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Chapter1 - Episode 20


【電脳樹のダンジョン】9層。

基本的に今までの森と外見は変わらない。

しかしながら、出現するモンスターの種類がこれまでとは少し変わっていた。


「蔦人形か寄生されてるか……大きく分けると2種類しか居ませんね」

「本拠地の、近く?」

「かもしれません。10層が少し怖いですねぇ……」


基本的に蔦人形ばかり、たまにエンドウ豆に寄生されている動物型モンスターを見かける程度。

戦闘自体は8層よりも楽になったものの、この後の階層が怖くなってくる面々だ。


「探索は最小限に、宝箱以外は基本スルーで抜けましょうか」

「了解」


そして独自の索敵方法でも使っているのか、一度戦闘を行うと、近くにいる蔦人形達が走って寄ってくるというオマケ付き。

楽といえど、連戦は正直遠慮したい。

……まだ10層にボスが居るとは確定してませんしね。

あくまで予測、というか。ゲーム的なメタ読みで私もメアリーも10層にボスがいると考えているものの、それが当たっているかも分からない。


補給用のアイテムも数に限度はあるし、そもそもここまで来るのにその半数を使ってしまっている現状、消耗を抑えられるなら抑えるべきだろう。


「道中は私のアイテムをほぼ渡すので、お願いしても?」

「私の方が、適任だもんね」

「そういう事です」

「うん、大丈夫」


周囲を警戒しつつ、メアリーにほぼ全てのMP回復用アイテムを預ける。

9層でまともな戦闘を行うのはリスキーであると判断した上で、露払いを任せる為だ。

メアリーが弓を構えながら、いつでもいけるとこちらに視線を向ける。


「行きます」


駆ける。

メアリーが思考入力でチャットに打つ道筋通りに森の中を駆け抜ける。

当然、そんな事をすれば蔦人形達に見つかるものの……こちらを視認すると同時に、青白い鳥が爆発し私達が横を通過する間の一瞬だけ怯ませた。


彼女の持つ円陣、【爆発性付与】の効果で着弾と同時に爆発する鳥達は、的確に私達の前に立ちはだかろうとする蔦人形達を怯ませ、視界を塞ぎ、私達が通る道を開けてくれる。

倒す必要はない。

最低限、相手が私達の姿を見失えばそれで良いのだから。


『そこ真っ直ぐ』

「見えました!」


そうして、走り続ける事数分。

ゲーム内でなければ、息が切れていたであろう走り続けた末に、私達は次の階層へと続いているであろう洞窟を発見した。

敵影は……見えない。


『5体。弾幕張るよ( ・∇・)』


索敵の結果か、入り口付近には見えないだけで5体程のモンスターが居るらしいが……私はそのまま足を止めずに駆ける。

メアリーが止まれとは言っていないのだ。私は彼女を信じて走り抜けるのみ。


入り口まで、残り20歩ほど。

地面から植物が生えるように、蔦人形達が出現した。


残り15歩。

1番近い位置に居る蔦人形2体が、こちらに向かって枯れ蔦の槍を突き出してこようとする。

――爆発によって怯み、その間に横を通り抜ける。


残り10歩。

次に近い2体が、持っていた枯れ蔦の鎌を振り抜こうとしていた。

――1体は鳥に、もう1体は【木の恵み】によって視界を塞がれ、一瞬私達を見失った。


残り5歩。

入り口を陣取っている蔦人形が、枯れ蔦の盾を構え通さない様に鎮座している。

――再度、私の横を鳥が3羽飛ぶ。それと同時に6連射、次いで【魔力弾】を放つ事で完全にHPを削り取った。


そして、私達は入り口へと辿り着く。

だが足は止めない。止めれば、後ろから追ってくるであろう蔦人形達に背中を刺されてしまうから。


「着い――たァ!?」

「ッ!?」


だが、私達を待っていたのは長い暗闇の道ではなく。

洞窟に入って直後に存在していた落とし穴だった。

暗い穴の中を、私達は落ちていく。



――――――――――


長くも、短くも感じる落下。

暗闇の中、私達は受け身も取れずに地面らしき場所へと落下した。

柔らかい。

運良く腐葉土が溜まった上へと落下出来たようだ。


先程まで居た森の中よりも薄暗く、しかしながら、ぽつりぽつりと存在している、オレンジの光を放つ鬼灯(ほおずき)のような植物のおかげで、そこまで暗さを感じる事はない。

周囲を見渡してみると、どうやらここは地面の下に出来た空洞のような場所らしい。

上には私達が落ちてきた穴があり、どうやっても現状上に戻る方法はなさそうだった。


そして、気付く。

周囲に緑の色が多い事に。

蔦が、草が、木が、地下だというのにそこには存在している事に。

そしてその中に、白の色……動物の骨らしきものも混じっている。


そんな場所の中心。

丁度、この地下空洞の中心には……蔦で出来た巨大な球体が存在していた。

上で見た蔦人形のようなものではなく、しっかりとした緑色のそれは……何かを貪っているように見える。

――猪だ。頭から豌豆の花を咲かせる猪に取り憑くように覆いかぶさり、最終的に、ミイラのように変えてしまう。

とりあえずの食事が終わったのか、それは全体をぶるりと震わせ、姿を変えていく。

球体から手のようなものが、足のようなものが生え、四足の動物に形を近づけていく。


蔦で出来た身体に、所々咲く豌豆や白粉の花。

その形状は、どこか熊に似ているように見えた。


――――――――――


【電脳樹のダンジョン 10層目】

【ボスが出現しました】

【個体名:『宿主達の蔦主君』】


ゲーム的な処理だったのか、一連の流れが終わるまで私達は身体を動かす事が出来なかった。


「メアリー!」

「それだけッ!」


しかしながら、それが終わったのか。

身体の制御が自分達に戻ってきた瞬間に、それぞれのやるべき事を行おうと身体を動かし始める。

【電脳樹のダンジョン】10層。

予想通りに、ボス戦の開始だ。


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