Chapter1 - Episode 10
短めです
こちらが取れる選択肢というのは少ない。
今は自身の中の集中力などのリソースを、出来る限り相手の『観察』に注いでいる為に攻撃を積極的にはしていないものの……実際攻撃をする場合にはかなり面倒であることは分かっている。
向こうは1体、こちらは2人ではあるものの、先程命中させた【魔力弾】でのHPの減りを考えるに合計で約20発以上命中させる必要があるのだ。
……さっきから気になるのは……あの身体。
振るわれる草刈り鎌を避けつつ、私は蔦人形の身体を、その動かし方を観察していた。
上半身の動きはあまり重要とは言えない。
問題は下半身。
枯れているはずの身体から新しい蔦が生え、身体を支え、フィールドを駆け回る。
何処から新たに成長する栄養が送られてきているのか……何故、すぐに朽ちていくのか。
外部から観察しているだけでは分からないかもしれないが、何かの突破口にはなるはずだ。
時折後方からメアリーによる【魔力弾】や魔力の矢が飛んでくるものの、ダメージ自体は私のものと大差はない。命中部分は上半身、下半身両方ではあるものの変わらない。
「メアリー、ちょっと無理します」
蔦人形が再度こちらへと近づくために走り出したのを確認すると同時、私も走り出す。
【寄生種】はまだ使わない。使うならばもう少しだけ観察してからだ。
お互いに走り出し、そしてその距離がほぼ零となる。
蔦人形は今まで通り、草刈り鎌を横に振るおうと。
私は……スライディングの要領で、蔦人形の股下を通り抜ける。
同時、手を股へと向け【魔力弾】を放った。
「――ティア!」
瞬間、私の身体は強い力で空中へと投げ出された。……否、蔦によって絡め取られ、持ち上げられていた。
「そういう、事ですか」
【魔力弾】は確かに股に命中した。
蔦人形はそれを避けも、防ぎもしなかった。
そもそもの前提が違うからだ。
あれは蔦人形ではなく、
「蔦、そのもの……!」
命中した股から見える、青々しい緑色の塊。
蔦が幾重にも重なり、糸玉のようになっているそれの中心には小さな黄色い目が1つ存在していた。
その目は何を言うでもなく、こちらをただ見つめ、私の身体に絡みついている蔦を地面へと叩きつけようとして……失敗する。
「ナイスですメアリー!」
私へと繋がる蔦を、メアリーが放った数本の矢が貫いたのだ。
決して低くは無い高さから落ち、HPが減るものの、何とか受け身を取りつつ距離を離す。
再生力、もしくは生長力が高いとでも言えばいいのか。貫かれ、途中で千切れた蔦はすぐに枯れ、また新しい蔦が生えてきた。
対してダメージは先程上半身に向けた【魔力弾】1発よりも削った量が多い。
たった数本の蔦を魔力の矢で千切っただけだというのに、だ。
「あの枯れてるのは天然の鎧ってことですか」
軽そうで大変使い勝手が良さそうだ。
だが、その分脆い。
特に下半身は【魔力弾】1発で破壊出来てしまう程度。鎧というには脆すぎる。
恐らく移動を担当する部位の為、硬くなってしまうと支障が出るのだろう。
上半身の遅さにも納得だ。
そして、
「勝ちの目は有りそうですね」
これだけ情報が出たならば、あとは攻めるだけ。
見ててもらっていたメアリーに、攻撃開始のハンドサインを送りつつ、メアリーの方へと動き出そうとした蔦人形の上半身に【魔力弾】を2発、両の手から放ちこちらへとヘイトを向ける。
……本当は私が武器とか持ってれば良かったんでしょうけど。
過ぎた事を考えても仕方ない。今後に活かせば問題ない。
パキキ……という音と共に、ひび割れ始めた枯れ蔦の鎧の隙間から、緑色の蔦が漏れ始めた。
第5層の戦闘、その見えないスタートラインにやっと立ったのだ。
ここからが本番だ。





