Chapter1 - Episode 11
避ける、避ける、避ける――。
何度も見た攻撃を紙一重で躱し、自らの命が一瞬で消えかねない位置で足を動かし続ける。
見て、視て、観て――。
蔦による攻撃を見て、草刈り鎌による攻撃を視て、その枯れ鎧による攻撃を観て。
私は戦場で踊るかのように動き続けていた。
ゲーム内の補正はほぼ無いに等しい。
強いて言うならば、少しばかり動体視力などが上がっている程度だろうか。
それ以外は完全に『観察』故の結果。私が最初にこのゲーム内で戦ったゴブリンと同じ現象が今そこに起きていた。
この攻撃の後にはこの行動を、この行動の後には2パターンの攻撃を。その後は3パターンに分かれる繋ぎの動作を。全てが頭に入り、全てが身体を動かす指標となる。
そして全てが分かっているのならば……攻撃出来るタイミングも分かり切っているという事だ。
結果、蔦人形の鎧は砕け散る。
脆い下半身ではなく、動く度に音を鳴らしていたひび割れた上半身。それが今、大きな音を立てて砕け散った。
……ここッ!
誰に言うでもなく、私は自身の最大の札を相手に叩きつける。
手を向け、砕け落ちていく鎧の奥……緑色の蔦の塊に対して、魔力の種が飛んでいく。
こちらに蔦が複数向かってくると同時、その内の1つに私の放った【寄生種】が。
それ以外に後方から飛んできた矢や魔力の塊が命中していく。
びくん、と種の当たった蔦が動きを止めその場で震えた……ような気がした。
緑と青白い蔦が絡み合いつつも、お互いをお互いに浸食し合っているのかそれぞれに根が張られていく。
それと共に私のMPが急速に減りだした為、私は蔦人形から再び距離を取りつつ、インベントリ内からMP回復用のポーションを取り出しては飲むを繰り返す。
ここから先は根気の勝負であり、時間の勝負だ。
蔦人形側は、全体を私の蔦に覆われたらその時点で攻撃も何もなくなり負ける。
私側は、MPが回復できなくなったら【寄生種】を維持できなくなり負ける。
見れば、相手のHPバーは少ないながらも決して遅くない速度で減り続けていた。
「んん……メアリー、そっちのMPポーションも貰っていいですか?多分足りません」
「うん」
メアリーからMPポーションを貰いつつ、暫く待つと。
やがて蔦人形の抵抗が弱くなったのか、【寄生種】の勢いが増していき、蔦人形全体を青白い蔦で覆った後、その蔦の量からか中身を圧し潰した。
戦闘終了だ。
【獲得アイテム:奇豌豆の種×2、枯れ蔦の欠片×1、奇蔦の葉×1】
【初回ボーナス:オプション『アイビー』】
【中間ポータルが解放されました】
ログが流れると同時、私達の前に木製の扉が出現した。
警戒しつつ近付き、取り付けられたドアノブに触れると、【インガイ】へと戻るか先に進むかの選択肢が出現する。
「一度戻りましょうか」
「結構、消耗……しちゃったし、ね」
あまり積極的に戦闘に参加していないように見えるメアリーも、その実、弓による攻撃や索敵などでかなりMPを消費している。
もしかしたら総量で言えば私よりも消費量は多いだろう。
そのおかげで安全にここまで来れたのだから有り難い限りだ。
ダンジョンから帰還した後、私達は今日の所は解散しそれぞれ好きに過ごす事にした。
と言っても、私がやるのは今回の戦利品の確認がメインであり、それに伴った各種調整くらいなのだが。
マイルームに移動し、木の机に向かって今回のメインの戦利品……オプションについて詳しく確認していく。
今まで作成出来ず、尚且つ手に入れる目処も立っていなかったものの、円陣の詳細画面からその存在だけは知っていたソレ。
「成程、性質の付与……」
結論から言えば、オプションは円陣の新たな拡張要素らしい。
普通、円陣は私やメアリーが使っていた【魔力弾】などのように、作成時に決められた動作のみを機械的になぞるだけ。
しかしながら、このオプションを付けることでそこに様々な変化をもたらす事が可能となる。
例えば、円陣で創り出した炎が燃やすのではなく相手の熱を奪う様になったりと言ったふうに、通常ならばあり得ない挙動を実現させる事ができる。
その代わりとして、オプション無しの円陣に比べ使用時の制約などが厳しくなるらしいが……得られる効果を考えれば微々たるものだろう。
「私が手に入れた『アイビー』は……」
そして、私が手に入れたオプションは『アイビー』。
―――――
『アイビー』
種別:オプション
効果:蔦の特性を付与する
説明:絡み、締め付け、根を張り、花咲く
―――――
蔦の性質を円陣に付与できる、というオプションだ。
どこまで再現されるかは分からない。しかしながら、あるのとないのでは大きな違いがあるだろう。





