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メタルゴーレムの隠し機能

 ウッドストックの町長邸の庭には多くの食料や資材が積み上げられまるで臨時市場のようになっていた。


 逆に運送ギルドが管轄する今までの市場は逆に物資がなにもなく閑古鳥が鳴いていてソイルの思惑おもわくどおりだ。


 この臨時市場の管理運営をするブランはゴーレム輸送団の責任者のソイルに状況を確認した。


「ゴーレム軍団の輸送状況に問題は起きていないか?」


 するとソイルは力強く答える。


「最初の2日ほどは道路に落とし穴や爆破罠を仕掛けられたりと運送ギルドからの妨害が酷かったですが、ゴーレムが罠を飛び越えて回避するのがわかった今では妨害はありませんね」


 メタルゴーレムには強力な検知機能があり落とし穴ぐらいは簡単に発見回避出来たのだ。


 しかも道路を滑るように走る事しか出来ないと思っていたメタルゴーレムは罠を避けて凄まじい速度で空を飛べることが発覚した。


 セモリナさんが「ゴレ! ゴレ!」しか言わないメタルゴーレムに根気強く聞いてみるとどうやら飛行機能は元々付いていたらしいけど、燃費がすこぶる悪く使っていなかったそうだ。


 飛行機能を使うとすごく速く配送が済むけど、丸一日飛び回ると魔力タンクが空になって魔力の補充作業が必要なので正直めんどくさい。


 しかも魔力タンクの容量はダークゴーレム時代の10倍以上はあるので補充には時間が掛かって大変だ。


 ちなみに飛行機能を使わないと街道を一日走らせまくっても魔力は極僅かしか使わないのですこぶる燃費がいい。


 今は運送ギルドを追い詰める大切な時期なので燃費よりも時間重視で空を飛びまわって配送しまくってる。


 一日にウッドストック周辺村の約半数から物資を買い取って集めまくり、臨時市場に並べているのだ。


 ウッドストックの物資不足も解決し、むしろいつもよりも潤沢に物資が取り揃えられて物価が安いぐらいである。


 *


 ソイルとセモリナさんは今日も仕事を終え、冒険者ギルドの酒場へと食べに出掛ける。


 ジョンさんに「運送担当は朝が早いから先に仕事を上がってください」と言われてるから先に二人だけでお屋敷で食べてもいいんだけど、料理長も含めみんな夜遅くまで仮設市場の片付けの仕事をしているので仕事を中断してまでして料理を作って貰うと申し訳なく、先に食べづらい。


 他の人の仕事の邪魔をしないように、例の腕相撲勝負以仲良くなった冒険者のいる冒険者ギルドの酒場に出掛けて夕飯を食べるのが日課になっていた。


 料理を待っているといつもの冒険者が銀貨を差し出してきてウッドストックの腕相撲の王者となったセモリナさんに勝負を挑んでくる。


「セモリナのお嬢ちゃん、今日も腕相撲勝負してくれ」


「いいけど、今日は仕事し過ぎで疲れてるから負けちゃうかも」


 もちろん嘘である。


 あれ以来全戦全勝で負けたことは無い。


「今日はチャンスなのか?」


 嘘だと知らずに舞い上がる冒険者。


「銀貨じゃなくボアステーキなら勝負を受けてもいいわよ」


「しかたねーな。ボアステーキの大盛を一丁頼む」


 冒険者の方も負けるのを見越して先にウェイトレスに料理を注文してる辺り、いつも通りの光景だったりする。


「キッツー! あんたなかなかやるわね!」


 勝負はあっけなくつくと思いきやセモリナさんが少し苦戦している。


 もちろんセモリナさんの演技であった。


 勝負は30秒ほどの拮抗の後にセモリナさんが押し切って勝つと冒険者は悔しがる。


「くやしい! あと少しだったのにな。今日こそ勝てると思ったのによ」


 冒険者はジョッキを片手にしい試合を思い出しながら酒場の奥へと消えていった。


 ソイルがセモリナさんを褒める。


「接戦になる演技が随分上手くなったですね」


「あっさり勝ったら挑戦者がまた減るしね」


「それにしても前と比べるとずいぶんと挑戦者が減りましたね。儲けても10試合、1万ゴルダぐらいですか?」


「そうね。今来てるのは運試し感覚で挑戦してくる猛者ばかりで、普通の人はわたしに勝てないからもう挑戦してこなくなったわね。少し勝ちすぎたかしら?」


 セモリナさんは少し考えた後にいいこと思いついたと表情を明るくする。


「今日からソイルくんが前座をして」


「え? 僕が前座?」


「そう、ソイルくんが腕相撲の前座をして、前座のソイルくんに勝ったら初めて私への挑戦権が発生するの」


 剣技なら多少の自信があるソイルだったけど、見た目はそれほど強く見えないので客寄せになるのは間違いない。


 その後に控えるのはセモリナさんで、本人は手加減して負けるつもりは全く無いので挑戦者が負けるのは間違いないので結果は変わらない。


「でも、セモリナさんが負ける気は全く無いんでしょ?」


「もちろんよ。わたしはウッドストックの絶対王者だから負けるわけにはいかないの」


 負けるつもりがないなら今までと変わらないじゃないかとソイルは思ったんだけど違った。


「ソイルくんに勝てば銀貨1枚、王者への挑戦は30秒持てば銀貨5枚、そして勝てば銀貨100枚よ」


 銀貨100枚といえば10万ゴルダ、これは凄い。


 それに30秒間腕相撲勝負で持ちこたえるだけなら希望のありそうな難易度である。


 新たな挑戦者が来たので新しいルールを説明すると冒険者たちは乗り気だ。


「ソイルの坊ちゃんに勝つだけで銀貨1枚もらえるの? そしてセモリナのお嬢ちゃんに勝てば銀貨100枚?」


 この新ルールは普通の冒険者たちにめちゃくちゃ受けた。


 ソイルは5人に1人ぐらいガチの力比べで負けることもあったけど、セモリナさんと戦って30秒持つ挑戦者なんていなくて結局支払いは銀貨一枚のみ。


 一般人でも儲けられる可能性の生まれた新ルールの腕相撲勝負に大行列が出来て、ソイルたちは酒場が閉まるまでに30万ゴルダも儲けたのであった。

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