ガチャ970回目:魔王の妹分
目を開けると、そこには星明りの空と、月光に照らされた美しい横顔があった。
「……ぐっ。テレサ、か」
「ああ、よかった……! 皆さん、ショウタ様が目を覚まされました!」
テレサに抱かれたまま起き上がると、嫁達が集まって来た。皆心配そうな顔をしているが、まだちょっと身体が気怠いな……。
なんというか、寝起きの気怠さが永遠に纏わりついてきているような感じだ。
「……心配、かけたみたいだな」
「いいえ、ショウタ様がご無事なら、それだけで十分ですっ」
「勇者様、良かったです!」
「目覚めて何よりですわ!」
「ここに着くなり、いきなり倒れたのよ。びっくりさせないでよね……!」
「ん、心配した!」
「ああ、悪かった」
1人1人順番に慰めようかと思ったが、人数が足りない事に気付く。エンキ達はそこまで心配していなかったのか、この階層に来る前と変わらず近くでのんびりとしており、俺と視線が合うと手を振って来た。後はアズ達だが……あ、いた。
ものすっごい殺気を垂れ流しながら、何かを囲い込んでる。あれは……。
「アズ、キュビラ、タマモ」
『『『!』』』
呼ばれたことで初めて、俺が起きた事に気がついたんだろう。ばっと振り向いた彼女達からの殺気が薄まるのを感じた。そして、彼女達が捕えている存在も目に映った。
「彼女を放してやれ。もうそれは『テイム』済みだ」
「「「「「『『『えっ!!?』』』」」」」」
少し逡巡したようだが、アズ達も他の嫁に負けじとくっついてきた。柔らかいけど狭い。とりあえず嫁達のケアを優先し、たっぷり10分ほどかけたところでようやく『テイム』したばかりの新ペットに目を向ける。
少女は見るも無残な状態で動きを封じられており、手足を縛られ強制的に土下座の体勢を強いられていた。その姿はさながらイモムシのようであった。そうした状態のまま10分以上放置された彼女は、ひたすらメソメソと泣いてた。
こうなってくるとなんだか可哀想だな。
夢の中で彼女は隠れてるなんて言っていたが、『アトラスの縮図』+『解析の魔眼』持ちのアズから逃れられる訳もなく、捕まってしまったといったところか。
「アズ、解放してやれ」
『えー、でもぉ』
「アズ」
『……はぁい』
アズは渋々と縄を解いた。そしてそのままリリスを俺の前へと連れてくる。リリスは相変わらず項垂れたままだ。
「さて、と。まずはアズ、俺が倒れた時から今に至るまでの状況説明を頼む」
『はぁい♪』
◇◇◇◇◇◇◇◇
なるほど、魔力の反応からサキュバス系統のスキルだと断定して、原因を特定。それから顔見知りであることから俺が危険になる可能性が低いと判断したところで、俺が目を覚ましたという事か。
「じゃあこっちも報告だ。確かに彼女は、夢の中で俺に危害を加えるつもりはないと最初に言っていた。けど、俺を強制的に夢の世界へ連行し、なおかつ自由を奪う能力は放置できないと判断した。だから夢の中で彼女を制圧し、その上で『テイム』を掛けて俺の物にした」
『夢の中はサキュバスの独壇場よ。そんな環境下でも勝つなんて♪』
『流石ですマスター様♡♡』
『御主人はすごいのじゃ!!』
『うぅ……』
リリスは変わらずめそめそしている。
「アズ、俺の支配下にある今なら彼女の事もある程度説明できると思うんだが」
『ええ。まず彼女の名前はリリス。とある魔王の娘で、サキュバスとしての能力が開花した稀有な存在よ』
「稀有って?」
『まずサキュバスは単一種で、基本的に特定の男と関係を持ち続ける事が稀なの。種族的に女しか存在しないし、子供も自身の力を割いて産むから、異種族の男を介すと必ずサキュバスとしての能力が無い子供が生まれるの』
「ほうほう」
単独で完結してる以上、サキュバスとしての後継者を産むのなら他者と交わる必要が無いという事か。それでも繋がりを持つ場合も稀にあると。
けど、彼女を『テイム』した時にはっきりと『魔王の娘』と表記があった上にサキュバスとしての能力もあった。となれば、魔王がサキュバスである可能性も否めないが、アズがこう言っている以上魔王は男で、母親がサキュバスの例外が発生した訳だな。
『マスターの考えているように、本来ならこの子にはサキュバスとしての特性が現れる事はなかったわ。けど、魔王の能力とサキュバスの能力、2つが同時に顕現したの。それがこの子よ』
「ほほー。それで、アズ的にはどの程度の知り合いなんだ?」
『ええと……』
『……』
アズが困ったかのような顔を見せ、リリスが縋るような目で見上げていた。
その感じからして結構仲良かったんじゃないか?
「アズ、正直に言いなさい」
『妹分として、可愛がってはいたわ』
『……!』
「やっぱそういう関係か」
リリスも嬉しそうだしな。悪さをするようなタイプじゃなさそうだし、アズとも親交があった子なら、まあ迎え入れるのも問題は無いかな。現状ペット枠としてだけど。
しかし、そんな力の継承をした特別な子であるなら、ダンジョンボスに君臨していてもおかしくはないな。けど、それがなんで……。
「テレサ」
「はいっ」
「『601ダンジョン』って知ってる?」
「はい。バチカンより南南東に位置するウスティカ島という小さな島に出現した低難度ダンジョンです。1層しか存在せず、危険なモンスターもいない事からほとんど脅威が無い場所として認識されています」
「彼女を『テイム』した瞬間、そこの管理者キーをゲットしたんだよ。だから『妖怪ダンジョン』と同じく、内部で繋がってる可能性が高そうだ」
それを聞いた彼女達は浮かれたように喜んだ。
「という事は、ショウタ様は『666ダンジョン』を攻略する最中に、間接的に『601ダンジョン』も制圧したということですね」
「そうなるなー」
「イタリアにはあと1カ所ダンジョンがあるんですよー。それを平定してしまえば、イタリア内にも早い段階で楔による結界が出現させられそうですねっ!」
「日本から遠く離れた地を結界に取り込むのは難しいと思ってたけど、中継地点としても使えそうね!」
「希望が見えてきましたわね!」
ああ、そうか。確かにそういう意味でも喜ばしい事でもあるのか。
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