Chapter1 - Episode 17
合流後、事情を話した私はメアリーとパーティを組んだ上で【電脳樹のダンジョン】の2層目にてゴブリン達を探していた。
「よし、じゃあ使ってみます」
「すぐ援護するね」
「危なかったらよろしくです」
2層に出てくるゴブリンに今更ソロで苦戦する事もない。
行動パターン自体は覚えているし、不慮の事態が起きたとしてもメアリーが控えている為問題はないだろう……という判断だ。
メアリーの【範囲索敵】にてゴブリン達の位置を確認した後、私はそこに向かって走り始めた。
片手には回転式拳銃。もう片手を自由にしながらも、発動させる円陣の順番を考えながら。
まず最初に私とゴブリン達の間に、壁となるように【木の恵み】を発動させた。
『ギィ!?』
『ギギッ!!』
「成程」
緑色の波紋が広がると同時、私達の目の前には一本の青白い木が地面から生えてくる。
全てが青白い為、健康的とは言い難いものの……それは多くの葉を揺らしながら、緑色の波紋を定期的に発し始めた。
恐らくこの波紋が回復効果を付与するものなのだろう。私の視界に映る簡易ステータスには、ハートマークのアイコンが1つ新たに表示された。
ゴブリン達は突然出現した木に驚いたのか、手に持った剣で攻撃してみるものの。
思った以上にそれが硬いのか、弾かれてしまっている。『ウッド』の性質付与が何処に入っているかはイマイチ分からない。
樹皮のような防御力を持っている、と考えた方が良いだろうか。
「では、次」
ゴブリン達が【木の恵み】に夢中になっているうちに、私は次の円陣……【臆病な花畑】を木の周囲を目標に発動させてみた。
すると、【木の恵み】を中心に青白い光を弱々しく放つ円形の波紋が足元に広がっていく。
それは私とゴブリン達を範囲内に捉えると同時、一度脈を打つ。
「ぅっ……弱くてもキツいですねこれ」
『大丈夫?!』
「大丈夫です、メアリー。ダメージ自体は相殺出来てます」
私の視界はゆっくりと反時計回りで回転していく……ような錯覚を覚える。
見れば、簡易ステータスにはデフォルメされた人の頭に渦を描いたアイコンと、緑色の泡のアイコンが表示されていた。
恐らく、泡の方は毒の表示。
そしてもう一つ、頭の方は……恐らく目眩やそれに類するデバフだろう。
……効果自体は弱い。けど、この状態で走るのはとても……。
足に力は入る。しかし、回る視界の中でそれを十分に動かせるかは別問題だ。
事実、ゴブリン達は動こうとしては転倒し地面の上で藻掻いていた。
「無力化にはもってこい、でも……」
でも、慣れる。
少し耐えれば、回る視界に慣れて動けるようになっていく。
そう思い、未だ地面で藻掻くゴブリンに近づこうとして――再度、【臆病な花畑】が脈打った。
毒が強まり、更に景色が回っていく。
……これは不味い!
「かっ、解除ッ!メアリー!」
何とか声を発し、円陣の発動を解除しつつメアリーにゴブリン達のとどめをさしてもらうように頼む。
その意図を汲み取ってくれたのか、後方から青白い鳥が私を追い越しゴブリンの頭に留まった瞬間爆発した。
戦闘終了だ。
【木の恵み】を発動したままに、私はよろよろとダンジョンの壁の方へと近づきゆっくりと腰を下ろす。
慌てたようにメアリーがこちらへと走ってくる音を聴きつつ、目を閉じて今の現象……【臆病な花畑】の効果が強まった事について頭を回していく。
……原因は確実に『オシロイバナ』。毒性が強まるなんて副効果を付けた覚えはないからほぼ確定。じゃあ何故……。
そこまで考えた所で、メアリーに手渡された状態異常系の回復ポーションをゆっくり飲み、私の視界は正常に戻っていく。
「すいませんメアリー。助かりました」
「何が、あったの?」
「急にデバフが強まったんです。それこそ、今まで耐えられたものが耐えられなくなる程度には。毒の方は【木の恵み】でまだ耐えれたんですが……もう1つ、デバフの方がきつくてですね――」
そこまで言った所で、思い出す。
オシロイバナの別名……英語名が『Four o'clock』であることに。
「――もしかしたらそういう……?試す必要がありそうですが……」
そこから連想されたのは、『オシロイバナ』というオプションの性能が性質の悪いものであるかもしれないという仮定の話。
次は、自身を巻き込まないように試す必要があるだろう。





