何度めだ!
ウッドストックの町長宅へ行くと執事さんに応接間に通され待つように言われたんだけど、なんかもの凄く警戒されてるみたい。
用心棒みたいな人が4人も応接間に居る。
盗賊の親分みたいな見た目だからって警戒され過ぎだよブランさん。
「すごい警戒されてるみたいですね。昔、このお屋敷で大暴れとかして迷惑かけたんじゃないですか?」
ソイルが心配そうに聞くと村長のブランさんは笑い飛ばす。
「そんなことあったかな? 昔の事だからもう忘れちまったぜ」
「お父さんたら……村人以外に迷惑かけちゃダメでしょ」
セモリナさん、村人にも迷惑をかけてはいけません。
「そんなに警戒される仲じゃなかったのにおかしいな。がははは!」
これ絶対に迷惑掛けてたパターンだ。
ソイルがブランさんを問い詰めようとするが、そんな間もなくウッドストックの町長が飛び込むように応接間に入って来て嬉しそうな笑顔を見せる。
村長のブランさんが町長さんにお世話になったという話を聞いていたからブランさんより年上だと勝手に想像していたけど、ソイルの父親のロックよりも若く見え、実際の年齢も多分少し下だと思う。
町長はフレンドリーにブランに声を掛ける。
「やあ、お兄さん、お久しぶりです。連絡なしにいきなりどうしたんですか?」
「連絡できる伝手なんて無いからここに来るのはいつもいきなりだわな」
「そうでしたね」
そういって、「この方はお世話になった恩人ですから」といって町長は用心棒を部屋から下がらせる。
兄さんとは言ってるものの全く血は繋がって無い義兄弟みたいな関係だそうだ。
見かけない顔のソイルが居たことに気が付く町長。
「自己紹介を忘れていましたね。わたしはウッドストックの町長をしている『ジョン・フォレスター』と言います」
「この坊主はロックの息子でソイル・アンダーソンだ。ちなみにセモリナの婿になる予定だぜ」
「ソイル・アンダーソンです。よろしくお願いします」
「ロックさんの息子さんですか。わたしに女の子じゃなく男の子が生まれたらセモリナさんと結婚させて貰おうと思ってたんだけど先を越されてしまいましたね。あははは」
「いまから坊主が生まれるのを待ってたらセモリナがババアになっちまう……いだっ!」
ブランさんが余計な事を言うのでセモリナさんに思いっきりお尻を抓られていた。
「ところで、今日はどんな御用でやって来たんですか?」
「ソイルが俺の村に来たのを機会に、俺の村を本格的に開拓しようと思ってよ。それで挨拶に来たんだ」
「それは楽しみですね」
「それで開拓民の募集やら、商店やらギルドとかを出してもらいたくてお願いに来たんだが、頼まれてもらえるか?」
「わかりました。開拓民の募集と商店はわたしの伝手でなんとかしますが、ギルドの方は開拓される町の規模が大きくなるまでは厳しいかもしれません」
「1000人規模、いやそれ以上の街になる計画で既に防壁の建設も終わっているんだけど、それでもダメなのか?」
「1000人規模ですか……凄いですね。相談はしてみますけど、あまり期待しないで待っていてください」
それからも面会は続き雑談は弾んだが、ギルド誘致の取引に関してはあまり色良い返事は貰えなかった。
ブランさんは町長との面会を終えると「旧友と飲みに行ってくる」と言ってふらりと出かけて行ってしまった。
「お父さんたら、この町でやらないといけないことがあるのにしょうがないわね……」
セモリナさんはあきれ顔。
でもソイルにはブランさんとジョンさんとの面会が上手くいかなかったので旧友の伝手を頼ろうとしてるようにも見えた。
僕にも伝手が有ればこんな時どうにか出来たのに……とソイルは今迄の人生であまり人付き合いの良くなかった事を後悔した。
*
セモリナさんと宿屋に行く。
予約無しのいきなりの宿泊だったのでダブルベッドの部屋しか空いてないという。
「シングルの部屋が空いてないらしいけど、どうします?」
「ここしか宿屋はないのよ。しょうがないわね、仕方ないけど今夜はソイルくんと一緒のベッドで寝るわよ」
えっ?
マジでいいの?
もしかしてセモリナさんとムフフな展開とか……期待していいの?
「いいの?ってわたしたち婚約者だし成人だし、そんなのいいに決まってるでしょ」
いいのかよ?
じゃあ、今夜はセモリナさんとの初めての夜を……。
期待に胸を躍らせるソイルであったが、旅先でのセモリナさんの積極性に驚くと同時に気がかりなことがあった。
この部屋は二人用なんだけど、ブランさんはどうなるんだろ?
もう一つベッドを確保しないとまずいよな?
この町にはこの宿屋しかないし、空き部屋も無いと言ってるし。
「昼間から飲み歩いてるお父さんなんか、ソファーでも床でも寝かしておけばいいわ」
そう言うことね。
ベッドですることは本当にただ寝ることだけみたい。
さすがに父親のいる前でムフフな展開なんて無理だ。
*
夕飯迄時間が有ったので早馬の疲れを癒そうと宿で仮眠を取っていると、ベッドの毛布がもぞもぞとする。
セモリナさんがベッドに潜り込んできたんだな、と思って寝た振りを続けているとソイルの服を開けさせ胸に顔を寄り添わせた。
吐息が激しいのか髪が胸に当たってるのか、やたらとむず痒い。
セ、セモリナさん、なにしてるの?
思わず声が出そうになるのを耐えるソイル。
セモリナさんはソイルに口づけをすると、今度はズボンを降ろし始めた。
嘘だろ?
なんでこんなに積極的なんだよ?
セモリナさんの今までの清楚なイメージが崩れる。
やはり村から出て旅行をしているという、非日常の成せるアバンチュールなんだろうか?
ズボンを降ろし終えパンツに取り掛かろうとした時……。
バタン!
ドアが激しく開けられる音!
そしてドスドスと床を踏み鳴らす激しい足音。
「ケイトトトオ!」
そして上がる悲鳴。
「ぎゃーっ!」
「ソイルくんがぐっすり寝るまで買い物に出てたら、その間になにをしてくれてる!」
「いたい、いたい。頭われちゃう、中身出ちゃう!」
寝た振りをし続けつつ薄眼で見て見るとケイトさんがセモリナさんに頭を鷲掴みにされてバタバタと藻掻いている。
「この前ケイトに邪魔されて出来なかったソイルくんとの念願の添い寝が出来ると思ったのに、どうしてくれるのよ?」
「いたい、いたい。ご、ごめん、反省しています。急用があって来たんだけど、セモリナが出掛けている上にソイルくんが一人でぐっすり寝ていたからつい出来心で……もうしませんから許して下さい」
「何度めだ!」
部屋に入って来たのはセモリナさん。
昼間から夜這いを掛けて来たのはケイトさん。
その後、ケイトさんはセモリナさんにボコボコにされて瀕死の状態で床に転がされて夜まで目覚めることはありませんでした。




