無料ガチャ060回目:慌てず騒がず冷静に
第五層に到着すると、嫌な予感が全身を駆け巡り、警戒態勢を取った。彼女達も同じようで、警戒を露わにしたが――。
……マスターだけが、何の抵抗も出来ず、その場に倒れてしまった。
『マスター!』
「「「「「『『!?』』」」」」」
駆け付けるも、意識はない。けど、死んでもいない。マスターとの繋がりはまだはっきりと感じられるし、命の鼓動もしっかりと感じられる。
そしてこの、マスターから感じる見覚えのある魔力の流れは……。
『皆、よく聞いて。状況は見ての通り、マスターが敵の攻撃を受けたわ。この状態は恐らくサキュバスによる『ドリームイーター』。いわゆる夢食いか、それに類する攻撃を受けているわ。こうなってしまうと、不用意に行動を起こせばマスターに害が出る可能性が高いの。例えば、マスターの身体を別のエリアに運んだりしたら、マスターの身体と心が分離して二度と元に戻せなくなったりするわ』
その言葉に、皆が今、危機的状況であることを認識したみたい。けど、慌てず騒がず、続くあたしの言葉を待っている。さっきまでビビってたシャルでさえ、敵への怒りで恐怖なんて飛んで行ったようね。流石マスターが選んだ女達ね。
『そしてこの夢系の能力には、術者の能力次第で、解除のために厄介な条件が追加されて行くの。下位のサキュバスなら問題ないんだけど、マスターが囚われるような相手よ。並大抵の相手でないことは確かだわ』
マスターを一撃で昏倒させるほどの夢を操る能力者となれば、片手で数えられるほどしかいないわ。そして『666ダンジョン』のボスに君臨していそうな存在と関係性がある奴と言えば、2人しかいないわ。
問題はどっちが来ているかよね。あたしを慕ってた方だと与しやすいんだけど……。
『解除の条件として、現状2種類しか残されていないわ。1つは、マスターが自力でこの夢を破る事。2つは、術者が己の意志で術を解く事』
そして最後は、マスターが衰弱死してしまった場合ね。これは最悪のパターン。あまり考えたくは無いわ。マスターを夢に落としている奴を特定できさえすれば安心できる要素でもあるんだけど……。
『だから、あなた達には悪いけど、今できる事はあまり多くは無いわ』
その言葉を聞いた彼女達は頷き合った。
「アズさん、この場合拠点を建てて中で休ませるのもあまり良くは無いのでしょうか」
『ええ、そうね。術者の起点がどこかも分からない以上、この場から動かすのはよくないわ』
「では布団やベッドを取り出して、そこに寝かせる事は問題ありませんか?」
『問題ないわね』
「ではそのように。エンキちゃん、手伝ってください」
『ゴ~』
即座にマスターが横たわっている地面がなだらかに整地され、例の羽毛布団を敷いた。そしてテキパキと装備は外されて行き、残ったのはインナー姿になったマスターだった。
衰弱し続けるサキュバスの攻撃に、治療効果のあるあの布団で、ある程度相殺させようとしているのね。なら、あたしにもできる事を探さなくちゃ。
『……アズ様。この場合、術者はそう遠くない場所にいますよね?』
『探す必要があるのじゃ。じゃが、術を行使している最中に邪魔をしても、同様に御主人に危険が及ぶ可能性があるのじゃ』
「ん。けど、見つけていなかったらショウタが解放された後、みすみす逃がすことになる。最悪の結果になった場合、それは看過できない」
「そうね。そうなった時のやり場のない怒りの矛先は、捕えておくべきだわ」
「まずは見つけましょう。絶対に逃さないように……!」
「その時は、生きたまま凍らせますわ……」
『『『……』』』
言わなくても、彼女達は最悪をきっちり想定していたのね。そしてそうなったら、自分達は歯止めが効かなくなるということも分かっていると。ま、それはあたしも同じだけど♪
けど、その覚悟が決まっている以上、標的を見つけても間違って攻撃する事は無さそうね。術者はあたし達だけで探そうかと思っていたけど、この子達なら大丈夫そうだわ。
『こういう時サキュバスが術を掛ける際に取る隠れ身の手段を伝えるわ。こっちも、術者の実力と練度によってまるで別物になってくるの。低レベルの術者であっても小動物に変身して身を隠す芸当はお手のものだし、高レベルになればスキルによる感知が不可になった状態で、透明化することすら可能になるわ』
完全な透明化を持つサキュバス達は、向こうで全盛期だったあたしでさえ見つける事はできなかった。といっても、敵意さえ持ってくれたら見つけ出せたから、不意打ちされるような事はなかったけれど。
「ん。それは厄介」
「小動物なら気配で読めるけど、気配を隠して透明になられたりしたら、お手上げだわ……」
「実際、勇者様が持っている『アトラスの縮図』の前身であったマップスキルの時も、スキルによって映らなくなることもできていたようですもんね」
「アズさん、今『アトラスの縮図』で再スキャンしても、視えないのですよね?」
『ええ、付近にそれらしい存在は1匹たりともいないわ』
「なら、スキルで身を隠しているのは確実か……」
「その上透明だなんて、どうやって探せば……」
そうして皆で悩み続ける中、先輩達5人は彼女達1人1人に身を寄せた。
『ゴ~』
『ポポ』
『キュイ~』
『プルーン』
『~♪♪』
そしてメンケアをするかのように優しく言葉を掛け、彼女達の逆立った心を慰めていく。言葉は通じなくても、心を落ち着かせるように動く彼らの想いは、彼女達に通じた様だった。
『……先輩達はわっちらと違って落ち着いておるのじゃ。御主人がかつてないほどピンチなのに、怖くはないのじゃ?』
『ゴ? ゴゴ』
『ポ~』
『キュイキュイ』
『プルル』
『~~♪』
できる事が無いのが分かっている以上、座して待つしかないと。そしてマスターがほとんど無警戒で倒れた以上、そこまで最悪な事にはならないんじゃないかと思っている……と。
ふふ、流石マスターの子達。信頼の仕方があたし達とはレベルが違うわね……♪
『ゴ?』
「ふふ、大丈夫よ先輩。あたしも少し冷静になれたわ」
『ゴ~』
『ププルプル~』
『はいっ、ありがとうございます先輩。……あっ、アズ様! 『解析の魔眼』で見破れませんか!?』
『!! それだわ! どうして思いつかなかったのかしら』
慌ててスキルを行使すると、マスターから伸びる魔力の糸が視える。その1つ1つが先輩達やあたし達へと伸びていて、そんな中で1つだけ、やたらとか細い線が1本。それを辿って行けば……。
『見つけた!』
目の前には裸眼じゃ発見する事さえ困難な空間の亀裂。そこに手を突っ込み、無理やりこじ開ければ……隠れていたサキュバスが出現した。
『あっ!』
『こやつは!』
『この子は……』
ここで馴染みの子が来るなんてね。でも、この子なら安心だわ。
『皆、安心して! この子はマスターを衰弱まで追い込む事はないわ!』
その言葉を聞いて、彼女達が安堵の息を零す。
マスターが目覚めたのは、それから1分後の事だった。
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