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ソイルのトドメ

 ソイルはブランたちに運送ギルドに大きなダメージを与える案を語り始めた。


「ウッドストックの食料不足はあくまでも運送ギルドの妨害で流通が止まってしまっているのが原因で、リヒト村から持って来た大量の小麦からわかるように食料自体は周辺の村にいくらでもあるんです」


「たしかにな」


 ブランはソイルが持ち込んだ大量の小麦の山を思い出す。


 ジョン町長が手で拍子を打ってなにかを思いつく。


「そこでゴーレムですか!」


「ええ、運送はゴーレムでなんとでもなります。でも流通の封鎖は運送ギルドの権限によって行われているのでジョンさんの出番なんです」


 ソイルがジョンさんに向けて語ると、ジョンさんは首を傾げる。


「僕が、ですか?」


「ウッドストックに流通ギルドの支部を出す許可はジョンさんが出しているんです。ギルド閉鎖の命令は今すぐに出せなくとも、道路封鎖の解除ぐらいジョンさんの町長としての権限で即可能です」


「そうなんですか?」


「そうなんです! 周辺の村から食料をかき集めて運送ギルドの連中を困らせましょう!」


「封鎖解除でグダグダ文句言う奴が居たら、俺が殴り飛ばしてやるぜ!」


 このソイルの案にブランさんもノリノリ。


 ジョンさんとセモリナさんは騒ぎが起きそうな予感がしてちょっと困ったような顔をしていた。


 *


「ジャガイモを持って来たぞー」


「「「おおお!」」」


 ゴーレム軍団が街道に設置された関所をぶっ壊しジョン町長亭に食料を積んで戻ってくると、多くの流通関係者が待ち構えていた。


 今日はイーメック村からジャガイモを買いだして来た。


 イーメック村の村人たちは無用なトラブルに巻き込まれるのを嫌がると思いきや、収穫したジャガイモが食料庫に入らずに困り果ててたので大歓迎だ。


 値段も運送ギルドに買い叩かれていた値段よりも高いのですごく喜ばれる。


 普段、町から出ないジョン町長が買い出しについて来てくれたのが歓迎された大きな理由かもしれない。


 大量の食料がジョン町長宅の庭に積みあがることになったが昼前にはすべての食料が捌けてウッドストックの町に平穏が取り戻されつつあるのだった。


 *


 ワーレン・トラス卿の腹心チャーリーは焦っている。


 青冷めた顔をする会計担当の部下コリンから報告を受けていた。


「チャーリー様、肉も小麦の価格も大暴落です。昨日までの価格の半値、平常時の4割高程度までたった1日で下落してしまいました」


「下落したと言っても相場の4割高だ。まだ焦る時間じゃない」


「でも、チャーリー様……」


「余計な報告は要らん。今後は平常時の相場まで戻る可能性があるのだから2割高ぐらいに値引きしてでも在庫を売りつくしてこい!」


 会計担当の部下は今まで屋台主に直接卸していた在庫が全く動かなくなっていたこと、明日には物価が1割高迄下がると予想されることをチャーリーに報告する前に部屋を追い出されてしまった。


 チャーリーは机に肘をつき頭を抱える。


 ウッドストックの町長宅に探りを入れていた直属の部下のブラックとの連絡が途絶え、ウッドストックの町には食料が潤沢とまでは言えないが流通し始め、屋台も料理店も朝から営業を始めている。


 ハーベスタ村からボア肉が持ち込まれたのは仕方ないとしても、主食のパン用の小麦まで流通し始めたのは明らかに計算外だった。


 このままでは一週間で町長の座を譲り受ける予定が、逆に運送ギルドの資金が完全にショートしてしまう。


「なにか、根本的な解決策を打たないとな……」


 ワーレン・トラス卿に相談すると、卿は机の引き出しから筆記用具を取り出すと書簡をしたためる。


「本家の連中に貸しを作りたくは無いんだが、これしか方法は無いか」


 したためたのは運送ギルドの規約改正案。


 ゴーレムでの運送も馬車と同じくギルドで管理するという物であった。


「ゴーレムを馬車輸送の代わりに使って市場を荒らされているのならば、ゴーレムもギルドで管理して奴らが扱えないようにしてしまえばいい。問題はこの書簡の効力が発揮されるのが早いか……」


 ワーレン・トラス卿は途中まで呟くとチャーリーに書簡を渡す。


 チャーリーはワーレントラス卿がなにを言いたいのかがわかっていた。


『問題はこの書簡の効力が発揮されるのが早いか、《《ギルドの資金が尽きるのが早いか》》』


 チャーリーは書簡を受け取り自分の執務室に戻ると同時に鈴を鳴らすと「レッド」と呟く。


 すると、赤黒い装束を着た女がとこからともなく現れ膝をつく。


「御用ですか?」


「これを北の都のキング・トラス卿に直接、大至急届けて返事を貰って来い」


「キ、キング・トラス卿ですか?」


 レッドと呼ばれた女は明らかに声が上ずっていた。


 キング・トラス卿と言えばトラス財閥の本家に当たる家系の当主であり王国の運送ギルド本部を長年牛耳っている家系だ。


 先輩の教育係のブラックでも会ったことが無いと聞いていて、まだ刺客を始めて半年ほどの新人が会える相手では無いのはレッドでもわかっていた。


「いいのですか? わたくしがそんな重要な重要な任務を受けてしまって……」


「ああ、お前しかいない」


 本来であればチャーリー自らが行かなければならないのだが、この非常事態に席を外すわけにもいかずブラックも音信不通でレッドに任せるしかない。


「はは!」


 レッドと言われる女は書簡と共に姿を消した。


 一人だけ残った執務室でチャーリーは後悔をする。


 ハーベスタ村の奴らの行動力はなんなんだ?


 防壁を予想外の短期間で作ったと思ったら、ムカデゴーレム迄開発しやがって。


 そして今度はメタルゴーレムを使った輸送軍団だと?


 ブランを魔の森に飲み込まれかけた小さな村の村長と侮っていたらとんでもない事になってしまった。


 このままでは奴らにギルドを潰されかねない。


 防壁の報告を聞いた時にワーレン・トラス卿が欲をかいて「ウッドストックの町を乗っ取りハーベスタ村を経済封鎖して乗っ取る」なんて言うバカげた計画を言い出したのを止めていれば……。


 今まで苦労して積み上げてきたものが無になってしまうではないか……。


 チャーリーは自身の失態とワーレン・トラス卿の強欲を止められなかったのを後悔しまくった。

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