ガチャ1005回目:フライハイ
ガチャした日からさらに数日後、俺達はいつものように飛行機に乗り、空の旅を満喫していた。外はまだ明るい午後1時。今から向かうのはロシアの首都モスクワだ。日本との時差は6時間で、俺達のジェット機だと8時間ほどで到着するそうだ。
なのでモスクワに着く時刻は、向こうでいうところの午後3時頃ということだな。
「……」
いやぁ、いつにも増してジェット機の中が静かに感じるな。そう感じる理由は、前回『悪魔のダンジョン』に挑んだ時よりも、今回の攻略参加メンバーが少ないためだ。
まあ、マリー達は相変わらず酒盛りしてるから、静寂とは程遠いんだけど。
『マスター、寂しそうね?』
「多少な」
『仕方ないですよ。彼らはいつもマスター様のお側にいたんですから、それが離れるとなった時の喪失感は、計り知れません』
「タマモもお留守番なのも、ちょっと寂しい」
前回の記者会見で発表した『弱体化』の一般化装置。開発のためにもなるべく集中したいんだそうな。本人からそう言われては、頼んだ身としては引くしかなかった。
『ふふ。そのお言葉に、お姫様も喜ばれるかと。後で伝えておきますね』
「ん。ぎゅってする?」
「して欲しいかな」
そう言うと、彼女達がノータイムでくっ付いてくる。今回はタマモだけでなく、エンキ達5名が留守番をすると名乗り出たのだ。
理由は明白で、赤ちゃん達を見守りたいんだそうな。子供達と精神年齢が近いというのもあるんだろうけど、エンキ達は俺の子供みたいなものだしな。同じ子供として、あの子達のことは守ってあげなきゃいけないと考えているんだろう。
実際、子供達もエンキ達に懐いているみたいだしな。多少寂しいが、俺も子供離れをしなければ……。
でもまあ寂しいもんは寂しいので、今は嫁達に甘えるとしようか。
『おにいさん、今日は良い夢を見られるようにしますか?』
「どうせなら、現実で良い夢を見せてくれるか?」
『はいっ、頑張りますっ!』
今回、人員は減るばかりではなく、リリスがついて来てくれてるのは幸いか。沢山可愛がるとしよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、ジェット機は順調に目的地へと到着し、俺達は協会関係者と思しき人達から歓待を受けた。
「ようこそいらっしゃいました、アマチ様。私は『深海ダンジョン』の支部長をしております、レオニートと申します。以後お見知り置きを」
「どうもー」
レオニートさんと軽く握手をする。うーん、前回同様、本当に日本語で問題ないな。日本語のグローバル化が進んでたりする??
そのまま俺達は滑走路内に置かれていたリムジンへと案内され、移動する間、ダンジョンに関する説明を受けることとなった。といってもネタバレ方面の話ではなく、政治的な話で。
「じゃあ、特に攻略する事についての問題はないんですね」
「はい。高難易度ではありますが、誰にも……そこにいるクリスですら攻略は不可能でしたので、スタンピードの心配のないダンジョンへと整えていただけるのであれば、これ以上ない事です」
ふむ。
「ですが、ご無理を承知でお願いがございまして……」
「なんでしょう」
「かのダンジョンは、この都市……ひいては国にとって希少なダンジョン資源の1つでもあるのです。ですのでどうか、クリア後も変わらず私たちに使わせてはもらえないでしょうか」
「……あー」
なんでそんな事をと一瞬過ったが、よくよく思い返せば、アズのいた『豊穣のダンジョン』は結構長い期間、許可制のバリアを貼ったままにしていたんだったな。まあ正直、あれは最初は征服王対策ではあったんだけど、アイツが死んだあとも俺自身忘れて放置されてたって経緯があるのだ。
けど、アメリカの大統領からお願いされて、開通を許可したんだっけ。
レオニートさんは、そんな内部事情を知らないから、こう言わざるを得なかったんだろう。
「分かりました、クリスの故郷ですし、誰でも使えるようにしておきますよ」
「おお……ありがとうございます!」
レオニートさんは深々と頭を下げるのだった。
俺としてはそんなつもりは無かったんだけど、嫁達が満足そうだしまあ良いか。
『ゾァッ……!』
「……ん?」
ふと、窓の外が気になり視線を動かす。
「……」
気のせい……ではないな。何処からかは分からないが、俺達に向けた明確な悪意を感じる。対象は俺か、嫁達か、はたまた目の前にいる支部長か、最悪誰でも良いのか。外に視線を流し続けるが、送り主は誰か分からなかった。
妙な胸騒ぎがしたので、そのまま嫁達の状態を確認する。
「「「「「『『『??』』』」」」」」
皆が不思議そうな顔をしているが、構わず1人1人チェックをし、何も問題ない事を確認する。
ふむ、この胸騒ぎの理由が分からないが、とりあえず今の彼女達は問題ない事を確認できた。
杞憂だと良いんだが、ここは知らない国だ。何が待ち受けてるか分かったもんじゃないんだよな。妙な胸騒ぎがまだ続いている以上、警戒はするべきか。
「皆、聞いてくれ」
とりあえず全員に情報共有し、何が起きても良いよう心構えをしておくよう注意を促す。といっても、我が家でない以上彼女達の警戒度はかなり高かった。この国の治安はそれなりに良い方だとは言え、それは世界全体で見た場合の話であり、異分子を排除した日本と比べると、安全神話は雲泥の差だった。
「にしても、あたし達相手に殺気を飛ばすなんて……バカなのかしら?」
「ん。身の程知らず」
『マスター、そいつ見かけたら八つ裂きにして良い?』
「だーめ。完全に害悪な存在と分かるまでは処理はしない」
『はーい』
「申し訳ありません、ショウタ様。不快な思いをさせてしまって……」
「良いさ。バチカンが平和すぎただけで、フランスに行っても似たような視線は浴びてただろうしね」
「あはは……。勇者様の『直感』を疑うわけではありませんが、私達はまるで気付けませんでしたね。まだその視線はありますか?」
「いや……もうないかな」
視線の主の目的はさっぱりだが、十分に警戒しておくべきだろう。今回の冒険は、単純なダンジョン攻略だけじゃなさそうだ。
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