Chapter1 - Episode 7
現在【電脳樹のダンジョン】4階層目。
煉瓦のダンジョンではあるものの、所々に草や何かの根が生え、少しずつその様相を変えてきている。
余計な消耗を抑える為、2階層を最低限で駆け抜けた私達は3階層も同じように通過した。
変わった所といえば、徘徊するゴブリンの数が2から3に増えていたくらいだろうか。
多少連携を取るようになっていたような気もしなくはないが、ほんのり変化を感じるか感じないか程度だった為、スルーしてもいいだろう。
「メアリー、ここからはとりあえず宝箱だけは回収していきましょう」
「うん」
「あとは……そうですね。モンスターの挙動も見たいので、1度しっかり戦闘します。その時はいつもの流れで」
「分かっ、たぁ」
観察するのは大事だ。
どんなモンスターであれ、動きの観察をする事である程度のパターンを覚える事が出来る。
パターンを覚えられれば、それを回避する事が出来る。
不測の事態もあり得るだろうが、そこは他の要素……このEoAというゲームで言えば、円陣でカバーする。
まぁ、現状はそのカバー要素が【魔力弾】というカバー以前の問題の代物ではあるのだが。
「……止まってください、居ます。少し様子はおかしいですが」
「何……だろう、ね?あの、頭の」
「何でしょうね……」
探索を開始して少し経った所で、ゴブリンの集団を見つけることが出来た。
順当に数が階層分増えて、4体。しかし今までのゴブリンとは明確に違う点が存在している。
頭から赤紫色の花を咲かせているのだ。
……あれは、確か……エンドウ豆がそれらしい花を咲かせましたっけ。
趣味の範囲ではあるが、リアルの知識からそれっぽい花を思い出すものの。どうしてそれがゴブリンの頭から生えているかは分からない。
だが何かしらの影響は受けているのか、どこかゴブリンの動きはぎこちない。
「とりあえず、剣持ちが2、ナイフ持ちと……あれは杖持ちですかね?1ずついるので、剣を奪ってヘイトを集めます。そこからは浮いたのをお願いします」
「杖、気を付けて」
「えぇ。円陣とか使ってきそうですしね」
そう言ってから、私は4体の前へと目立つように身体を出す。
ゴブリンの戦闘開始時の行動パターンは大きく分けて2種類だ。
その場で奇声をあげるか、奇声をあげながら突っ込んでくるか。
元気であるのは良い事だが、何も奇声をあげなくとも良いんじゃないかと思っていたものの……今回の4体はその2種類のパターンから大きく外れた初動を見せた。
虚ろな目をこちらへと向け、口から涎を垂らしながら武器を振り上げ突っ込んできたのだ。
疑問が結論に変わった瞬間だ。
つまるところ、こちらへとたまに足をもたつかせながらも迫ってきているゴブリン達は、
「操られてる、って事ですね」
まずは操られているゴブリン達の身体を動かないようにしてみるのが良いだろう。
何も出来ない状態にした方が観察しやすい。
まず最初に2体の剣持ちが私へと跳び掛かって……否、1体は跳び過ぎてダンジョンの天井へと頭を激突させ落下する。
残った1体も天井スレスレまで跳び上がってしまっている為に、タイミングが逆に合わせやすい。
しっかりと狙いを付け、【魔力弾】を放ち撃墜させる。HPはまだ残っているが、落下分も合わせてほぼ瀕死に近いだろう。
……身体能力の強化?でも跳び上がる前はそこまで……?
考えつつも、次に普通に走って迫ってきたナイフ持ちと杖持ちの対処をしなくてはならない。
ナイフ持ちが最初に私へと肉薄し、姿が消える。
私の目に追いつけないほどの速さで加速したのだろう。不味いと一瞬思い、
『ギッ……』
「は?……え?」
次の瞬間、右後ろ側から大きな激突音と共に何か水っぽい音が聞こえ、静かになった。
確認する余裕はない。既に杖持ちが私の目の前へと迫っているのだから。
これまでと違い、特におかしい挙動をする事もなく杖を振り上げたゴブリンに対し、私は余裕をもって杖の範囲外へと回避する。
瞬間、振り下ろされた杖が砕け散りながらダンジョンの床を砕けさせた。
「メアリー!」
長引かせるのは得策ではないと判断し、床を砕けさせた影響でバランスを崩しているゴブリンに向かって手を向ける。それと共に、私の背後から数本の青白い矢が飛び、ゴブリンの手足を貫きHPを約半分ほど削り取った。
私の手からも【魔力弾】が放たれ、直撃したゴブリンは消えていく。
……腕力強化に脚力強化。そこらへんがあの頭の花の能力ですかね。
残りは2体……ではあるのだが。
瀕死となっていたゴブリンは今、矢によって撃ち抜かれ消えていった。
天井にぶつかり落下していた残りの剣持ちゴブリンはといえば、やっと体勢を立て直したものの……数の有利は既に存在していない。
先程のナイフ持ちのような速度で動かれたら厄介ではあるが、そのナイフ持ちも不幸な事故で推定戦闘不能となっている。後方にいるメアリーがそちらへ反応せずに私の援護を行っている時点でお察しだろう。





