Chapter1 - Episode 13
乾いた音が連続し、その後動物の短い悲鳴が小さく聞こえる。
だが、それで終わりではない。
最後の力を振り絞ったのか、こちらへと牙を突き立てようとする狼の頭に数本の矢が突き刺さる。
「ダメ押しです」
そうして怯んだ一瞬に、空いている片方の手から放たれた魔力の塊が命中し、その身体が消えていった。
【獲得アイテム:下級モンスターの核×3】
「お疲れ様です」
「お疲れ、様。索敵……するね」
薄暗い森の中、私とメアリーは狼の群れに襲われては撃退を繰り返していた。
現在、【電脳樹のダンジョン】6層目。
蔦人形の居た草原に出現した扉の先。
そこは遠目に見えていた森の中だった。
……出現するのは、狼とゴブリン。そして植物系のモンスター。中々に厄介ですね。
4層目までと違い、複数種類のモンスターが出現するようになり、それぞれが連携を取る様になった為、戦闘の難度が一段ほど上がったように思える。
また、狼……フォレストウルフは常に群れで行動しているらしく、今の所出会うのは最低でも3匹からという……対複数を強いられている状況だった。
「でも、やっぱり買って正解でしたね。武器」
「次、からは……相談、してね」
「分かってます。もうお説教はこりごりですから」
だが、苦戦はしていない。
私が【チュウイチ】で購入した回転式拳銃が中々に便利だったからだ。
スロットは1つ、入っている円陣は【弾生成】……メアリーの持つ弓に入っている円陣の弾バージョンではあるが、その威力は拳銃だからなのか比較にならない。
【魔力弾】に多少劣る程度の威力、連射出来る性能を持ち片手が空いている為、他の円陣を扱う事ができる。
メインの武器として持つには十分な性能だ。
「6発までしか連射出来ないのが難点と言えば難点でしょうか」
ただ、武器の弾倉の数からか6発までしか一度に連射することはできない。
弾倉内の弾を全て撃ち終わったら、一定時間のクールタイムを挟まないと次弾の生成が出来ないのは明確なデメリットだろう。
それが無かったら強すぎるのだが。
ともあれ、探索自体は新たな武器も合わせる事で順調に進んでいた。
森の中という今までと違った環境だからこその罠……状態異常を付与する胞子を吐くキノコなどもある為、油断は絶対に出来ない。
「当面の目標は10層ですかね」
「また、強いの出るかも?」
「1つの区切りとして考えるならボスでしょうね。どう考えても蔦人形はボスっぽい演出とか無かったですし」
目標は10層。
だが、それまでにやる事は多い。
使える円陣の数を増やした方が良いだろうし、装備も今のままでは心許ない。一度、フォレストウルフの攻撃を喰らってみて、どれほどのダメージを受けるのかを確かめておかねばならないだろう。
それ以外にも、『アイビー』以外のオプションを手に入れる事が出来るなら狙った方が戦術の幅が広がるはずだ。
だから、
「しばらくはお互い、やりたい事を優先で。準備が出来たら本攻略で行きましょう」
「いいの?」
「えぇ。少し掲示板を漁ってみたら、あの蔦人形とまた戦う方法もあるみたいですし……私が周回してる間、メアリーは暇になるでしょうから」
ゲーム特有の素材収集の為の周回。
蔦人形相手にやるものではあるが、回転式拳銃を手に入れ、行動パターンをある程度覚えた今の私なら1人でも出来る事だ。
それならば、わざわざメアリーを付き合わせる必要はない。
その辺りの説明をすると、メアリーは渋々といった風に頷いてくれた。
彼女としては、友人なのだから頼って欲しいのだろうが……頼るならば他の分野で頼みたい事があるのだ。
「それに、メアリーは【チュウイチ】で露店を出しているでしょう?そこで私が好きそうなオプションが売ってたり、それに関する情報が有ったら教えて欲しいんですよ」
「あぁ、お花?」
「そうですね、花系があれば使いたいです。それ以外だと『アイビー』みたいな植物系を」
「わかった」
そんな事を話していると、青白い鳥が私達へ向かって飛んできてメアリーの肩にとまる。
メアリーが蔦人形から入手したオプションは、私と同じ『アイビー』ではなく『バード』……円陣に鳥の性質を付与するもの。
そして今しがた彼女の肩にとまった鳥は、そのオプションが追加された【範囲索敵】だ。
モンスターが近くにいた場合、鳥がその方向を向いて教えてくれる。
メアリーは饒舌に話す方ではないため、視覚的に分かるというのは彼女にとってもこちらにとってもありがたいものだ。
「敵ですね。数は……」
「3、狼……かな」
「了解です。丁度いいので狩ったら今日は終わりにしましょう」





