Chapter1 - Episode 22
困難といえば困難だろうボス戦。
しかし、分かりやすい勝利への道筋は見つけることが出来た。
ならば、それを進むのみ。
「――覚えた」
現状、ボスのHPは3割ほど削れ、行動パターンもある程度把握した。
……一度、整理していきましょう。
この『宿主達の蔦主君』には大きく分けて1種の主行動と2つの副行動が存在する。
全ての行動の元となる、その蔦の巨体を使った突進。
どうやらこれには微量のデバフ付与効果が存在するらしく、私の【臆病な花畑】に似た毒と目眩を与えてくる行動だ。
しかし、その分動作が大きく避ける事も防ぐ事も容易。
問題はその後の副行動……突進後に行う行動2種だ。
「全体拘束!来ます!」
四足歩行状態で前足を振り上げ、地面に叩き付けると同時、私とメアリーの足元から多数の蔦が出現し、全身を拘束しようとしてくる。
それに合わせ、その場から横に跳ぶ事で完全に避けた。
これが1つ目。
距離に関係なく、ボス戦に参加している者全員を捕える為の蔦。
まだ避け易く、ダメージも与え易い……来たら嬉しい行動だ。
「1割!」
「ナイスですメアリー!」
これに攻撃を合わせる事で、ボスのHPは少しずつではあるものの、確実に削れていく。
……問題は、この行動の回数が少ない事ですかね。
ボスの思考回路がどうなっているのかは分からないが、回避し易く攻撃し易いこの行動は全体で見ると約2割ほどの確率でしか引く事が出来ない。
では、残りの半数以上を占める行動は、といえば。
「次!近距離拘束来ます!」
突進後、二足歩行状態になった上でこちらへとハグするかのように迫ってくる行動だ。
見た目だけなら、大振りであるし避け易い類。
しかしながら、本命はそれでは無く……ボスに1番近い相手に対して蔦による瞬間的な拘束効果。
地面の下から伸びた蔦が、私の足に絡み付く。
分かっているのに、避けることが出来ない。
だが、それも一瞬だけだ。
初めて喰らった時は焦りから自分ごと【魔力弾】を放ってしまったものの、来るとわかっていれば、
「BANG」
1発、回転式拳銃で撃ってやればすぐに千切れ動けるようになる。
身体を逸らすように横に移動させ、間一髪……数本の髪の毛が蔦の爪に巻き込まれていくものの、ダメージはない。
無防備となったボスの横っ腹に、弾倉内の全ての弾を撃ちつつ、再度距離を大きくとった。
これが、現状ボスがしてくる行動の全てであり、私達が手を焼いている理由でもある。
単純に、堅いのだ。
火を熾す類の道具も円陣も持ち合わせていない私達は、植物の身体を持つボスに対しての有効打というものを持っていない。
それに加え、与ダメージが増える行動も限られている為、そこを狙ったとしても長期戦を強いられる。
序盤には辛い相手と言えるだろう。
「だからこそのやりがいはありますが」
見れば、ボスのHPはそろそろ半分に届きそうだった。
メアリーにその旨をパーティチャットの方で伝えた後、ボスの突進前の隙を狙い1発の魔力の銃弾を放つ。
すると、だ。
『――ッ!!』
びくり、とボスの身体を構成している蔦が大きく震え、その体積を膨張させていく。
その形は先ほどの熊から遠くかけ離れ、人のような姿へと変貌する。
頭部に当たる部分には紫の花を大量に咲かせ、こちらへと身体を向けたかと思いきや。
腕のようになった複数の蔦を大きく振り上げた。
「そうなるのは聞いてないですって!」
今までと同じ、熊のような形態であればある程度は問題なかった。
それこそ動き自体は追えるように記憶したし、実際そのおかげでHPも半分削れていた。
だがこれは大きく変わり過ぎだろう。
……あの花、どこかで……?
思考に意識を投げる前に、迫ってきている腕へと対処するために無理矢理に身体を跳ねさせる。
瞬間、凄まじい風圧と衝撃が私が先程まで居た場所へと振り下ろされた。
「完ッ全なパワータイプ……!」
動きは鈍重ではある。
しかしながら、見た目から伝わる以上の質量がそれを補って余りある火力を生み出していた。
地面に出来た亀裂を見て冷や汗をかきつつ、私は自らのやるべきことを果たすために思考と視線を動かしていく。
熊形態の動きはこの際、忘れ去って良いだろう。新たな形態の動きを覚える必要があるのだから。
そして引っかかっていた、ボスの頭部に咲いた紫色の花。
何処かで見たような、しかし普段見る事はないその花の名前を思い出そうとして……再び状況に変化が訪れた。
「……は?」
突然、ボスが頭部から燃え始めたのだ。
一瞬目の前の光景を理解出来ずに呆けてしまったものの、関係無いかのように動き出したボスの姿を見て回避へと意識を向ける。
メアリーへと視線を向ければ、彼女は否定するように首を横に振った。
つまるところ、自然発火。
そしてそんな事をする植物、そして紫の花の名前を思い出した。
「ゴジアオイですか……!」
草花界のサイコパス。
自ら油を精製し、燃える事で周囲の他の種を燃やしながら、耐火性のある自身の種を落とす欧米では一般的な花。
そんな花の性質が悪さをしているのだろう。
燃え上がる自らの身体を気にせずに、ボスはこちらへと向かって再度拳を振り上げていった。





