Chapter1 - Episode 6
「これで終わりッ……ですね」
「敬語、外れ……かけてる?よ」
「似非なんで外れても問題ないですよ」
目の前でゴブリンの死体が消えていく。
3階層へと移動出来る階段を発見した私達は、階層内を徘徊しているゴブリンを使って先程メアリーが手に入れた弓の性能を確認していた。
2階層でのゴブリンの行動パターンをある程度把握出来た私がヘイトを取りつつ、メアリーが後方から弓でゆっくりと狙う、というやり方だ。
……思った以上に便利ですね、あの弓。
弓本体のみしかないソレは、弦を引くと共にMPを消費し魔力の矢を作り出す。
そうして出来た矢は【魔力弾】に比べると威力が低いものの、連射も可能。
矢という形で魔力を物質化しているからなのか、腕や足を地面に縫い付ける事も出来るのが優秀だ。
「円陣が刻まれてるんでしたっけ」
「そっ、そうだね」
見せてもらった弓のスペックはこんなもの。
―――――
木の弓 武器:弓
装備可能レベル:1
スロット1:【矢生成】
普遍的な木製の弓
―――――
―――――
【矢生成】
種別:補助
主効果:魔力物質化
∟副効果:矢弾化
∟オプション:なし
―――――
同時に出現したTipsによれば、全ての装備品にはスロットと呼ばれる円陣を組み込める空き領域が存在し、その数自体はランダム。課金アイテムなどを使う事で任意に空ける事も可能らしいが、基本的には作成、もしくは発見時のもので固定。
今回の弓は当たりの部類だったのだろう。
特に今のような超序盤とも言える環境では、MPの回復さえ出来れば弾数を気にしなくて済む弓というのは貴重だ。
「レベルも3まで上がってますし一旦戻りましょうか。メアリーの防具分も貯まりましたよね」
「ん」
実の所、弓の性能確認は本来の目的ではなく。
2階層に留まっていた理由は単純に、下級モンスターの核をそれぞれ必要分集める為だ。
現状、私とメアリーの戦い方がゴブリンに噛み合っているから上手くいっているものの、今後もそれでいけるとは思っていない。
絶対にどこかで攻撃を受ける場面や、奇襲を受ける場面というのは出てくるはずなのだ。
ならば、今のうち……性能が低くても防具類はしっかり装備したほうが良いだろう。素材さえあれば作ってくれるプレイヤーもここにいるのだから。
「でっ、出来た」
「結構すぐでしたね」
「素材、いれたら……すぐだった」
今回得た素材をメアリーへ必要分渡した後、適当に第壱階層……交流特区【ネト】で時間を潰していた。
仮にも『交流』に特化した区画だからなのか、喫茶店などの食事処から、何かのミニゲームが出来るであろう娯楽施設も存在する。
それ以外にもギャンブルが出来るカジノ系の賭博施設など、確かに『交流』を目的とした区画なのだろう。
一部の施設からは悲鳴らしきものがたまに聞こえてきているが。
そんな中の、NPCが経営している普通の喫茶店。
そこでメアリーと待ち合わせして、今回出来上がった装備を受け取ることになっていた。
「服飾系、で……良かった?よね」
「えぇ」
メアリーから物を受け取り、詳細を開き確認する。
―――――
下位探索家の服(上) 防具:服飾
装備可能レベル:2
ボーナス:AC+2
円陣の効力+1%
ダンジョンを探索する者の服
―――――
上下セットで貰ったものの、名前以外は特に変わる点はない。
「よし、着替えました。どうです?」
「ん、良い……感じ」
「それは何より」
早速装備してみると、まるでこれからジャングルの探検にでも行きそうな服へと変化した。
視界の隅に表示されていた灰色のバーもそれに伴って少しだけ上昇したのを確認出来る。
これで一応、弱い攻撃なら受けても多少は問題ないだろう……と、思いたい。
「あ、そういえばやっぱりレベルアップはHPとMPくらいしか上がらないみたいですよ」
「そっそうなんだ……なんか、残念?だね」
「まぁマスクデータ側で何か変わってるかもしれないので、上げるのに越した事はないですね」
レベルが1から3に上がって変わった点はその程度。
HPとMPの最大値が120に上がったくらいで、他に何かが明確に変わったとは思えない。
もしかしたら私が感じていないだけで、何か変化が起きているのかもしれないものの……それ自体は感じ取れるようになってから考えれば良いだろう。
恐らく、私があれこれ調べるよりも大体どのゲームにもいるであろう検証班が先に情報を出してくれるだろうし。
「よし……じゃあ行きますか」
「次は、5階目的……だっけ」
「そうです。キリの良さを求めるなら10ですけど、流石にそこまでは現状厳しいでしょうし。……武器はどうしましょうかね」
防具が作れる程度にしか集めていない為、下級モンスターの核は私が最初に倒したゴブリンの1個しか残っていない。
【チュウイチ】のNPCの店ならば、ゲーム内通貨で何かしらの武器が買えるとは思うが……どんな武器を使うか悩みどころだ。
どうせ円陣がある程度揃ってきたら、近接戦闘はあまり選択しない動き方になるだろうし、剣やハンマーなんかを選んだ所で扱えるとは思えない。
「……まぁ、追々考えましょう。あ、メアリーはこの後大丈夫ですか?」
「予定、ないよ」
「助かります」
とりあえず、実際に困ってから考えれば良いだろうと、メアリーを伴って再びダンジョンの攻略をすることにした。





