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Chapter1 - Episode 5


こちらは無手。

それに比べ、2体のゴブリンはこん棒と錆びたナイフを持っている。

こん棒を持っているゴブリンの動き自体は既に2度も見ている為、問題は無いだろう。

しかし、錆びたナイフ持ちは初見だ。ならば、


「先にこん棒持ちを倒します。ナイフ持ちは観察させてください!」


言いつつも、私からは仕掛けない。

2体共に近接武器を持っているのに、こちらから懐に入るような事はしない。

私の声にメアリーが反応することは無いが、代わりにゴブリン達はこちらへと奇声を上げながら突っ込んで来た。


『ゲェ!』

『ゲゲッ!』


こん棒持ちはこれまで見た通りにめちゃくちゃに得物を振り回す。

そしてナイフ持ちは、私の背後へと回ろうと動き出している。

……持つ武器によって行動パターンの変化あり、と。

正直、こん棒持ちは足音さえ聞いていれば見ていなくとも攻撃を避けることは出来る。

ならば意識を向けるべきはナイフ持ちだろう。


こちらの背後へと回り込んだナイフ持ちは、背中……正確には私の脇腹辺りを狙おうと得物を振り上げる。

しかしながら、その攻撃は通らない。


『ゲッ!?』

「ありがとう!」


その更に後方に居たメアリーが【魔力弾】を放ち、私の前へと転がるように吹っ飛ばしてくれたからだ。

HPの減りは……1階層と同じく約半分。

1つ2つ階層が変わった程度では最大HPなどは増えないらしい。


そうしている内に息が切れ動きが鈍ったこん棒持ちに対して、1発【魔力弾】を撃ち込んでから転がし、起き上がる前に近付きこん棒を奪い取ってからその頭を強打する。

水音と何かが砕けるような音がして、ゴブリンの身体が消えていくのを確認しつつ、その間に体勢を立て直したナイフ持ちへと向き直った。


目が血走り、足腰が震えているものの、まだ戦意は衰えていない。問題は、その視線が私ではなく後方のメアリーへと向いている事だろうか。

……ヘイト関係ですかね。ダメージ量で変わるならある程度立ち回り考えないと。


そう思いつつも、私の脇を抜けメアリーへと駆けていこうとしたゴブリンの頭を掴み地面へと叩きつける。

僅かにHPが削れたものの、【魔力弾】が直撃した時のように怯む事はなく、すぐに頭を掴んでいる私の手に向かって錆びたナイフを刺そうとめちゃくちゃに振い始めた。

だが、流石にそんな攻撃をくらう訳もなく。

すぐさま手を離し、メアリーとの間に入るように移動してナイフ持ちへと手をかざし、青白い弾を放つ。


『ギィッ……』


私のその動きに対応出来なかったゴブリンは、小さな断末魔を残し、力なく地面に倒れた後消えていく。

それと共に、私が握っていたこん棒も消えてしまった。

戦闘終了だ。


【獲得アイテム:下級モンスターの核×2】


獲得出来たのは1階層と同じもの。

レアドロップなどあるのだろうが、今あるかどうかもハッキリしていないそれを狙うよりは先に進んだ方が良いだろう。


「お疲れ様です」

「私は、何も、してないよ?」

「いえ、あそこで撃ってくれたので楽になりました」


近付いてきたメアリーに礼を言った後、とりあえずでこの階層を隅々まで探索してみる事にした。

先程の徘徊するゴブリンのような明確な違いがあった以上、他にも何かしらの違いがあるかもしれない。




結論から言えば、1階層との違いは3点ほど存在した。

まず、モンスターが徘徊する点。

次に、モンスターの行動パターンが少しばかり変化している点。

最後に、罠以外に宝箱が出現している点だ。


徘徊している点は先程見た通りだから問題はない。

しかしながら、その行動パターンが少し変わっているのは悩ましい。

例えば、1階層と同じこん棒持ちだからと言って、私達が出会った個体とは違い、様子見をする素振りや、身体全体を使ってスイングをするような攻撃などをしてくるのが確認出来た。

それ以外にも、ナイフ持ちが背後に回り込まずに真っ正面からこちらの攻撃を回避し続けようとしたりなど、個体ごとに様々だ。

単純に階層を進むごとに頭が良くなっている、と考えた方がいいのかもしれない。


そして最後に、宝箱なのだが。


「どうですか?メアリー」

「ぅん、これなら……こう、かな?」


通常の罠に比べ、鍵の解除難度が数段上らしく……見事に私は一度失敗してしまった。

一応失敗しても再度チャレンジはできるのだが、ペナルティとして大きな警報のようなものを鳴らし、周囲のモンスターを呼び寄せてしまう。

今居る2階層にはゴブリンしか居ないのか、集まってきたのは5匹程だった為、そこまで大事にはならなかったものの……これが更に深い階層だったら目も当てられないだろう。


「あっ、これ」


いつ失敗しても良いように周囲の警戒をしていると、背後からメアリーの少し驚いたような声が聞こえた。

何かと思いそちらを向いてみると、そこには木製の弓を手にして困惑しているメアリーの姿があった。


「ん?……おぉ、良いものじゃないですか。私は使わないのでメアリーが使っていいですよ」

「良いの?」

「えぇ。私も近接戦闘をするつもりはないですが、私のそれ以上にメアリーは後方でしょうし」

「……ありが、とう」


……まぁそもそもメアリーが開けたんで、メアリーに優先権はあるんですけどね。私失敗してますし。

言うのは野暮というモノだろう。


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