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