ゴブリン討伐開始
「ソイルくん頑張ろうね」
「頑張っていいところを見せましょう」
セモリナさんと一緒にゴブリン砦に殴り込みを掛けようとしたら、ブランさんがソイルを呼び止める。
「セモリナ、お前はこれを担いで囮だ。ソイルはセモリナの準備が済むまでしばらく待機してくれ」
ブランさんはセモリナさんに弓矢を渡す。
作戦はこうだ。
普通に砦に乗り込んでも危険を察知したゴブリンが蜘蛛の子を散らすように逃げるのがオチなので、セモリナさんが誤ってゴブリン砦に迷い込んでしまった新人冒険者の娘の演技をする。
泣き叫びながら砦を逃げ回り、ゴブリンを引きつけ中心の見張り櫓に逃げ込む。
するとゴブリンたちは自ら砦に迷い込んだ新人冒険者と言う餌に殺到する。
その間に村人が砦を包囲だ。
遅れて追いついた新人冒険者役のソイルは仲間であるセモリナさんを死守する演技をする。
ソイルはあくまでも新人冒険者役なので櫓を根元で守るだけでいきなりゴブリンを倒しまくったりしてやり過ぎない。
その間にブレイブ、ローズの別動部隊の2人がゴブリンの棲み処である石造りの砦を破壊しゴブリンの逃げ隠れする場所を失くす。
砦の上に登っているセモリナさんがブレイブたちの進捗状況を監視、あらかた砦を破壊したのを確認したら反撃の狼煙を上げる。
するとソイルが本気を出して大暴れ。
ゴブリンは逃げ場を失い逃げ惑うが後の祭り、砦の周囲を包囲していた村人に殲滅される。
そんな作戦だった。
ソイルは作戦の緻密さに感心する。
「随分と良く出来た作戦ですね」
「ゴブリンもバカじゃないからな。これぐらい凝った作戦にしないと身軽なゴブリンは蜘蛛の子を散らすように逃げられて終わりだ」
脳筋とは言えどさすがは歴戦の冒険者である。
ブランさんはセモリナさんの背中を叩く。
「ほら行ってこい!」
「はい」
セモリナさんは「きゃーきゃー」言いながら女の子走りで砦中を走り回った後に大量のゴブリンを引き連れて櫓に登る。
次はソイルの番だ。
「行ってきます」
ソイルが村に入っていく。
「セモリナさんー? どこにいますー?」
わざとらしい演技をしながらセモリナさんが登った櫓へ一直線に向い、櫓の梯子を登ってセモリナさんを追い詰めようとしているゴブリンを引き剥がす。
ゴブリンを一通り梯子から引き剥がすと櫓の根元を陣取り臭いセリフを叫ぶ。
「僕の命がある限り、ここをゴブリン一匹たりとも通させはしない!」
突如現れた妨害者に怒りまくるゴブリンたち。
ソイルはゴブリンたちを盾で叩きつけ更に怒らせる。
ソイルの演技を見てブランは満足気だ。
「ソイルは初めてなのになかなか上手く演技をするな」
村長がソイルを褒めていたのが面白くないブレイブは苛立った。
「俺の出番はまだか?」
「行って来い!」
「いい所見せてやるぜ! ローズいくぞ!」
「うん! いこう!」
ブレイブとローズの砦破壊の別動部隊が出動。
ブレイブが砦を破壊して、ローズがブレイブの援護だ。
ここまでは良かったんだけど……。
ブレイブは気合を入れ過ぎた。
「ロックブレイク!」
いきなり槌で大技を放つブレイブ。
砦が一気に破壊され、爆音と土煙と振動が辺りに鳴り響く。
一瞬で砦が崩壊だ!
『うぎっ!(なにごとだ!)』
『うぎゃぎゃ!(別の侵入者だ!)』
『ぎぎぎゃ!(俺たちの家が壊されてる!)』
ゴブリンたちの意識はブレイブたちに集中。
当然、ゴブリンたちはソイルを放ってブレイブに殺到した。
慌てまくるブレイブとローズ。
「えええ? ゴブリンがこっちに来たわよ! どうすんのよ?」
「戦うしか無いだろ!」
「あんた、普段使ったことのない槌で戦えるの?」
「槌で戦ったことは無いけど、お前だけは俺の命にかけて絶対に守ってやるから」
「期待してるからね」
ソイルも焦りまくる。
「セモリナさんはそこから魔法で援護してて下さい。僕は助けに行ってきます!」
ブランも焦りまくった。
「やべーことになったな」
慌てて救出に向かうブラン。
ブレイブたちに殺到したゴブリンの数は1000匹を超えていた。
ソイルは盾を振り回しブランは拳で応戦をするがあまりにゴブリンの数が多く、倒しても倒してもブレイブの元にたどり着けない。
ブランさんはブレイブの安否を確認すべく大声を上げる。
「ブレイブ大丈夫か!?」
「大丈夫だけど、ローズを守るのが精一杯で身動きが取れねぇ! なんとかしてくれ!」
ソイルとブランがブレイブとローズを救出したのは五分後の事だった。
ゴブリンたちに殴られまくって全身ボコボコのブレイブ。
ブレイブが身を挺して庇ったローズは奇跡的に怪我一つ無かった。
「へへ、約束は守ったぜ」
そして静かになるブレイブ。
ローズがブレイブの異変に気が付いた。
「守ってくれてありがとう、ブレイブ……ブレイブ? ブレイブ!?」
肩を揺すっても微動だにしないブレイブ。
ローズの顔が真っ青になった。
「ブレイブ死んじゃ嫌! ねえ返事してよブレイブ!」
ローズはブレイブの胸で泣きじゃくるがブレイブは息をしていない。
「ブレイブ! ブレイブ! もう一度声をかけてよ!」
ローズの祈りが届いたのかブレイブが息を吹き返し目が開く。
「耳元でそんな大声で叫ばれたら、うるさくておちおち寝てられねーじゃねーか!」
「ブレイブのばか……」
死んだと思ったブレイブが生きていたのでほっと安堵するローズはブレイブの胸の中で泣き続けた。




