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Chapter1 - Episode 9


「準備は大丈夫ですか?」

「うん……ティ、ティアは?」

「こっちも大丈夫です。一旦1階層で作成した円陣の性能を確かめてから、一気に5階層まで行きましょう。道中に宝箱があったら開ける程度で」

「ん!」


再びメアリーと合流し、私達はダンジョンへと潜る。

前回は事故を恐れて一度引き返したが、今回は5階層へと到達する事が目的だ。その為に手に入れたゲーム内通貨をメアリーに渡し、回復アイテムをある程度確保してもらってきている。

安定して5階層まではいける……はずだ。




「……うわぁ」


目の前で起きた事に対して、思わず口から声が漏れてしまった。

現在1階層と2階層を繋ぐ階段の前……そこに居たゴブリンに対して、【寄生種】を使ってみた所……なのだが。

現在、私の目の前には胴体から青白い蔓が伸び全身を拘束されているゴブリンの姿があった。


……成程、『成長』したわけですね。合わせる副効果によってその方向性が変わるから分かり辛くなってる?

元は魔力で出来た種を1つ撃ち出ち、身体に植え付けるだけの低コストに抑えた牽制用の攻撃手段だと思っていたのだが……思っている以上に凶悪な性能となっているらしく。

私のMPと、ゴブリンのHPを吸ってどんどん蔓は育ち、最終的にゴブリンの身体が見えなくなる程の量となってしまった。


【獲得アイテム:下級モンスターの核×1】


「あ、終わったみたいですね」


ログが流れ、青白い蔓が消える。そこには当然ながら何も存在はしていなかった。

ここまで約20秒ほど。私のMP消費は発動に約1割、その後4割ほど削れて大体半分になるかならないかくらい。

消費が激しいものの……当たれば確実にゴブリンならば倒せる事、蔓による拘束効果もあると考えると十二分に良い切り札だと言えるだろう。

それをどのタイミングで切るか、HPが多い敵に対してMPは足りるのかという問題はあるものの、切り札なんてそんなものだ。


消費したMPを回復アイテムを使って補充した後、私達は5階層を目指して階段を降り始めた。



「宝箱はなし……弓は本当にラッキーだったみたいですね」

「凄く……助かっ、てるよ?」

「えぇ、私もです」


現在4階層。それも5階層へと続く階段の前。

ここまでの戦闘、探索においては別段語る事がない程度には順調に進んだ。

と言うのも、私の【寄生種】にメアリーの弓、そして彼女の新しい円陣……【範囲索敵】によってゴブリン達との接触がほぼ最低限で済んだからだ。

詳しい範囲自体は教えてもらわなかったものの、モンスターであれば索敵できるそれのおかげで消費が少なく済んでいるのは大変ありがたい。


「準備は良いですか?」

「だいじょぶ」

「では行きましょう」


5階層という、一種のキリが良い数字の階層。

何があっても起こってもおかしくは無い。

最後の確認としてHPやMPの補充などを行なった後、私達は階段を降りていく。

普通の階段。しかしながら途中から煉瓦製だったそれに少しずつ土が混ざり、青々とした草が生え、灯りとして付けられていた松明が光を放つ謎の植物へと変わっていった。

まるで【インガイ】からこのダンジョンへと降りていく時のような変化に嫌な予感を感じつつ、いつ戦闘が始まっても良いように改めて警戒していると。


【電脳樹のダンジョン 5層目】


「ここは……」

「草原、だね」


そこには草原が広がっていた。

ダンジョン内だというのに頭上には青い空が存在し、目の前には見渡す限りの草原。

遠目にしか見えないものの、奥には森のようなものも見えている。

だが、それだけではない。

人のようなものがそこには立っていた。


全身を茶色の蔦で覆い、目や口にあたる部分には空洞が空いているそれ。

約2、3メートルほどはあるだろうそれは、私達が完全に階段から降り切ると同時、目に当たる部分の空洞に光を灯した。

まるで蔦で作った人形のようだ。


「友好的とは……言えなさそうですね」

「ん、モンスター」


【範囲索敵】を使ったのであろうメアリーの言葉がきっかけになったのか、蔦人形の手に、木で出来た大きな草刈り鎌が出現した。


「普段通りに」


言った瞬間、こちらへと蔦人形が駆けてくる。

戦闘開始だ。

といってもまず最初に行うのは普段通りに観察。

行動パターンを覚え、隙を狙うのが戦闘の基本なのだから。


蔦人形はこちらへと向かってその身体を動かし駆けるように迫ってくる。

……走ってるように見えるけど、あれは違う。

脚部にあたる部分の蔦が朽ち、股辺りから新しい蔦が枯れながら伸びる事で前へと上半身を動かしている。

その速度は早く、一見すると走っているように見えるのだ。


だがその代わりに上半身の動きは遅い。

パキパキ、という小気味良い音を立てつつも、人間が棒を振るうように振りかぶって、


「ここですね」


私はその場にしゃがみ込んだ。

瞬間、頭上を風切り音が過ぎていく。

見た目に似合わずパワー自体はしっかりとあるようで、下手に当たると真っ二つになってしまうかもしれない。

そのまま後転の要領で距離を取りつつ、手を蔦人形に向け【魔力弾】を放った。

当たる。

しかしながら削れたHPは全体の5%ほどだろうか。今までに比べて随分とタフな敵が出てきたものだ、と心の中で嘆息した。


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