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牢屋

 話を聞くと野盗と思った者たちは近隣の村の住民たちで、何者かに脅迫されゴーレム輸送部隊の足止めをしてるようだ。


「参ったな……。奴はこういう手段で出て来たのか」


 ブランは頭を抱える。


 頭に血の上ったままのブレイブは「こんな奴等、蹴散らせばいいだろ!」と吠えるがブランはそれは無理だという。


「なんでダメなんだよ?」


「俺が村長だからだ」


 それを聞いてブレイブは首を傾げるのでブランは説明をする。


「まあ、ブレイブの言うように切り捨てるなり蹴散らせば楽でいいんだがな」


「ならそうしろよ」


「それが出来ないから困ってるんじゃないか」


 ブレイブはブランがなぜ野盗を追い払えないのか理解できず再び首を傾げる。


 ブランはブレイブが理解できるように最初から話を始めた。


「大前提として俺はこの辺りの土地を管理する村長と言うことを覚えておいてくれ」


 領主の息子で有るソイルならわかっていた。


 村長であっても領地の管理者で領主代行のような立場だ。


 ブランが問題にしていることも気が付いていた。


「犯罪者は蹴散らせばいいんだが、それはあくまでも抵抗する相手に対してだ。無抵抗の相手の場合は村まで連行してしかるべき処罰を与えなければいけないという統治ルールがあるんだ」


 この国の領主に課せられる行動規範に治安の維持いう条項がある。


 どんなに小さな罪であっても犯したものを放置してはいけないという条項と、無抵抗の相手であれば法に則って裁かねばならないという条項がある。


 平和的で素晴らしい条項で他国からも評される法律ではあるが、運送ギルドのボスはこの法律を逆手に取りブランの行動に制限を掛けようとしていた。


「こいつらを見逃してはいけない、しかも手を縄で縛り上げて歩かせて連行しないといけないというルールがな」


「そんなの無視しちまえばいい。こんな荒れ地の中じゃこいつらを追い払っても誰も見ちゃいねえ」


「本当にそうかな? おい、コスモス、この辺りに怪しい影は見えねーか?」


 それを聞いたローズさんの姉で狩人のコスモスさんは辺りを索敵出来る『範囲哨戒』のスキルを発動。


 すぐに敵が発見できた。


「怪しいのが一匹潜んでる」


 草むらの中を目掛けて矢を放つと黒い影が逃げ出した。


「ほらな、俺が条項を破るのを監視してやがる奴がいる。奴は魔光機を使って俺が野盗を野に放つ所を撮影して俺をゆするネタを手に入れようと待ち構えていたんだ」


「マジかよ」


「俺がルールを破ったらそれに言い掛かりを付けて村長の座を乗っとる気かもしれん」


 さすがに村長の座を譲ることを要求することは無くとも、ウッドストックの町長の座を譲るのに協力させられるかもしれない。


「しかもこいつらを歩かせるとなると、ウッドストック迄さらに一日掛かるだろうから困ってるんだよ。その後はハーベスト村まで連れて行かないといけないので時間がどれだけ掛かるかわからん」


「こいつらもゴーレムに乗せてやればいいんじゃないか? 2時間もあればウッドストックに到着出来るだろ」


 ソイルはブレイブのアイデアに心の中で賛同したが世の中そんなに上手くいかないみたいだ。


「連行する手段は容疑者保護の為に徒歩か牢のみと決められてるんだ。ウッドストックに悪路対応の牢馬車が有ればいいんだが多分借りられないだろうな」


 今回の黒幕は馬車を管理している運送ギルドのボスである。


 そんな奴が馬車を貸してくれる訳もない。


 でも、ソイルはいいアイデアを思い付いたようだ。


「ブランさん、野盗は牢屋で運べばいいんですよね?」


「そうだが、牢屋なんて無いだろ?」


「土魔法で作ればいいんです」


 ソイルは土魔法のキューブを使い、コンテナぐらいのサイズの牢屋を作り上げた。


 キューブは1センタメトル角の細かいブロックで数が必要になるが大抵の物は作れる。


 ブランさんは「よくやった」とソイルを褒めるけど、これだけじゃダメらしい。


「牢屋は出来たが運搬手段はどうなる? 野盗を牢屋に閉じ込めて荒野の中に置き去りにするわけにもいかないだろ?」


「それならゴーレムで運搬すればいいんです」


「ゴーレムだと? それだと問題に……ならないのか!」


「そうです、あくまでも決められているのは牢屋で運ぶことのみ。馬で運ぼうが、騎獣で運ぼうが、ゴーレムで運ぼうが問題ないんです。ルール違反にはなりません」


 予備ゴーレムをトレーラーから取り外し、牢屋ゴーレムの出来上がり。


 野盗たちはウッドストックへは行かずに直接ハーベスト村へと運ばれることになった。


 出来上がった牢屋ゴーレムに野盗たちを押し込めると、普通に連行されると思っていた予定が狂い野盗たちがざわつき始めた。


 中には泣き叫ぶ者もいる。


「出してくれ! お前たちがウッドストックに到着するとリヒト村の俺の娘が!」


「頼む、妻だけは助けてくれ!」


「俺の息子を! 息子を!」


 ブランさんはそんな野盗たちを一喝する!


「騒ぐんじゃねえ! お前らはウッドストックの住民たちに混乱をもたらそうとしたんだ。その罪の分の罰は受けて貰う」


「でも、俺たちの家族が!」


「お前たちは脅されて野盗の真似事をしてただけなんだろ? 悪いことにはしねぇ! 家族は必ず助け出すからハーベスト村で安心して待っていろ」


「信じていいのか?」


「俺を信じず誰を信じる? 俺はハーベスト村のブランだぞ!」


 野盗たちは自信満々なブランさんの声に納得したようだ。


 ブランさんはケビンとジャズに指示を出す。


「ケビン、ジャズ! お前たちは野盗どもをハーベスト村に連行しろ!」


「わかった、任せとけ!」


 牢屋ゴーレムは野盗たちを乗せてハーベスト村へと向かう。


「ウッドストックはすぐ目の前だ! ものどもいくぞ!」


「「「おー!」」」


「「「ゴレ、ゴレ!」」」


 ソイルたちゴーレム輸送団はウッドストックの町へと再び歩み始めた。

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