Chapter1 - Episode 23
前回更新から5ヵ月とか経ってて申し訳ない……
燃え上がるボスの身体とは裏腹に、私の心境は冷え切っていた。
状況は好転しているだろう。
「――だけど」
頭部の火種であるゴジアオイによって、ボスのHPは持続的に減っていく。
こちらの攻撃によるダメージも相まって、そう遠くない内に削り切ることが出来るだろう。
しかしながら、大きな問題点も存在していた。
……やっぱり出始めました。
視界の隅、自身のHPバーの下部に表示される簡易ステータス。
通常、そこには自身が受けているバフやデバフのアイコンが並ぶのだが……今、新しいアイコンが1つ表示された。
デフォルメされた人が喉を抑えているようなアイコン。それが意味するのは、
「『窒息』ですか」
ゴジアオイによる燃焼に加え、ボス戦エリアである地下空洞という場所。
私達が落下してきた穴があるとは言え、元々通常よりも空気が薄い場所ではあったのだろう。
それが今、私達に牙を剥き始めたのだ。
少しばかりの息苦しさを感じつつ、先程よりも動きにくくなったと感じる四肢を動かしながら、ボスの攻撃範囲から離脱する。
今はまだ動きにくい程度。
しかしながら、時間が経てばデスペナルティは免れないだろう。
……もう観察云々言ってる場合じゃない。
熊型の蔦だった時ならば、行動パターンを観たお陰で、完封に近い動きは出来ていた。
しかしながら、今はそうではない。
完全な初見相手に、短期決戦を強いられている現状……ダメージを喰らわず立ち回るのは至難の業だ。
「……っ!メアリー、無理矢理でも徹してください!」
声を出しつつ、こちらへと向かってゆっくりとした動作で歩き始めたボスに銃口を向ける。
攻撃用の円陣がまともに無い以上、私が比較的安全に高威力のダメージを出すにはこれしか無いのだから。
ゆっくりと動き出したソレの胴体へと1発、2発と連続して射撃する。
先程までだったらあまり効果のない攻撃。
だが、それで良い。姿形の変わった相手の防御力がどれ程なのかを確かめるには十分だ。
「チッ、ほぼダメージ無しですか」
熊形態ではある程度のダメージを与えられていたそれも、現在では豆鉄砲と同レベルらしく……まともなダメージを与えられていない。
この時点で、私の取れる選択肢が非常に狭ばったのを悟った。
「……仕方ない」
ハンドサインで後方にいるメアリーに合図を送りつつ、迫ってきているボスに対して掌を向け、
「【臆病な花畑】」
自身の中でも凶札である円陣を発動させた。
瞬間、一瞬だけボスの動きが止まる。
『臆病な花畑』は、範囲内に存在するモノに対して無差別にデバフをばら撒くフィールド設置型の円陣だ。
身体の一部でも範囲内に含まれていれば効果に曝露し、時間経過によってそれは強まっていく。
「さぁ、最初は動きを止めましょう」
観察出来ないのであれば、動きを止める他無い。
動きを止めれば、その分攻撃を行えるのだから。
だが、それをやるのは私ではない。
「――行って!」
メアリーだ。
彼女の【爆発性付与】は、元々の弓の威力に加え爆発する事でそのダメージを大いに引き上げている。
だからこそ、今、この場面で膨大なHPを削るのに役に立つ。
……メアリーの持つMP回復アイテムはもう少ない筈。この後を考えると私の分を渡すのも厳しい。
しかしながら、それも長くは続かないだろう。
威力が高いという事は、その分消費も嵩むという事。
然るべきコストを支払っているからこその効力である事は忘れてはならない。
私の方へと動き出そうとしていたボスは、延々と襲いかかる青白い鳥へ……それを放ち続けるメアリーの方へと向き直る。
元々私が持っていたヘイトの量を、蓄積されたダメージによってメアリーが上回ったのだろう。
普段を考えれば不味い状況であり……しかしながら、現状を考えればこれ以上無い好機だった。
それと同時、【臆病な花畑】が2度目の脈動を行い、ボスの姿勢が崩れ仰向けになって倒れていく。
「――【寄生種】ッ!」
その隙を待っていた。
毒の花畑によって、抵抗力が低くなり、回避も出来ないこのタイミング。
私にとって、普通に扱える中の最大級の切り札を切れるタイミングがここだった。
青白い光を放つ種が、蔦で出来た片足に飛んでいき……そして根を張り芽を出し蝕んでいく。
勿論、栄養として吸われていくのは苗床となったボスの体力と、術者である私のMPだ。
それらを急速に吸い上げ、成長を続けていく姿は正しく『寄生している』と言って間違い無いだろう。
「ポーションは……まぁ足りませんね」
だが、足りない。
立ち上がろうとする蔦の巨人の四肢に巻き付いていく青白い蔦を見ながら、私はインベントリ内のMP回復用のアイテムを取り出していく。
通常の……それこそ、以前ファーム用に延々戦った蔦人形であれば足りるであろうアイテム量も、膨大な体力を持つボス相手には心許ない数しか持ち合わせてはいなかった。
元より、【寄生種】を使うのはもう少し後……相手の体力が危険域に達した段階で、最後の後押しとして使うつもりだったのだから致し方ないだろう。
だからこそ、ここから私のMPの回復手段が切れる前に後一押しするしかない。
タイミングは自分の判断。
私は、ボスが青白い蔦から逃れようと腕を動かすような仕草をした瞬間、それを発動させ――
「……え、何コレ?口上とか必要なパターンですか?」
発動させる前段階、意識した瞬間に目の前に現れた半透明のウィンドウを見て一瞬だけ固まった。
しかしながら今は時間がない。
私が動きを止めているこの数瞬の間にも、ボスは【寄生種】から逃れようともがいているのだから。
「っ――、わ、『我は行使する』!」
ウィンドウに書かれたテキストを読み上げると同時、私の身体の周囲に4つの魔法陣のようなモノが浮かび上がる。
チラと見てみれば、それぞれに銃弾、種、木、そして花畑がデフォルメされて印されているのが分かった。
「『四の印もって四方と成し、四方をもって陣とする』」
詠唱を続けると、私の周囲に浮かんでいた魔法陣が倒れているボスへと向かって飛んでいき、それぞれ四角形の頂点の位置へと移動した。
「――『これこそ四方の陣』。攻性解放」
瞬間、私の目の前の景色が白に染まる。





