Chapter1 - Episode 2
第参層挑戦特区【インガイ】。
この『Eden of Annulus』……EoAにおいて、モンスター達と戦う為のダンジョンへと移動する為の区画であり、サービス開始直後の現在では一番人が多い区画とも言えるだろう。
木で出来た円形広場の中心には青白く光る巨大な樹が生えており、薄暗い区画内を照らしてくれている。
「えぇっと……」
円形広場からは四本の道が十字状に続いており、現状その内の3本には『coming soon......』と書かれた看板が立てられていた。
唯一それが立てられていない道を進んでいくと、広場の中心に生えている樹よりは小さいものの、十二分に巨大な樹が私を出迎えてくれる。
その樹には人が通れるほど大きなうろが出来ており、プレイヤーがその中へと入って消えていくのが目に取れた。
私には共にプレイするタイプの友人なども居ない為、とりあえずそのまま1人で入り口へと近づいてみると、
【ダンジョンへと移動しますか?Y/N】
【※内部ではパーティ以外のプレイヤーとは別サーバーへと移動します】
という是非を問うウィンドウが出現した為、Yesを選択して木のうろの中へと歩いていく。
内部は下へと続く木製の階段のみしかなく、外と同じように青白い光で照らされている。
だが次第に階段は木製と煉瓦が混じり初め、灯りも青白いものから火の灯っている松明が階段の左右に浮かび上がっていく。
階段を降り切ると既に青白い木などは見当たらず、よく想像されるポピュラーな煉瓦造りのダンジョンがそこには広がっていた。
【電脳樹のダンジョン 1層目】
視界の隅のマップに浮かび上がった文字を確かめながら、私は周囲を見渡してみる。
私が現在居るのは、T字路の突き当り部分とも言える場所だ。
背後には上へと戻る階段があり、戻ろうと思えばすぐにでも先程の広場へと戻ることが出来るだろう。
確かに他のプレイヤーとはサーバーが分かれているのか、人の気配は全く感じない。
「あ、そういえば円陣って……?」
私は現状、戦闘用の武器や防具は何も持っていない。
何ならアイテムすらもなく、持っているものと言えば先程作った円陣と、僅かなゲーム内通貨程度。
そしてその円陣すらも使い方を知っているとは言い難い状態ではある為、本当にほぼほぼ丸腰状態だ。
これではいけないとメニューでステータス情報を開き、その内容を確認してみる。
「……ステータスを見るには他の方法が必要って感じですか」
――――――――――
PName:ティア Lv:1
HP:100/100 MP:100/100
AC:0
武器:なし
防具:布の服(上)、布の服(下)
装飾:なし
円陣:なし
――――――――――
それぞれの項目にタッチしてみると、Tipsと共にインベントリを開くことが可能であり、この画面からも直接装備類を弄ることが可能なようだった。
「ACは……成程、抵抗力。これを上げない事には直接的な防御力は上がらないと」
とりあえず円陣の欄に【魔力弾】を装備した後、その画面を閉じておく。
それと共に新たなTipsが出現した為、読んでみる。
「成程、成程。念じる事が重要と」
試しに右手を前に突き出してから、声に出さずに【魔力弾】と唱えてみる。
するとその瞬間、如何にもな魔法陣が私の手のひらの前に出現し青白い球体を前方へと射出した。
それと共に視界の隅に存在する、推定HPであろう赤いバーの下。青のバーが少しだけ減ったのが見えた。
きちんとMPが消費された、という事だろう。
問題があるとすれば、円陣の使用方法的にある程度思考がソレに持っていかれる点だろうか。
戦闘中にしっかりと考えられる余裕があるのかどうか、それと同時に、不完全な形で円陣が発動するのか否かという点が気になってくる。
「んー……考えていても仕方ないですし、行きますか」
ただ、まぁ。
まだ私はダンジョンに入ってから一歩も動いていないのだ。
それならば実際に戦闘をしてみてから考えるのもいいだろう。
百聞は一見に如かず。良い言葉だと私は思う。
それから私は3つに分かれている道の内、真ん中の道を選択して移動を開始した。
理由は特にない。何となく、真っすぐ行って真っすぐ戻ってこれるなら楽だし良いだろう、くらいの気持ちだ。
勿論、行き過ぎた冒険はしないつもりではある。何せ、攻撃手段を手に入れたものの、それがどれほどの殺傷能力を持っているのか私は知らず、尚且つ私自身の防護は皆無という状態なのだから。
……本当、我ながら何してるんだって感じですよ。楽しいので良いですけど。
まだ1層目である故にまだ詳しい事は分からないものの、私が今探索している『電脳樹のダンジョン』という場所は中々に初心者に優しい場所らしい。
如何にも『解除してください!』と言わんばかりの罠が多く、それを解除する方法もTipsや簡易チュートリアルが出現してくれるおかげで処理できる。
処理する事が出来れば、その罠に応じた報酬……ほんの少しのゲーム内通貨が手に入る。
「うん、良い感じです。ある種チュートリアル用の階層ですかね。という事はそろそろ……」
ある程度1階層の探索が終わり、2階層へと移動する何かを探していると。
通路の突き当り……明らかに次の階層へと移動できるであろう階段の前に、ソレを発見した。
緑の肌に長くとがった耳、成人男性の半分ほどの身長しかなく手にこん棒を持ったソレは、私を見つけると同時に形容しがたい声で叫ぶ。
「ゴブリン、ですかね?」
『ゲッゲェ!』
私の、このゲームにおける最初の戦闘が始まろうとしていた。





