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ガチャ969回目:夢の世界

「この先か」

「はい、ショウタ様」


 第四層の先、ワープゲートの前で俺達は準備していた。

 といってもそれは心の準備であり、俺はまあいつでも良かったんだが、彼女達が覚悟を決める為の時間が必要だったからな。けどテレサは慣れてるのか既に万全だったし、マリーもテレサから幾度となく話を聞いていたからか、覚悟はできているようだ。


「テレサ、そっちの知ってる情報は現時点で全部出揃ってたりする?」

「はい、ほぼ全て。残すは第五層の注意点と、入ってしまい戦意喪失した方々の詳細情報くらいです」

「そっか。じゃあここからはほとんど認識レベルってことで良さそうだな」

「はいっ」


 嬉しそうにするテレサを撫でつつ、他のメンバーの様子を観る。クリスも数度の深呼吸で覚悟は決まったらしい。ミスティも堂々としている。シャルは……うん、こっちも覚悟は決まったみたいだな。

 そしてペット組3人はまるで問題ないし、エンキ達は最初からのんびりしているので心配はしていない。


「よし、それじゃあ行こうか!」

「「「「「『『『はい!』』』」」」」」


 そうして俺は真っ先に、ゲートを潜り抜けるのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 ゲートを抜けた先は真っ白な空間だった。周囲には仲間達の姿は無く、代わりに先客がいた。見覚えのない一人の少女。彼女は俺に微笑みかけると、何も言わずに俺へと近づいてくる。

 俺が映り込む彼女の瞳には、敵意は感じられない。だが、悪意らしきものは薄っすらと滲み出ていた。彼女は敵か?

 そう思って武器を構えようとするが、身動きが取れなかった。指一本すら動かせない。辛うじて動くのは首から上くらいのものだ。その上、なんだか意識も朦朧としてくる。

 ……くっ、このままではなすすべがない。アレが敵なら、対抗策を考えなければ――。


『くすっ、怖い事考えないで。あなたに悪さをするつもりはないんだから……♪』


 少女は妖艶に嗤うと、ゆっくりと距離を詰め息が掛かる距離までやって来た。身長としては155センチくらいだろうか。その角を含まなければだが。

 彼女の身体には、ペット組と同様、異種族的な特徴が備わっていた。真っ黒な角に、背中には羽、お尻からは尻尾だ。だがアズと似ているようで、細かな種類は異なっているようだ。


『さあ、わたしの手を取って?』


 断る。


『え? 『魅了』が効いてない……?』


 俺に『魅了』の類は効かんぞ。しかし『魅了』と来たか。

 彼女の角は黒くて短く、翼はコウモリのようであり、尻尾は可愛らしく短い。アズはまさしく魔王という風格があったが、こっちはなんというか小動物というか、せいぜい小悪魔といったところだろうか。つまり、本物のサキュバスなのかもしれないな。となれば、嫁達がこの場にいないのも納得できる。ここは現実ではなく、夢の世界なのだと。


『……!』


 しかし小悪魔と思うと、小娘が頑張って背伸びをしているようにしか見えなくなってきた。うん、俺の中の脅威度認定が段々と下がって来たぞ。


『……おにいさん、あまりわたしのこと舐めない方が良いよ? ここはわたしが作り出した夢の世界。おにいさんじゃ太刀打ちできないんだから!』


 憐れみの目を向けていると、少女は怒ったかのように圧を発して来た。

 そんな圧も俺にとってはそよ風に等しい。にしても、やはり夢の世界か。俺は彼女に夢を見させられている訳だ。けど、ここが俺の夢であるのなら、俺の意思でも動くことはできるはずだ。それにもう、俺の中で格付けは終わった。

 であればいつまでも、格下の術中にハマってる訳にはいかないよな。

 とりあえず、言いたいことを口に出してみるか――。


「……君、尻尾弱そう」

『!? しゃべっ――』

「あとチョロそう」

『なっ!?』


 少女が驚いた影響か、俺が喋る事ができた結果か。

 不意に全身を覆っていた不快な圧力が取り除かれたのを実感した。指も動く、足も動く。意識もはっきりとしている。これでもう、負ける事はないな。


『あっ、結界が――!』

「遅い」

『きゃひんっ!』


 逃げ出そうとするその尻尾を思いっきり掴むと、少女はその場で飛び上がった。尻尾を掴まれて悦ぶとは、なんとも愛らしいじゃないか。

 そのまま気の抜けた少女の両腕を掴み、無理やり地面に抑えつける。このポーズ、うちの嫁達にも好評だから、よくやるおかげで自然とこんな抑えつけ方になってしまったな。


「……観念しろ。抵抗しないなら、殺さないでおいてやる」

『ひっ!!』


 うん、お返しに圧を半分ほど解放したところで少女は震え上がり、全身でその恐怖を体現していた。

 ……ここが夢の中じゃなければ、間違いなくタマモと同じ末路を辿っていただろうな。


「『テイム』」


 俺から伸びた魔力の糸が彼女を包み込み、ゆっくりと身体へと溶け込んでいく。


【魔王の娘・リリスをテイムしました】

【名前を付けてください】


「ん? じゃあそのまま、リリスで」


【おめでとうございます】

【個体名リリスがあなたの配下に加わりました】


【管理者の鍵(601)を獲得しました】


「んん!?」


 601!? え、ここって『666ダンジョン』じゃなかったのか?

 なんで601なんて数字の鍵が手に入るんだ!?

 いやそもそも、鍵が手に入るって事は、この子はダンジョンボスだったのか。手を放して見下ろしてみるが、小動物のように震えあがっているが……。ダンジョンボスだったのか。


「……おいリリス」

『は、はひっ!』

「俺の身体は今どこにある」

『ろ、666の、第五層です……!』

「お前の本体はどこにある」

『お、おにいさんの近くで、隠れてます……!』

「そうか。なら俺を起こせ。話はそれからだ」

『は、はいぃぃ』


 夢の中で尋問してみるのも面白そうだが、まずは嫁達を安心させないとな。

読者の皆様へ


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― 新着の感想 ―
こんにちは。 魔王の娘、ですか…。つまりダンジョンの奥にパパ魔王がいるってことかなやっぱり?
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